産業用ロボット業界の世界市場シェアの分析 2021

産業用ロボット業界の世界市場シェア、市場規模と再編について分析しています。ファナック、安川電機、ABB、クーカ、川崎重工業、三菱電機、ストーブリ、コマウといった産業用ロボット大手の動向や概略も掲載しています。

【市場シェア】

産業用ロボット大手メーカーの2021年度の売上高を分子に、後述する市場規模を分母として、産業用ロボット業界の2021年の世界市場シェアを計算すると、1位はABB、2位はファナック、3位は安川電機となります。⇒参照したデータの詳細情報

産業用ロボットの世界シェア(2021年)

順位 会社名 市場シェア
1位 ABB 16.03%
2位 ファナック 14.82%
3位 安川電機 9.96%
4位 ストーブリ 9.08%
5位 コマウ 8.69%*
6位 クーカ(美的集団) 7.97%
7位 川崎重工業 5.58%
8位 ヤマハ発動機 4.89%
9位 Siasun 2.73%
10位 エプソン 1.62%
11位 不二越 1.57%
産業用ロボットの世界シェア(2021年)
*2021年度売上高は推計値

産業用ロボットの市場シェア(2021年)
産業用ロボットの市場シェア(2021年)

産業用ロボット業界の世界市場シェアは、1位がスイスの重電メーカー大手であるABB、2位がコンピューター制御分野に強い日本のファナック、3位が日本の安川電機です。安川電機は、モーションコントロール技術を活かして、ロボットに必要なサーボモータやインバータを内製しています。4位の繊維機器メーカー発祥であるスイスのストーリブです。5位は中国の美的集団グループ傘下企業となってるドイツのクーカとなっています。6位がイタリアのストランティス(旧FCA)傘下のコマウとなります。
7位は、シリコンウェアの搬送ロボットに強い日本の川崎重工業が伸ばしており、9位が中国最大手の瀋陽新松(Siasun)、10位は日本のエプソンとなります。

産業用ロボット大手3社の指標比較

産業用ロボット大手のABB、ファナック、安川電機の配当性、ROE、EBITDA成長率(過去5年)を比較すると下表の通りとなります。配当性向とROEではABBが、EBITDA成長率では安川電機が他社を上回っています。

産業用ロボットビッグ3の指標比較(2021年度決算ベース)
産業用ロボットビッグ3の指標比較(2021年度決算ベース)
リフィニティブのデータを加工修正して作成
*配当性向は2022年5月24日時点のTTMベースで計算しています。
**ROEは直前期の当期利益と期初と期末の自己資本額の平均値から計算をしています。
***EBITDA成長率は直前期を基準に過去5年間の年平均成長率(CAGR)を計算しています。

【市場規模】

当サイトでは、産業用ロボット業界の2021年の世界市場規模を156億ドルとしています。参考にしたデータは以下の通りです。

調査会社フォーチュンビジネスインサイツによると、2021年の同業界の市場規模は156億ドルです。2022年には168億ドルとなり、2029年にかけて年平均11.4%で成長し、同年には357億ドルに拡大すると見込まれます。
調査会社のモードーインテリジェンスによると、2020年の同業界の規模は237億ドルです。2026年にかけて年平均20.4%の成長を見込みます。
調査会社のフォーチュンビジネスインサイツによれば2019年の市場規模は218億ドルです。2027年にかけて年平均15.1%での成長を見込みます。
業界団体の国際ロボット連盟によると、2020年の稼働台数ベースの産業ロボットは300万台です。国別では中国が78万台で最も多くなっています。また、2020年の供給台数は38万台です。2008年は約11万台、2016年には約25万台を超える水準になっており、平均成長率は約4%です。今後も中国の自動車や電機メーカーによる産業用ロボットへの積極的な投資が見込まれ、市場は拡大するものと思われます。⇒参照したデータの詳細情報

金額ベースの市場規模推移

市場規模 成長率見込み
2021年 156億ドル 11.4%
2020年 237億ドル 20.4%
2019年 218億ドル 15.1%
注)成長率は市場規模推定時点での見込み
産業用ロボットの推定市場規模推移 ©ディールラボ

産業用ロボット業界の市場規模推移
産業用ロボット業界の市場規模推移

出荷台数ベースの市場規模推移

産業用ロボットの年間出荷台数の推移(世界)
産業用ロボットの年間出荷台数の推移(世界)
出所 国際ロボット連盟 ⇒参照したデータの詳細情報

産業用ロボットの種類

産業用ロボットには大きく分けて垂直多関節ロボット、水平多関節ロボット、直交ロボット、パラレルリンクロボットの4種類あり、それぞれ得意とする領域が異なります。自動車や電機メーカーの工場で使用されることが多いのは関節産業用ロボットです。産業用ロボットは、工場内で塗装、組立、研磨、切断、搬送、溶接、測定、検査等の作業を担い、生産のサポートを行っています。

部品の種類

産業用ロボットを製造するにあたり、中核部品は、精密減速機、トルク・速度・位置制御に必要なサーボモーター、コントローラーシステム、機械本体の4つであると言われています。これらの中核部品の組み合わせには長年のノウハウが必要で、また工場の設備であることから、迅速なメンテナンス体制等が求められます。
精密減速機の分野では、大型の産業用ロボットに使用されるRV減速機に強い日本のナブテスコと、小型の産業用ロボットに使用される波動歯車装置に強いハーモニック・ドライブ・システムズ、住友重機械工業が世界トップ3で、4位であるスロバキアのスピネア(Spinea)を大きく引き離しています。近年、減速機の分野では、RV減速機で中国の南通振康机械有限公司(NANTONG ZHENKANG MACHINERY)、波動歯車装置で蘇州緑的諧波(Leaderdrive、リーダードライブ)が存在感を示しています。
用途ごとに得意とする産業用ロボットメーカーが異なる点には注意が必要でしょう。例えば、溶接系(アーク溶接やスポット溶接)では、産業用ロボット4大メーカーのファナック、安川、ABB、クーカが強いものの、液晶ガラスの搬送ロボットでは、川重、Brooks Automation、日本電産サンキョー、安川の4社が席巻しています。また、産業用ロボットの基幹部品(パソコンでいうCPU)で、内製化が難しいと言われている精密減速機は、日本のナブテスコが世界シェア首位です。

【M&Aの動向】

現状、産業用ロボットの業界再編はほとんど起きていませんが、今後中国系のメーカーが工場自動化(ファクトリーオートメーション化)をめざし、海外企業の買収を狙う可能性は十分にあります。過去の大きなM&Aとしては2016年に美的集団がドイツの産業用ロボット四天王の一角であるクーカを買収しています。


さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍

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【会社の概要】

FANUC(ファナック)

ファナックは1972年に設立された日本を代表する産業ロボット・ファクトリーオートメーション大手です。産業用ロボットでは世界4強の一角を占め、産業用ロボットの累積販売台数では世界最大と言われています。工作機械用FA装置にも強く、中国市場の拡大を狙い上海電気集団と組みNC装置などの設備投資を拡大しています。さらに詳しく

安川電機 (Yasukawa)

1915年に設立されたサーボモータとインバータ大手です。産業用ロボットにも強みを持ちます。溶接から搬送まで幅広い用途に対応する産業用ロボットを展開しています。中国では江蘇省の工場で生産を行っています。

ABB(エービービー)

ABB(エービービー)は、スイスに本拠を置く重電・重工業大手です。ABBはAsea Brown Boveri(アセア・ブラウン・ボベリ)の略です。1988年にスウェーデンのアセアとスイスのブラウン・ボベリが経営統合して誕生しました。アセアとブラウン・ボベリは1890年代に創業された両国を代表する老舗重電メーカーです。発電・送変電機器と自動化機器やソフトウェア事業に強みを持ちます。原子力発電と火力発電における発電機器事業は、それぞれWestinghouse(ウェスティングハウス)とAlstom(アルストム)に売却し撤退しました。2018年にGEよりエレクトリフィケーション事業を行うGEインダストリアルソリューションを買収しました。2020年には電力システムやパワーグリッド事業を日立に売却し、事業ポートフォリオの入れ替えを行っています。さらに詳しく

KUKA(クーカ)

ドイツに本拠を置く産業用ロボットメーカーです。フォルクスワーゲン等、ドイツ車向けの取引ボリュームが多いことを特徴としています。2016年には、中国の家電大手の美的集団に買収されました。溶接、塗装、パレンタイジングに強みを持ちます。

美的集団

1968年に何亮健(He Xiangjian)氏によって設立された中国に本拠を置く家電メーカーです。1993年に深セン証券取引所に上場しています。家庭用エアコンや洗濯機等に強みを持ち、2016年には東芝の家電部門とドイツの産業ロボット大手のKUKAを買収して事業規模を拡大しています。創業者の何享健が持ち株会社を通じて大株主となっています。さらに詳しく

川崎重工業

1896年に松方正義の支援によって川崎正蔵氏によって設立された川崎築地造船所を源流とする日本を代表する宇宙防衛・重電大手メーカーです。戦前の神戸川崎財閥には、川崎造船(川崎重工)の他に、川崎汽船、川崎製鉄(JFE)が属していました。技術者の育成には定評があります。現在は、防衛、航空エンジン、鉄道車両、プラント、油圧機器、溶接やシリコンウエハの搬送等の産業用ロボット、造船、中大型バイク、オフロード四輪車、パーソナルウォータークラフト(ジェットスキーの商標で展開しています)、汎用エンジンを開発製造しています。さらに詳しく

不二越

商標は那智(ナチ)です。ベアリング、切削工具系の工作機械でも有名です。産業用ロボットの分野では溶接系や搬送系のロボットに強みがあります。

そのほかの日本メーカーには、自動車向け産業用ロボットに強いデンソー、精密機械向けに強いエプソン、電機向けに強い三菱電機等があげられます。

三菱電機

1921年に設立された日本を代表する総合電機メーカーです。重電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム、電子デバイス、家庭電器のセグメントで事業を展開しています。エレベーターは重電システムのビルシステム事業で展開しています。産業用ロボットは産業メカトロニクスで、霧ヶ峰ブランドで有名な空調やエアコンは家庭電器セグメントに含まれます。空調分野は特にM&Aに積極的で、業務用空調分野では2015年にDe’Longhi(デロンギ)のイタリアの子会社のDeLclima(デルクリマ)社を買収して、欧州市場にて業績拡大を目指しています。北米では2018年にインガソールランドによるダクトレス空調機販売の合弁会社を設立しました。さらに詳しく

Staubli(ストーブリ)

1892年に設立されたスイスに本拠を置く繊維機械用ロボット大手です。水平型多関節ロボット(スカラ)に強みを持ちます。流体コネクター、電気コネクター、繊維機械等も手掛けています。

Comau(コマウ)

イタリアに本拠を置く産業用ロボット大手です。溶接用ロボットに強みを持ちます。ステランティス(旧フィアットクライスラーオートモーティブ(FCA))のグループ会社です。

日本電産

ニデック(日本電産)は、1973年に永守重信氏によって設立された日本を代表するモーターメーカーです。精密モーターと言われるHDD用モーターやCD・DVD用モーター等で圧倒的な強みを持ちます。産業用モーターはエマソンエレクトリックから産業用モーター・ドライブ事業を買収し強化しています。精密小型モーター(HDDモーターを含む)、車載モーター、家電・産業用モーター、機器装置、光学品が主軸です。さらに詳しく

中国の産業ロボット大手プレイヤー

現在は日本勢や欧州勢の独擅場である産業ロボット業界ではあるものの、中国政府の国産化目標をあり、溶接用ロボットなどの分野で中国資本(中資)メーカーが育ちつつあります。その中でも、いち早く量産化に成功した瀋陽新松機器人自動化 (Siasun)、広州数控設備 (GSK CNC EQUIPMENT)、安徽埃夫特智能裝備 (Efort)、南京埃斯頓機器人工程 (Estun)の4社が、現状Big4と言われています。4社のうち、Siasunは、証券取引所にも上場しており、証券コードは、機器人(ロボット)となっています。協働ロボットにも力を入れています。Efortは、中国大手自動車メーカーの奇瑞汽車と近く、イタリアのロボットメーカーのSI EVOLUTを2016年に買収しています。また、美的集団も株主となっています。

ナブテスコについて

日本を代表する自動ドアメーカー。鈴木商店を源流とするナブコと帝人製機が経営統合をして誕生しました。自動ドアでは国内最大手です。「NABCO」「GILGEN」というブランドで建物用自動ドア、特殊用途向け自動ドア、産業用自動ドア自動ドアを日米欧アジアで展開しています。自動ドア以外にも鉄道車両用機器のブレーキ装置、産業用ロボット関節、ドア開閉装置等に強みを持ちます。2011年にはスイスのカバより自動ドア事業(ギルゲン・ドア・システム(Gilgen Door Systems))を買収しています。さらに詳しく

参照したデータの詳細情報について


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