農薬業界の世界市場シェア・売上高ランキング・市場規模・M&Aについて分析をしています。シンジェンタ、バイエル、BASFといった大手農薬メーカーの概要や動向も掲載しています。
【農薬とは】
農薬には多くの種類があり、一般的には用途別で分類されます。農作物を害する病害虫を退治したり、雑草を除いたりするのに用いる薬剤として、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、誘引剤などがあります。他にも、農作物の生理機能の調整に用いる薬剤や、病害虫防除に利用する天敵などの生き物も含まれています。庭の植物に使う家庭園芸用の薬剤も病害虫から植物を守るという点から農薬に含まれています。ただし家庭で用いられる殺虫剤は衛生目的とみなされるため、農薬ではありません。また、発展途上国の労働力不足によって除草剤の割合が非常に大きくなっています。
【農薬業界の世界市場シェア+ランキング】
農薬メーカー各社の2023年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2023年の業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位はシンジェンタ、2位はバイエル、3位はBASFとなります。
農薬業界の世界市場シェアとランキング(2023年)
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | Syngenta(シンジェンタ) | 15.06% |
2位 | Bayer(バイエル) | 11.30% |
3位 | BASF(ビーエースエフ) | 10.40% |
4位 | Corteva(コルテバ) | 7.54% |
5位 | SUMITOMO CHEMICAL COMPANY, LIMITED(住友化学株式会社) | 4.42% |
6位 | FMC CORPORATION(エフエムシー) | 4.36% |
7位 | Adama Agricultural Solutions (アダマ) | 4.08% |
8位 | UPL(ユーピーエル) | 3.45% |
9位 | Nufarm Limited(ニューファーム) | 3.00% |
10位 | The Scotts Miracle-Gro Company(スコッツミラクルグロー) | 3.00% |
11位 | KUMIAI CHEMICAL INDUSTRY CO., LTD. (クミアイ化学工業株式会社) | 0.96% |
12位 | NIHON NOHYAKU CO.,LTD.(日本農薬株式会社) | 0.72% |
13位 | Nissan Chemical Corporation(日産化学株式会社) | 0.50% |
14位 | Nippon Soda Co.,Ltd. (日本曹達株式会社) | 0.43% |
1位にはスイスのシンジェンタが入っています。2016年に中国化工(ケムチャイナ)の傘下に入って以降業績が伸びています。また、同様に中国化工(ケムチャイナ)の傘下に入ったアダマが7位に入っています。2020年にこの2社は経営統合しました。
2位は2018年にモンサントを買収したバイエルです。
3位はドイツの世界最大級の化学品メーカーであるBASFです。
5位には日本の住友化学が入っています。
6位にはアメリカの農薬メーカーであるFMCが入っています。FMCは2017年にデュポンの除草剤と殺虫剤の事業を買収しました。
9位に入っているオーストラリアのニューファームは住友化学と資本提携関係にあります。
日本企業は住友化学の後にクミアイ化学工業、日本農薬、日産化学、日本曹達の順に入っています。
【農薬メーカーの売上高ランキング(四半期ベース)】
2023年度10〜12月四半期売上高をベースとした農薬メーカーの売上高ランキングでは、1位はシンジェンタ、2位はバイエル、3位はBASFとなっています。これは2023年度通年のランキングと同じ結果です。
四半期の売上高が直接公表されていないニューファーム、住友化学、UPLはランキングから除外しています。
通年のランキングと比較するとコルテバが順位を落としています。
*クミアイ化学工業は2023年11月~1月分の売上
【農薬業界の世界市場規模】
当サイトでは2023年の農薬業界の市場規模を1029億ドルとして市場シェアを計算しております。調査会社のThe Business Research Companyによれば農薬業界の2023年の市場規模は1029億ドルで2024年にかけて年平均成長率が10.7%で1138.6億ドルに、2024年から2028年にかけて年平均成長率が10.5%で同年に約1698億ドルに達すると予想しています。
(億ドル)
農薬市場の成長要因として2点挙げられます。
1点目は人口の増加に対してより多くの食料を確保する必要があるからです。
そのため農作物を有害な害虫から効果的かつ経済的に守れる農薬の需要は拡大していくとみられています。特に、アメリカ、中国、ブラジルでは農薬の使用量が多くなっています。
2点目は近年の気候状況の変化により、植物の病気や害虫の発生が増加しているからです。
特に高温は、農作物の生産量や品質の低下につながります。
しかし、抑制要因として害虫の農薬に対する耐性が増加している点があります。
⇒参照したデータの詳細情報
さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍と関連サイト
農薬概説
モンサント――世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業
新版 農薬の科学
化学業界の世界市場シェアの分析
【M&Aの動向】
2015年 デュポンとダウケミカルが経営統合
2016年 中国化工によるシンジェンタの買収
2016年 中国化工によるアダマの買収
2017年 BASFによるZedXの買収
2017年 FMCはデュポン(コルテバの旧名)の農薬事業の主要部分を買収し、同時に健康・栄養事業を売却
2017年 アダマとサノンダが合併し、世界で唯一中国企業と統合した農薬会社が設立
2017年 バイエルによるBASFへの一部除草剤事業の売却
2018年 バイエルによるモンサント買収
2018年 バイエルによるBASFへの野菜種子事業(Nunhems)の売却
2018年 UPLによるアリスタライフサイエンスの買収
2018年 ニューファームがアダマとシンジェタのヨーロッパでの農薬製品事業を買収
2018年 ニューファームがFMCのヨーロッパの除草剤事業を買収
2019年 住友化学によるインドの農薬メーカーエクセル・クロップ・ケアを買収
2020年 住友化学による豪ニューファーム社からのブラジル、アルゼンチン、チリ、コロンビアの事業の買収
2020年 中国化工集団(ケムチャイナ)傘下のシンジェンタとアダマが経営統合
2020年 シンジェンタによるイタリアの大手生物学的製剤会社のヴァラグロを買収
2020年 中国化工集団と中国中化工集団が農業事業を統合してシンジェンタ・グループを設立
2021年 アダマがJiangsu Huifeng Bio Agriculture社の株式の過半数を取得
2021年 クミアイ化学工業はシンガポールの農薬製造販売会社Asiatic Aguricultural Industriesを買収
2022年 バイエルがドイツのタージェノミクスを買収
2022年 コルテバによるストーラー・グループ買収
2022年 FMCによるBioPhero ApSの買収
2023年 バイエルはNIABのイチゴ事業を買収
2023年 コルテバによるシンボルグ買収
2023年 住友化学によるFBサイエンス買収
2023年 住友化学はBarrixを買収し昆虫フェロモンを活用した害虫駆除事業に参入
2024年 UPLがコルテバの一部地域のマンゼブ事業を買収
大規模な農薬メーカーは世界各地に進出するために、地元の企業の買収を行うためほかの業界に比べてM&Aが非常に盛んです。
また異なる専門分野を持つ企業が専門知識を共有し、さらなる発展のために経営統合が多いのも特徴的です。
農薬業界のM&Aの目安として買収時点の企業価値に対する売上高のマルチプルを見ると、直近の買収マルチプル(売上高倍率)は、5倍以下となっています。
2017年のバイエルによるBASFへの一部除草剤事業の売却の案件で売上高マルチプルが最大です。
2018年のバイエルによるモンサントの買収案件の規模が最大となっています。
【会社の概要】
Syngenta(シンジェンタ)
シンジェンタはスイスに本拠を置く世界的なアグリ関連メーカーです。2000年にノバルティスとゼネカのアグリ事業が統合して誕生しました。農薬や種苗に強みを持ちます。2016年に中国の国有化学メーカーの中国化工集団(ケムチャイナ)が買収しました。さらに詳しく
China National Chemical Corporation(中国化工集団、ケムチャイナ)
中国化工集団(ケムチャイナ、ChemChina、China National Chemical Corporation )はRen Jianxin(任建新)氏によって設立されたChina National Blue Star Corp(藍星) と China Haohua Chemical Industrial Corp(昊華)が2004年に経営統合して誕生した中国政府系の化学メーカーです。中国政府が100%株式を保有しています。農薬、ゴム、シリコーンや機能性化学等の分野で事業展開しています。2021年に国営化学会社のシノケムと経営統合をし中国中化(シノケム)ホールディングス傘下になりました。さらに詳しく
Novartis(ノバルティス)
Novartis(ノバルティス)は、スイスに本拠を置く世界最大級の製薬メーカーです。後発医薬品メーカー大手のSandoz(サンド)を傘下に保有しています。2014年に英グラクソ・スミスクラインの抗がん剤事業を160億ドルで、2017年にフランスの放射性医薬品会社アドバンスト・アクセレーター・アプリケーションズを39億ドルで、2018年に米国のがん治療薬メーカーであるエンドサイトを21億ドルで買収すると発表する一方で、コンタクトレンズ会社のアルコンは分社化、大衆薬事業は合弁相手のグラクソ・スミスクラインに売却し、先端医薬品分野を強化しています。さらに詳しく
Bayer(バイエル)
Bayer AG(バイエル)は、1863年にフリードリヒ・バイエル氏によって設立されたドイツに本拠を置く世界的な医薬品・化学品メーカーです。アスピリンの発明で有名です。第二次世界大戦中には、BASF、ヘキストとともにIG・ファルベンを形成しました。戦後にバイエルとして独立し、数々の買収や事業の売却を行っています。農薬・種子事業、ファーマスーティカル事業、コンシューマーヘルス事業が3本柱です。2015年にはマテリアルサイエンス部門をコベストロ(Covestro)として分社化・独立させています。農薬・種子事業においては、2016年にモンサントを買収し、農薬ビッグ4を一歩引き離す存在となりました。種子分野でも上位に入っています。なお、香料大手であるシムライズは、2002年に同社の子会社であったHaamann & Reimer社とDragoco社が経営統合をし、誕生した経緯があります。さらに詳しく
BASF(ビーエースエフ)
BASFは、1865年に設立された世界最大級の独化学メーカーです。バイエル、ヘキスト(現サノフィ・アヴェンティス)と並ぶドイツ三大化学メーカーの一角となっています。BASFとはバーデン・アニリン・ウント・ソーダ(Badische Anilin- und Soda-Fabrik)の略です。BASFの読み方はバスフでなく、ビーエーエスエフです。アンモニアの量産を可能にしたハーバー・ボッシュ法を発明したことでも有名です。化学業界の売上高ランキングでは、世界1位の座が定番の総合化学の雄と言えます。現在は、石油化学品、高性能製品、機能性材料、農薬事業を展開しています。さらに詳しく
Corteva(コルテバ)
コルテバは、世界大手化学メーカーであるダウケミカル(Dow Chemical)とデュポン(E.I du Pont de Nemours)の2015年の経営統合に伴い、両社の農薬子会社が経営統合して、2019年に誕生しました。ダウケミカルの農薬事業は、米Rohm and Haas(ローム・アンド・ハース)の流れを汲むDow AgroSciences(ダウ・アグロサイエンス)でした。トウモロコシ、大豆、ひまわり、小麦などの種子と除草剤と殺虫剤といった農薬事業を手掛けます。さらに詳しく
Dow Chemical(ダウケミカル)
ダウは、1897年にHerbert Henry Dow氏によって設立された米国に本拠を置く世界最大級の総合化学メーカーです。祖業は漂白剤と臭化カリウムです。その後、ユニオンカーバイド(Union Carbide)やローム・アンド・ハースの買収を通じて成長しました。2015年に米同業のデュポンと経営統合しましたが、2019年に素材事業を担う新生ダウ、特殊産業材のデュポン、農薬のコルテバアグリサイエンスへと分社化されました。シリコーンはダウシリコーンが展開しています。コーティング剤、プラスチック、アクリル樹脂原料・メチルメタクリレートにも強みを持ちます。さらに詳しく
E.I du Pont de Nemours(デュポン)
デュポン・ドゥ・ヌムール(E.I du Pont de Nemours)は、1802年にフランス人のエルテール・イレネー・デュポンによって設立された世界最大級の化学メーカーです。2015年米同業のダウケミカルと経営統合しましたが、特殊産業材事業が分社化され新生デュポンとなりました。2011年にデンマークに本拠を置く食品成分大手であるDanisco(ダニスコ)を買収し、ニュートリション&バイオサイエンス事業で食品成分事業を強化していましたが、同事業は2019年に香料大手のIFFとの経営統合し、香料と食品成分を手掛ける総合食品成分会社となりました。水処理膜事業についてはDuPont Water Technology(デュポンウォーターテクノロジー)で展開しています。RO膜に強みがあります。さらに詳しく
SUMITOMO CHEMICAL COMPANY, LIMITED(住友化学株式会社)
住友化学は、1913年に別子銅山の煙害解消のために銅鉱石中の硫黄を取り出して肥料を製造する住友肥料製造所として設立されました。現在は、エッセンシャルケミカルズ、エネルギー・機能材料、情報電子化学、健康・農業関連事業、医薬品の5事業分野にわたる日本の総合化学メーカーです。サウジ・アラムコと組んで世界最大級の石油コンビナート(ラービグプロジェクト)を運営しています。機能性化学の分野では、偏光板で日東電工と並び、世界大手の1角となっています。また、メチオニンにも強みがあります。農薬の分野では、バイエル、BASF、コルテバ、シンジェンタのビッグ4に次ぐ準大手のポジションです。アクリル樹脂原料(MMA)は三菱ケミカルと双璧です。持分法子会社の住友精化で高吸水性樹脂事業を行っています。さらに詳しく
FMC CORPORATION(エフエムシー)
FMCは、1883年に設立されたアメリカの農薬メーカーです。ジェネリック農薬に強みを持ちます。2017年にデュポンの除草剤と殺虫剤の事業を買収し、同時に健康・栄養事業を売却しました。また、40年以上行っていたリチウム事業のFMC Lithiumを分離し、Livent(ライベント)に改名しました。さらに、50か国以上で事業を展開しており、日本では2001年に設立し、殺虫剤、除草剤、殺菌剤などの販売を行っています。
Adama Agricultural Solutions (アダマ)
アダマはイスラエルの大手農薬メーカーでジェネリック農薬に強みを持ちます。
1997年に農薬メーカーであるマクテシムとアガンが合併し、マクテシム・アガンとして誕生しました。その後2014年にアダマに社名を変更しました。2016年に中国化工集団(ケムチャイナ)に買収され、傘下に入りました。2017年にはサンノダと合併し、2020年には同じ中国化工集団傘下のシンジェンタと経営統合しました。
UPL(ユーピーエル)
1969年に設立されたインドのムンバイに本社を置くインド最大の農薬メーカーです。除草剤、殺菌剤、殺虫剤の事業を取り扱っています。創業当初はUnited Phosphorus Limitedでしたが2013年に今のUPLに社名を変更しました。その後2018年にはアリスタライフサイエンスを、2024年にはコルテバの一部地域のマンゼブという保護殺菌剤事業を買収しました。
Nufarm Limited(ニューファーム)
ニューファームはオーストラリアのメルボルンに本社を置く種子や農薬の開発・販売を行う会社です。2018年にアダマとシンジェタのヨーロッパでの農薬製品事業とFMCのヨーロッパの除草剤事業を買収しました。2020年には住友化学に南米での事業を売却しました。また住友化学はニューファームの筆頭株主で、両社は資本提携関係にあります。
The Scotts Miracle-Gro Company(スコッツミラクルグロー)
スコッツミラクルグローは1868年に設立されたアメリカのオハイオ州に本社を置く会社です。北米を中心に家庭菜園用肥料、殺虫剤、除草剤などの製造・販売を行う会社です。
KUMIAI CHEMICAL INDUSTRY CO., LTD.(クミアイ化学工業株式会社)
クミアイ化学工業は1949年に設立されました。そして、1962年に上場し、現在は東証プライム市場に上場しています。事業内容は農薬事業、有機中間体やアミン硬化剤などの化成品事業を行っています。特に農薬に関しては世界50か国に販売しています。
2021年にはシンガポールの農薬製造販売会社Asiatic Aguricultural Industriesを買収しました。
NIHON NOHYAKU CO.,LTD.(日本農薬株式会社)
日本農薬は1928年に日本初の農薬専業メーカーとして誕生しました。その後1963年に旧東証2部に上場し、現在は東証プライム市場に上場しています。事業内容は農薬事業、微生物資材や防霜資材などの作物保護資材、化学品事業、医薬・動物薬事業などを行っています。
また、売上高構成比では海外での農薬の販売が最も高く、7割以上を占めています。その中でもブラジル、インド、アメリカの順で出荷額が高いです。また2020年にリリースした「レイミーのAI病害虫雑草診断」は写真から防害虫や雑草を診断し、有効な防除薬剤の情報を提供するアプリです。
Nissan Chemical Corporation(日産化学株式会社)
日産化学は日本初の化学肥料製造会社として1921年に設立されました。その後1949年に上場し、現在は東証プライム市場に上場しています。事業内容には化学品事業、ディスプレイや半導体の材料の製造を行う機能性材料事業、農薬や動物用医薬品を含む農業化学品事業、医薬品の開発を行うヘルスケア事業などが含まれています。
Nippon Soda Co., Ltd. (日本曹達株式会社)
日本曹達は1920年に設立され、その後1949年に上場し、現在は東証プライム市場に上場しています。事業内容は農薬や肥料を開発するアグリビジネス事業、抗生物質の原薬の供給を行う医薬品事業、独自性の高い製品を製造する機能性化学品事、排水処理に有効な製品の開発を行う環境化学品事業、基礎化学品を製造するクロールアルカリ事業などを行っています。
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