宅配便・物流業界の世界市場シェアの分析

宅配便・物流業界の市場シェア、市場規模と業界の再編について分析しています。DHL、UPS、フェデックス、DBシェンカー、キューネ・アンド・ナーゲルといった大手物流企業の概要や動向も掲載しています。

【物流業界とは】

物流会社は、商品が作られる場所から消費者に届くまでの「モノの流れ」をサービスとして提供する企業のことを指します。商品の運送・保管・荷役・包装・検品等の流通加工・在庫管理等の情報システムなどの機能に分けられます(下図参照)。

物流バリューチェーン
物流バリューチェーン
出所:ディールラボ

配送センター内の作業
配送センター内の作業
出所:ディールラボ

商品を運送する方法は、陸運(鉄道・トラック)、海運(船)、空運(飛行機)に分かれています。陸運には、鉄道、自動車、バス、タクシー等の事業者がおります。空運には飛行機が、海運には船舶が用いられ、船舶の種類によりコンテナ、バルク等に分けられます。

物流会社と一口に言っても、そのサービスは実に多様で、中には細分化された専門分野もあります。以下は、物流会社の形態・サービスの一例です。

  • 総合運輸会社…陸運・開運・空運すべてを手がけ、輸送手段を組み合わせてドアツードアで輸送できる
  • フォワーダー…国際物流において、貨物輸送のコーディネートを担う会社。自身は輸送手段を持たない
  • サードパーティー・ロジスティクス(3PL)…物流機能を持っていない会社の輸送・在庫管理などを委託すること
  • 倉庫管理…商品を最適な条件(冷蔵・冷凍含む)で保管するサービス
  • リバースロジスティクス…不良品など消費者からの返品を管理するサービス
  • 情報管理…物流プロセスの管理・最適化をおこなうサービス

また、宅配便は小口の商品や小包を集荷し、配達するサービスのことで、物流の一分野として位置づけられています。当メディアでは、物流にかかわるサービスを提供している企業をまとめて「物流企業」として、市場分析を行っています。

なお、品物を運ぶビジネスとして「郵政」がありますが、次のように物流とは特徴が異なります。

  • 郵政…法人や個人の手紙や小包などを相手方に運ぶ。郵送・郵便料金の徴収などのサービスを提供する。国の郵便公社・政府が運営する。
  • 物流…企業・製造者が商品を購入者・消費者に届ける。輸送・保管・在庫管理・通関手続きなどのサービスを提供する。物流会社が運営する。

当記事では郵政事業を行う企業は除外しております。

【宅配便、物流業界の市場シェア+ランキング】

宅配便・物流各社の2022年度の売上高を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2022年の物流業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位はDHL、2位はUPS、3位はフェデックスとなります。⇒参照したデータの詳細情報

宅配運輸・郵便会社の世界市場シェアと業界ランキング(2022年)

順位 会社名 市場シェア
1位 DHL 2.27%
2位 UPS 2.13%
3位 フェデックス 1.92%
4位 DBシェンカー 1.35%
5位 キューネ・アンド・ナーゲル 0.91%
6位 SFエクスプレス 0.91%
7位 CHロビンソン 0.53%
8位 日本通運 0.48%
9位 シノトランス 0.37%
10位 ヤマトホールディングス 0.33%
11位 ジェオディス 0.33%
12位 SGホールディングス 0.27%
13位 XPOロジスティクス 0.16%
宅配運輸・郵便会社の世界市場シェアと業界ランキング(2022年) ©ディールラボ

宅配便、物流業界の世界シェア(2022年)

上位3社のUPS、DHL、フェデックスはすべて総合運輸会社に位置づけられます。DBシェンカーやキューネ・アンド・ナーゲルはフォワーダー専業ですが、フォワーダーは物流資産を持たなくてもよいことから、フェデックスやDHLも参入しています。XPOロジスティクスやCHロビンソンは3PL大手です。

物流業界は市場規模が大きく、輸送・倉庫・情報管理などそれぞれが異なるスキル・リソースが必要です。そのため、すべてを網羅し市場を独占する企業は生まれにくいため、寡占市場になりにくいと言えます。また、物流は地域差異が大きく、国際輸送では地域ごとのニーズ・規制・通関手続きにに対応するため、地域の物流企業が参入しやすいという特徴があります。そのため、物流業界は分散的な市場と位置付けられ、上位3社でも市場シェアは10%未満です。

日本企業は日本通運、ヤマトホールディングス、SGホールディングスなどが大手です。

【宅配便、物流業界の市場規模】

当データベースでは、宅配便を含む物流業界の2022年の市場規模を4兆7000億ドルとしております。参照にした各種統計データは次の通りです。

調査会社のバリファイドマーケットリサーチによると、2022年の同業界の市場規模は4兆7000億ドルです。2023年から2030年にかけて年平均3.7%の成長を見込み、2030年には6兆6000億ドルに達すると予測しています。

調査会社のアイマークグループによると、2023年の同業界の市場規模は5兆4000億ドルです。2024年から2032年にかけて年平均4.1%の成長を見込み、2032年には7兆9000億ドルに達すると予測しています。

調査会社のプレセデンスリサーチによると、2022年の同業界の市場規模は7兆9800億ドルです。2023年から2030年にかけて年平均10.7%の成長を見込み、2030年には18兆2300億ドルに達すると予測しています。

調査会社のアリードマーケットリサーチによると、2022年の同業界の市場規模は9兆8338億ドルです。2023年から2032年にかけて年平均5.6%の成長を見込み、2032年には16兆7947億ドルに達すると予測しています。

参照したデータの詳細情報

さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍と関連サイト

図解 国際物流のしくみと貿易の実務
フォワーダーの市場シェアと市場規模の分析
デジタルフォワーディング業界のカオスマップ
運輸業界でM&Aの対象となる会社の分析
ダウ・ジョーンズ輸送株平均

【M&Aの動向】

物流業界では、地域ネットワークや物流手段の補完や顧客基盤の拡充を狙ったM&Aが相次いでいます。

  • 2002年 ドイツポストによるDHLの買収
  • 2002年 ドイツポストによるStinnesの買収
  • 2005年 ドイツポストによる英Exelの買収
  • 2006年 投資ファンドApollo GlobalによるTNTロジスティクスの買収
  • 2007年 CEVAロジスティクス(旧TNTロジスティクス)によるEagle Global Logistics買収
  • 2008年 フランス国鉄によるGeodis買収
  • 2008年 DSVのよるABX Logistics Worldwide買収
  • 2012年 CH Robinsonによる米Phoenix International買収
  • 2015年 近鉄エクスプレスによるAPLロジスティクス買収
  • 2015年 日本郵便による豪Tollロジスティクス買収
  • 2015年 フェデックスによるオランダのTNT Expressの買収
  • 2015年 米XPO Logisticsによる仏Norbert Den Tressangleの買収
  • 2015年 米UPSによる米Coyote Logisticsの買収
  • 2015年 フランス国鉄による米Ozburn-Hessey Logisticsの買収
  • 2015年 オランダのDSVによる米国UTi Worldwideの買収
  • 2019年 CMA CGMがCEVAロジスティクスを買収
  • 2021年 SFエクスプレスがケリーロジスティクスを買収
  • 2021年 Tollのエクスプレス事業を投資ファンドに売却
  • 2023年 UPSがヘルスケア顧客向け物流のMNX Global Logisticsを買収
  • 2023年 ドイツ鉄道(DB)が子会社のDBシェンカーの売却を検討と発表

【会社の概要】

Deutsche Post(ドイツ郵政、ドイツ)

DHLは、1969年アメリカで創業しました。1998年にドイツポストが株式の一部を取得し、その後2002年に100%子会社化しています。世界220以上の国・地域にネットワークを持ち、集荷から配達までのプロセスを自社で一貫して担えるのが特徴です。さらに詳しく

Deutsche Post(ドイツ郵政、ドイツ)について

Deutsche Post(ドイツ郵政、ドイツ・ポスト)は、元々国営の郵便会社です。郵政民営化に伴い2002年にDHLを完全子会社化し、企業間物流、フォワーダー、個人向け配送、郵便サービスを手掛ける総合物流会社へと成長しました。Packstationの名称でドイツ国内を中心に宅配ロッカー事業を展開しています。さらに詳しく

United Parcel Service(ユナイテッド・パーセル・サービス、UPS)

1907年にクロード・ライアン(Claude Ryan)とジム・ケーシー(Jim Casey)によってアメリカン・メッセンジャー・カンパニーとして設立された米大手総合物流会社です。米国内陸上輸送に強みを有します。世界220か国以上で物流業務を展開しています。

FedEx(フェデックス)

FedEx(フェデックス)は1971年にフレデリック・W・スミス氏によって設立された米大手総合物流会社です。同氏がイエール大学の学生時代に提出した拠点空港を利用したハブ・アンド・スポーク理論を社会実装した航空輸送や国際宅配便ネットワークに強みを持ちます。国際エクスプレス配送はDHLと首位の座を競っています。 2016年には欧州同業のTNTエクスプレスを買収し、欧州にも強固な基盤を有しています。さらに詳しく

TNT Express(TNTエクスプレス)について

オランダに本社を置く欧州域内における宅配便大手です。旧オランダ郵政公社(KPN)が1998年に買収されたのち、2011年にユーロネクスト市場に上場しています。2015年フェデックスが買収しました。

DB Schenker(DBシェンカー)

Deutsche Bahn(ドイツ鉄道、独)傘下の総合物流企業です。鉄道網を利用した企業間物流やDB Schnker Logisticsで行うフォワーディング業務に強みがあり、空運・海運も手掛けています。日本では西濃運輸と西濃シェンカーを設立しています。2023年、ドイツ鉄道が売却を検討していると報道されました。

Kühne & Nagel(キューネ・アンド・ナーゲル)

スイスに本拠を置く物流企業グループです。世界100ヵ国以上に視点を持ち、海運・空運による輸送の代理店業務や情報連絡をおこないます。フォワーディング大手の一角です。

SF Express(順豊エクスプレス)

1993年に設立された中国の民間物流会社です。中国国内のECサイトの増加に伴い成長をしております。2021年に香港のケリーロジスティクスを買収しました。

CH Robinson Worldwide(CH・ロビンソン・ワールドワイド)

米国ミネソタ州に本社を置いています。自社にて運送機を保有していませんが、輸送会社と提携し、貨物輸送を低コストでコーディネートする3PL事業を行っています。

日本通運

日通の通称で親しまれる旧日本通運を母体とする会社です。2022年にホールディングス化しました。陸・海・空をつなぐ国際複合輸送に強みを持つ総合物流会社です。国際航空貨物輸送では国内最大手です。2018年にアパレル物流に強いイタリアのTraconf S.r.l.を買収しました。さらに詳しく

Sinotrans Limited(シノトランス)

中国の物流サービス会社です。フォワーディング大手で海運代理店業や船舶代理業を行っています。

Geodis(ジェオディス)

フランス国鉄(SNCF)傘下の大手物流会社です。日本にも法人を設立しており、貨物利用運送事業と倉庫事業を行っています。

ヤマトホールディングス

ヤマトHDのグループ企業の中でも中核をなすヤマト運輸は、国内では日本通運に次ぐシェアを誇る総合運輸会社です。宅配便サービスに強みを持っています。

SGホールディングス

佐川急便を展開するグループ会社です。宅配便事業のほか、ロジスティクス、国際輸送、物流システム関連なども手がけています。

XPO Logistics(XPOロジスティクス)

XPOロジスティクスは米国コネチカット州に本社を置く物流会社です。貨物輸送サービスやトラック仲介などの運輸事業と、倉庫保管・包装・在庫管理などを担うロジスティクス事業を展開しています。

その他の物流会社としては、フォワーディングに強いDSVやCEVA、Experitors、Dachser等があります。日系企業としては、近鉄エクスプレス、日立物流、三菱倉庫などが挙げられます。

参照したデータの詳細情報について


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