北米における空調機やエアコン業界の世界市場シェア・市場規模・M&A(合併買収)について分析しています。北米トップ4であるトレイン・テクノロジーズ、ダイキン、キャリア、ジョンソン・コントロールズ並びにレノックスの概要や各種経営指標も掲載しています。
【市場シェア】
空調機・エアコンメーカー各社の2022年のHVAC事業の北米地域における売上高を分子に、後述する市場規模を分母にして、2022年の空調機・エアコン業界の市場シェア(北米)を簡易に算出すると、1位はトレイン・テクノロジーズ、2位はダイキン、3位はキャリアとなります。
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | トレイン・テクノロジーズ | 20.9% |
2位 | ダイキン | 17.5% |
3位 | キャリア | 15.6% |
4位 | ジョンソン・コントロールズ | 14.5% |
5位 | レノックス | 8.3% |
出所:各社アニュアルレポート等から2022年1月~12月の北米空調事業の売上高をディールラボが推計し作成
2020年の北米HVAC市場シェア
2021年、2022年の上位5社で市場シェアの順位を比較すると変わらずトレイン・テクノロジーズが首位を維持しました。市場シェアの率を比較すると、キャリア、ジョンソン・コントロールズ、レノックスが、減少、横ばいとなっていることに対して、上位2社のトレイン・テクノロジーズ、ダイキンはシェアを伸ばしています。北米における空調業界の市場規模を当データベースでは2021年は436億ドル、2022年は496億ドルとしております。約14%の市場成長のなかで、売上高を大きく伸ばした上位2社が更にシェアを拡大している形となっています。
特にダイキンは市場が成長している中でもシェアを大きく伸ばしており、近年のM&A戦略と販売力・供給力強化の戦略が好走していると考えられます。
北米市場は、ダクト式の空調が主流で、ダクトレス式の空調を得意とする日系メーカーの参入障壁と言われておりました。
ダイキンは、2008年に大型空調機に強いマッケイ(OYLインダストリーズ)、2012年に住宅向け空調機器に強いグッドマンを買収し、現地に適した機器を拡充しています。
同社が得意とする省エネやインバータ技術、冷媒技術と北米で主流であるダクト式空調を組み合わせた製品の導入。また2020年以降、アブコ、サーマルサプライ、エアレップを買収したことによる、販路の拡充や保守メンテナンスの強化が、躍進の背景と考えられます。業界需要が減少しているなかでも、現地生産を行い製品開発、供給力、販売網を強化することで確実にシェアの拡大を図っています。
2023年3月にはデータセンター向け大型空調の関連企業の買収を発表しており、成長産業に関連した投資も行っております。(詳細は後述の主要なM&Aの詳細でも記載)
米国事業の拡大とともに、ダイキンの時価総額も日経平均をアウトパフォーマンスしています。
ダイキンのM&Aと時価総額の向上
北米空調大手3社の指標比較
北米空調大手のトレイン・テクノロジーズ、ダイキン、キャリアの配当性向、ROE、売上高成長率(過去3年)を比較すると下表の通りとなります。配当性向ではトレインが、ROEではキャリアが、売上高成長率ではダイキンが他社を上回っています。
売上構成の比較
また、地域別売上高を見てみると、最大手トレイン・テクノロジーズは米国事業の比率が高い一方で、ダイキンが、米国、中国、日本、欧州とバランスよく事業を展開していることも特徴です。
トレイン・テクノロジーズの売上構成が物語っている通り、消費者の嗜好やダクト&ダクトレスといった技術様式が異なるHVAC領域で、グローバル展開は、従来非常に難しいと考えられていました。そうした通説を覆すべく、HVAC系のプレイヤーとしては、他社に先駆けてダイキンがグローバル展開を成功させており、今後も供給力、販売力の強化でシェアの拡大が見込まれます。
2022年10月にはトレイン・テクノロジーズがドイツの大手空調メーカーのAL-KOエアテクノロジーの買収を発表しました。AL-KOエアテクノロジーは、欧州、アジアでの販売に強みを持っています。
2023年4月にはキャリアがドイツ大手空調メーカーのビスマン・クライメイト・ソリューションズの買収を発表しました。買収金額は120億ユーロ(約1.6兆円)と大型のディールで、2023年の予想企業価値の約13倍に相当します。
買収された企業は何れも米州以外の販売に強みを持っているため、ダイキンに続いて各社のグローバル展開が加速しており、今後も世界的に大きく業界再編が進んで行くことが予想されます。
【市場規模】
当データベースでは、北米HVAC業界(空調及びエアコン)の2022年の市場規模を496億ドルとしております。参照した統計や調査情報は以下の通りです。
年 | 市場規模 | 成長率* |
---|---|---|
2022年 | 496億ドル | 13.76% |
2023年 | 518億ドル | 4.44% |
2028年 | 632.8億ドル | 4.08% |
*2023年は前年比成長率見込み、2028年は、2023年~2028年までの年平均成長率(CAGR)見込み
*2021年から2022年の成長率は、当データベース2021年の実績から算定
調査会社リサーチアンドマーケッツによると、2022年および2023年の北米HVAC市場の規模は496億ドル、518億ドルへ拡大し、2023年から2028年にかけて年平均成長率4.1%で成長すると見込まれています。2028年の市場規模は632.8億ドルと予測しています。
北米のHVAC市場が拡大する要因として、技術革新が進み、環境に優しいシステムへの需要が高まることが考えられます。空調のスマートシステムとして開発されたスマートサーモットは、センサーで部屋ごとの温度・湿度を感知し、指定した部屋を優先して温度調整できるシステムです。温度を一律で調整するセントラル空調が主流の北米では、スマートサーモットの導入が進めば新しい空調システムの購入・乗り換えが増えると予想されます。
さらに、商業施設や住宅の増加に伴い、新築建造物に対するHVACシステムの需要も増加しています。また、健康維持のために室内の空気の質にこだわる人が増えてきており、既存の建物の改修・補修でもHVACシステムの設置・メンテナンスの需要が十分にあります。
マーケッツアンドマーケッツによると、HVAC業界(空調及びエアコン)の2022年の世界の市場規模は2032億ドルです。北米の世界の市場規模は、約20~30%を占める巨大な市場だということがわかります。
三井物産戦略研究所によると、2020年の世界の市場規模は21.8兆円で、日本の市場規模(2020年)は約1.8兆円です。北米は日本の約3倍程度の規模と推計されます。⇒参照したデータの詳細情報
【市場の分類】
HVAC市場は、暖房、換気、冷房といったHVAC機器の製造販売を行う機器事業と、ソリューション事業に分類されます。近年は、機器の販売だけでなく、施設全体のエネルギーマネジメントや効率的な保守運営の観点からHVACシステムを組み合わせるソリューション事業の比重も大きくなっています。
暖房、換気、冷房の機器は、ヒートポンプ、ボイラー、清浄機、換気扇、除湿器・加湿器、ユニットエアコン、VRFシステム、チラー、ポータブルエアコンなどへとさらに細分化されます。
【M&Aの動向】
- 1979年 ユナイテッド・テクノロジーズ社によるキャリア買収
- 2007年 Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)によるTrane(トレイン)の買収
- 2011年 美的集団によるCarrierの南米事業の買収
- 2012年 ダイキンによるグッドマングローバル買収
- 2014年 ジョンソンコントロールズによる米Air Distribution Technologiesの買収
- 2016年 ジョンソンコントロールズとタイコの経営統合
- 2018年 三菱電機とインガソール・ランドによるダクトレス空調機販売の合弁会社設立
- 2018年 ユナイテッド・テクノロジーズによるキャリアの分社化
- 2020年 インガソール・ランドによるトレインテクノロジーズの分社化
- 2020年 ダイキンによる空調販売店のアブコ、ロビンソン、スティーブンスの買収
- 2021年 ダイキンによる空調卸のサーマルサプライや業務用空調販売のエアレップスの買収
- 2021年 キャリアが米空調販売大手のワッコと共に空調販売大手のテンプラチャーエクイップメント(TEC)を買収
- 2022年 キャリアが東芝キャリアを子会社化
- 2022年 トレインテクノロジーズによる独空調大手AL-KOの買収
- 2022年 ダイキンによる米通信機器大手ベンスターの買収
- 2023年 ダイキンによる米空調・住宅用建築資材販売大手のウィリアムズディストリビューティングの買収
- 2023年 ダイキンによる米空調アライアンスエアープロダクツ、CM3ビルディングソリューションの買収
- 2023年 キャリアが独空調大手ビスマン・クライメイト・ソリューションズの買収を発表
近年ダイキンによる空調関連企業のM&Aが目立ちますが、その理由として北米HVAC市場でシェア首位達成を目指していることが挙げられます。
実際、ダイキンは2021年には2023年度までの3年間でM&Aの資金を6000億円と設定しましたが、2022年にはそれを超えてM&Aを行う可能性や1,000億円超の大型案件でも積極的に検討する可能性があることを明らかにしました。
2022年のベンスター買収では、同社の空調機器遠隔サービスを提供できるようになりました。
また、2023年に買収が発表されたアライアンスエアープロダクツとCM3ビルディングソリューションはデータセンター向けの大型空調を手がけており、需要が増え続けるデータセンター空調の領域も拡大しております。
リサーチ会社「IMARC Group」のレポートによると、北米のデータセンター市場は、2022年から2027年の年平均成長率4.32%を見込んでおります。トレイン・テクノロジー、キャリアについても、データセンター関連機器の販売を行っており、今後シェア競争の加速が予測されます。
【会社の概要】
ダイキン
ダイキンは、1924年に設立された日本を代表する空調機メーカーです。産業用の冷暖房空調機では世界トップ級です。ダクト方式に強い米グッドマンやマレーシアのエアコン大手OYL社を買収する等して世界的に事業を展開しています。国内ではパナソニックと家庭用エアコンの分野で競っています。フッ素化合物などの化学品事業も行っています。さらに詳しく
Carrier Corporation(キャリア)
キャリアグローバルは、米国に本拠を置く冷暖房空調機の大手メーカーです。元々は航空機エンジン、エレベーター等の大手であるUnited Technologies(ユナイテッド・テクノロジーズ)の子会社でした。2020年にユナイテッド・テクノロジーズは、空調機事業(キャリアグローバル)、エレベーター事業(Otis)と航空機部品事業へと分社化しました。冷暖房空調に加え、輸送用冷蔵機器や火災報知器にも強みを持ちます。さらに詳しく
York International Corporation(ヨーク・インターナショナル・コーポレーション)
米国に本拠を置く産業用冷暖房空調機メーカーです。建物用自動空調制御装置や自動車用バッテリー等の製造を行うJohnson Controls(ジョンソンコントロールズ)の子会社です。2015年に日立アプライアンスと空調機分野で合弁会社を設立しました。Johnson Controlsは米タイコ・インターナショナルと2016年に経営統合し、その後自動車部品事業などを分社化しています。
ジョンソンコントロールズについて
Johnson Controls(ジョンソンコントロールズ)は、1885年に設立された米国に本社を置く業務用空調制御システム、セキュリティシステム、火災検知システム、ビル管理サービスを提供する会社です。電気式サーモスタットを発明した歴史を持ちます。2016年に火災警報分野に強いTyco(タイコ・インターナショナル)と経営統合をしました。世界150ヵ国で展開し、エネルギー効率ソリューションや各種オートメーション事業を展開しています。自動車用のバッテリー等の分野に強みがありましたが2018年に売却しました。さらに詳しく
Trane Technologies(トレイン・テクノロジーズ)
トレイン・テクノロジーズは、米国に本拠を置く産業用冷暖房空調機メーカーです。輸送温度コントロール設備、ゴルフカート、エアコンプレッサー等を手掛ける米Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)の子会社でしたが、2020年トレイン・テクノロジーズとして分社化独立を果たしています。インガソールランド以前は、衛生陶器等も手掛けたAmerican Standard(アメリカンスタンダード)社のグループ会社であったこともあります。さらに詳しく
インガソール・ランドについて
Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)は、1871年に創業された米国に本拠を置く産業機器メーカーです。2020年に真空ポンプ、コンプレッサー等の産業機械メーカーであるGardner Denver(ガードナーデンバー)と経営統合を行いました。統合に先立ち、空調事業はトレーン・テクノロジーズとして分社化しています。インガソール・ランドからは、過去、鍵のアレジオン、冷凍ショーケースのハスマン(2015年にパナソニックへ売却)等各分野でトップクラスの企業が巣立っております。コンプレッサー・エアツールや輸送用冷凍装置の分野でも強いです。ゴルフカートでは、クラブカーブランドを展開し、世界最大級の規模ですが、2021年にプラチナムエクイティへ売却をしました。さらに詳しく
Lennox International(レノックス)
1895年に設立された米国に本拠を置く冷暖房空調機メーカーです。住宅及び産業向けの空調事業と商業用冷蔵庫事業に強みを持ちます。冷蔵庫事業では、生鮮品を保存のためのユニットクーラー、流体冷却器、空冷式コンデンサー、エアハンドラー、冷蔵ラックシステムといった製品をスーパーマーケット、コンビニエンスストア、レストラン、倉庫、配送センターに納入しています。
参照したデータの詳細情報について
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