北米における空調機やエアコン業界の世界市場シェア・市場規模・M&A(合併買収)について分析しています。北米トップ4であるダイキン、トレイン・テクノロジー、キャリア、ジョンソン・コントロールズ並びにレノックスの概要や各種経営指標も掲載しています。旧ユナイテッド・テクノロジーズからキャリアが、インガソール・ランドからはトレイン・テクノロジーが分社化するなど、今後も更なる業界再編の可能性があります。
市場シェア(2021年)
空調機・エアコンメーカー各社の2021年のHVAC事業の北米地域における売上高を分子に、後述する市場規模を分母にして、2021年の空調機・エアコン業界の市場シェア(北米)を簡易に算出すると、1位はトレイン・テクノロジーズ、2位はダイキン、3位はキャリアとなります。
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | トレイン・テクノロジーズ | 20.6% |
2位 | ダイキン | 16.9% |
3位 | キャリア | 15.9% |
4位 | ジョンソン・コントロールズ | 15.1% |
5位 | レノックス | 8.3% |
出所:各社アニュアルレポート等から2021年1月~12月の北米空調事業の売上高をディールラボが推計し作成

出所:各社アニュアルレポート等から2021年1月~12月の北米空調事業の売上高をディールラボが推計し作成
2020年の北米業界の市場シェアランキングは、1位トレイン、2位ジョンソン・コントロールズ、3位キャリア、4位ダイキンでした。2021年は、ダイキンが2位に浮上し、ダイキンの躍進が目立ちます。
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出所:各社アニュアルレポート等から2020年1月~12月の北米空調事業の売上高をディールラボが推計し作成
北米市場は、ダクト式の空調が主流で、ダクトレス式の空調を得意とする日系メーカーの参入障壁と言われておりました。
ダイキンは、2008年に大型空調機に強いマッケイ(OYLインダストリーズ)、2012年に住宅向け空調機器に強いグッドマン、2016年にエアフィルタに強いフランダースを買収し、現地に適した機器を拡充しています。
同社が得意とする省エネやインバータ技術や冷媒技術の組み合わせが、躍進の背景と考えられます。また2020年以降、アブコ、サーマルサプライ、エアレップを買収し、販路の強化や保守メンテナンスの拡充も図っています。
米国事業の拡大とともに、ダイキンの時価総額も日経平均をアウトパフォーマンスしています。
ダイキンのM&Aと時価総額の向上

北米空調大手3社の指標比較
北米空調大手のトレイン・テクノロジーズ、ダイキン、キャリアの配当性、ROE、売上高成長率(過去3年)を比較すると下表の通りとなります。配当性ではトレインが、ROEではキャリアが、売上高成長率ではダイキンが他社を上回っています。
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*配当性向は2022年7月8日時点のTTMベースで計算しています。
**ROEは直前期の当期利益と期初と期末の自己資本額の平均値から計算をしています。
***売上高成長率は直前期を基準に過去3年間の年平均成長率(CAGR)を計算しています。
売上構成の比較
また、地域別売上高を見てみると、米系2社は米国事業の比率が高い一方で、ダイキンが、米国、中国、日本、欧州とバランスよく事業を展開していることも特徴です。

トレインの売上構成が物語っている通り、消費者の嗜好やダクト&ダクトレスといった技術様式が異なるHVAC領域で、グローバル展開は、従来非常に難しいと考えられていました。そうした通説を覆すべく、HVAC系のプレイヤーとしては、ダイキンがグローバル展開を成功させており、今後に期待ができそうです。
市場規模
当データベースでは、北米HVAC業界(空調及びエアコン)の2021年の市場規模を436億ドルとしております。参照した統計や調査情報は以下の通りです。
調査会社のフォーチュンビジネスインサイツによると、2020年および2021年の北米HVAC市場の規模は398.2億ドル、416.7億ドルとなります。2022年には436.7億ドルへ拡大し、2029年に向けて年平均5.2%で成長し、同年には623.1億ドルへと更なる拡大を見込んでいます。
インバータ化が進んでおらずポテンシャルが大きいこと、更なるグリーン(省エネ)ビルディングやスマートシステムへの投資が見込まれていることが、市場拡大の見込みの背景となります。
調査会社のエキスパートマーケットリサーチによると、2021年の同地域におけるHVAC市場の規模は456.4億ドルとなります。2027年にかけて年平均4.1%で成長することを見込みます。⇒参照したデータの詳細情報
年 | 市場規模 | 成長率* |
---|---|---|
2029年 | 623億ドル | 5.2% |
2021年 | 436億ドル | 9.5% |
2020年 | 398億ドル | n/a |
*2021年は前年比成長率、2029年は、2022年~2029年までの年平均成長率(CAGR)見込み
当データベースでは、HVAC業界(空調及びエアコン)の2021年の世界の市場規模を2000億ドルとしております。よって、北米は世界の市場規模の約20~30%を占める巨大な市場です。
三井物産戦略研究所によると、2020年の世界の市場規模は21.8兆円で、日本の市場規模(2020年)は約1.8兆円です。北米は日本の約3倍程度の規模と推計されます。⇒参照したデータの詳細情報
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市場の分類
HVAC市場は、暖房、換気、冷房といったHVAC機器の製造販売を行う機器事業と、ソリューション事業に分類されます。近年は、機器の販売だけでなく、施設全体のエネルギーマネジメントや効率的な保守運営の観点からHVACシステムを組み合わせるソリューション事業の比重も大きくなっています。
暖房、換気、冷房の機器は、ヒートポンプ、ボイラー、清浄機、換気扇、除湿器・加湿器、ユニットエアコン、VRFシステム、チラー、ポータブルエアコンなどへとさらに細分化されます。

北米における主要なM&A(合併・買収)
- 1979年 ユナイテッド・テクノロジーズ社によるキャリア買収
- 2007年 Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)によるTrane(トレイン)の買収
- 2011年 美的集団によるCarrierの南米事業の買収
- 2012年 ダイキンによるグッドマングローバル買収
- 2014年 ジョンソンコントロールズによる米Air Distribution Technologiesの買収
- 2016年 ダイキンによる米Flanders(フランダース)の買収
- 2016年 ジョンソンコントロールズとタイコの経営統合
- 2018年 三菱電機とインガソール・ランドによるダクトレス空調機販売の合弁会社設立
- 2018年 ユナイテッド・テクノロジーズによるキャリアの分社化
- 2020年 インガソール・ランドによるトレインテクノロジーズの分社化
- 2020年 ダイキンによる空調販売店のアブコ、ロビンソン、スティーブンスの買収
- 2021年 キャリアが東芝キャリアを子会社化
- 2021年 ダイキンによる空調卸のサーマルサプライや業務用空調販売のエアレップスの買収
北米における空調の主要プレーヤー概略
ダイキン
ダイキンは、1924年に設立された日本を代表する空調機メーカーです。産業用の冷暖房空調機では世界トップ級です。ダクト方式に強い米グッドマンやマレーシアのエアコン大手OYL社を買収する等して世界的に事業を展開しています。国内ではパナソニックと家庭用エアコンの分野で競っています。フッ素化合物などの化学品事業も行っています。さらに詳しく
Carrier Corporation(キャリア)
キャリアグローバルは、米国に本拠を置く冷暖房空調機の大手メーカーです。元々は航空機エンジン、エレベーター等の大手であるUnited Technologies(ユナイテッド・テクノロジーズ)の子会社でした。2020年にユナイテッド・テクノロジーズは、空調機事業(キャリアグローバル)、エレベーター事業(Otis)と航空機部品事業へと分社化しました。冷暖房空調に加え、輸送用冷蔵機器や火災報知器にも強みを持ちます。さらに詳しく
York International Corporation(ヨーク・インターナショナル・コーポレーション)
米国に本拠を置く産業用冷暖房空調機メーカーです。建物用自動空調制御装置や自動車用バッテリー等の製造を行うJohnson Controls(ジョンソンコントロールズ)の子会社です。2015年に日立アプライアンスと空調機分野で合弁会社を設立しました。Johnson Controlsは米タイコ・インターナショナルと2016年に経営統合し、その後自動車部品事業などを分社化しています。
ジョンソンコントロールズについて
Johnson Controls(ジョンソンコントロールズ)は、1885年に設立された米国に本社を置く業務用空調制御システム、セキュリティシステム、火災検知システム、ビル管理サービスを提供する会社です。電気式サーモスタットを発明した歴史を持ちます。2016年に火災警報分野に強いTyco(タイコ・インターナショナル)と経営統合をしました。世界150ヵ国で展開し、エネルギー効率ソリューションや各種オートメーション事業を展開しています。自動車用のバッテリー等の分野に強みがありましたが2018年に売却しました。さらに詳しく
Trane Technologies(トレイン・テクノロジーズ)
トレイン・テクノロジーズは、米国に本拠を置く産業用冷暖房空調機メーカーです。輸送温度コントロール設備、ゴルフカート、エアコンプレッサー等を手掛ける米Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)の子会社でしたが、2020年トレイン・テクノロジーズとして分社化独立を果たしています。インガソールランド以前は、衛生陶器等も手掛けたAmerican Standard(アメリカンスタンダード)社のグループ会社であったこともあります。さらに詳しく
インガソール・ランドについて
Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)は、1871年に創業された米国に本拠を置く産業機器メーカーです。2020年に真空ポンプ、コンプレッサー等の産業機械メーカーであるGardner Denver(ガードナーデンバー)と経営統合を行いました。統合に先立ち、空調事業はトレーン・テクノロジーズとして分社化しています。インガソール・ランドからは、過去、鍵のアレジオン、冷凍ショーケースのハスマン(2015年にパナソニックへ売却)等各分野でトップクラスの企業が巣立っております。コンプレッサー・エアツールや輸送用冷凍装置の分野でも強いです。ゴルフカートでは、クラブカーブランドを展開し、世界最大級の規模ですが、2021年にプラチナムエクイティへ売却をしました。さらに詳しく
Lennox International(レノックス)
1895年に設立された米国に本拠を置く冷暖房空調機メーカーです。住宅及び産業向けの空調事業と商業用冷蔵庫事業に強みを持ちます。冷蔵庫事業では、生鮮品を保存のためのユニットクーラー、流体冷却器、空冷式コンデンサー、エアハンドラー、冷蔵ラックシステムといった製品をスーパーマーケット、コンビニエンスストア、レストラン、倉庫、配送センターに納入しています。
参照したデータの詳細情報について