香料業界の世界市場シェアの分析

香料メーカーの世界ランキング、市場シェア、業界再編や市場規模について分析しています。IFF、ジボダン、フィルメニック、シムライズ、高砂香料、長谷川香料といった香料会社の動向も掲載しています。

【香料業界とは】

香料は、主に食品香料(フレーバー)と香粧品香料(フレグランス)に分かれます。前者は飲料、冷菓、菓子、即席麺等の加工食品に、後者は化粧品やトイレタリー等に使われます。フレーバーとフレグランスの世界市場規模はほぼ同程度と言われています。各社ともに育成に時間のかかる熟練した香りを調合するフレーバーリスト(フレーバー)やパフューマー(フレグランス)を抱え、香料生産への設備投資が必要であるため、新規参入の障壁が高い業界です。香料の原料は、ラベンダーやシナモン等の天然由来成分と化学合成成分の2種類があり、日本の香料会社は香料の原料をほぼ輸入に頼っている状況です。

【香料業界の世界市場シェア+ランキング】

香料各社の2022年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、後述する市場規模を分母にして、簡易的に香料業界の2022年の市場シェアを算出すると、1位はIFF、2位はジボダン、3位はフィルメニックとなります。

順位 会社名 市場シェア
1位 INTERNATIONAL FLAVORS & FRAGRANCES INC.(IFF) 25.56%
2位 Givaudan S.A.(ジボダン) 21.32%
3位 Firmenich SA(フィルメニック) 14.15%
4位 Symrise AG(シムライズ) 13.71%
5位 ARCHER-DANIELS-MIDLAND COMPANY(ADM) 10.55%
6位 MANE(マン) 4.76%
7位 Takasago International Corporation(高砂香料工業株式会社) 3.97%
8位 Sensient Technologies Corporation(センシエント・テクノロジー株式会社) 2.07%
9位 Robertet(ロベルト) 1.48%
10位 T. Hasegawa Co., Ltd.(長谷川香料株式会社) 1.33%
11位 Huabao International Holdings Limited(フアバオ・インターナショナル、華寶國際控股有限公司) 1.10%
香料業界の世界シェア(2022年)

香料業界の市場シェアと世界ランキング(2022年)

2022年は、2021年に引き続きIFFが世界1位となりました。同社は、2018年のフルタロムの買収に続き、2021年にデュポンから食品成分・原料の製造を手掛けるニュートリション事業を262億ドルで買収し、香料業界の最大手となりました。

2位は、かつて1位に君臨していたジボダンです。2020年はバイオ成分のAlderys、化粧品成分のIndenaという香料隣接領域を買収し、更なる規模拡大を図っています。2019年はアクティブ コスメティックス事業を手掛けるAMSilk社、フランスの自然成分に強みを持つAlbert Vieille社、ベトナムの香料大手であるGolden Frog社を買収しています。

3位のフィルメニックも、フランスの植物ベースの化学原料メーカーであるLes Dérivés Résiniqueset Terpéniquesを買収しIFFとジボダンを追いかけています。4位はドイツのシムライズ、5位はADM(ワイルドフレーバーズ)、6位はマンとなっており、2021年と比べて大きな変動はありません。

【香料メーカーの収益力・成長性・株主還元比較】

世界トップ2社(IFF、ジボダン)と日系2社(高砂香料、長谷川香料)の売上高成長率、配当性向、ROEを比較すると以下の通りとなります。

香料トップ2社と日系香料の指標比較(2022年度決算ベース)
*売上高成長率は過去5年平均
**配当性向は年平均
***ROEは年平均

IFFの売上高成長率が突出しているのは、デュポンからニュートリション事業を買収した影響があると考えられます。IFFを除く3社で売上高成長率を比較すると、国内2社はジボダンと大きな違いはありません。

【香料業界のバリューチェーン】

香料業界のバリューチェーンは、香料原料のサプライヤー(天然由来、化学由来の原材料供給会社)、香料会社(フレグランスとフレーバーの調合会社)、消費財メーカー(日用品メーカー、食品・飲料メーカー)、小売(スーパー、オンラインショップ等)という構図になっています。下図では、同業界のバリューチェーンをまとめています。

出所:イベルケム会社資料

【香料業界の世界市場規模】

調査会社プレセデンスリサーチによると、同業界の2022年の市場規模は292.7億ドルです。2023年の市場規模は306.7億ドルになると見込まれ、2023年から2032年の年平均成長率は5.3%で、同年には488.2億ドルになると見込まれています。

一方、ランキング11社の売上高合計が357億1448万2720ドルとなっていることから、市場シェアを計算する上では便宜上こちらの数字を市場規模としています。

参照したデータの詳細情報

市場規模(億ドル) 前年成長率
2022年 292.7億ドル
2023年* 306.7億ドル 4.78%
2030年* 488.2億ドル 5.3%
香料業界の推定市場規模と成長率の推移

*推計データ

【M&Aの動向】

香料業界の大手プレーヤーであるジボダン、IFF、フィルメニック、シムライズによる規模拡大が続いています。食品成分機能の強化の一環として、穀物メジャーのADMも近年香料分野へ参入しました。また、2021年にはIFFがデュポンのニュートリション事業を買収し、香料と食品成分の両分野で成長を目指しています。

1958年 ジュースメーカーのオランダPolak & Schwarz社と香料メーカーのAmeringen-Haebler社の経営統合でIFFが誕生

2000年 ジボダンがロシュから分社化

2000年 IFFがBush Boake Allenを買収

2003年 ドイツの化学大手バイエルの香料子会社であるHaamann & Reimer社とDragocoの経営統合でシムライズが誕生

2006年 ジボダンが英国の化学大手ICIよりオランダの香料メーカーのクエスト・インターナショナルを買収

2007年 フィルメニックが食品成分大手のオランダDaniscoから香料事業を買収

2014年 シムライズがフランスの香料成分会社であるDianaを買収

2014年 ジボダンがネスレの香料部門であるFood Ingredients Specialitiesを買収

2014年 IFFがイスラエルの香料会社であるAromor Flavors & Fragrancesを買収

2014年 ADMがワイルド・フレーバーズを買収

2015年 フルタロムがドイツの香料メーカーのWibergとオーストリアの食品香料のSAGEMAを買収

2015年 シムライズが米国のアロマ成分メーカーPinova社とRenessenz社を買収

2015年 IFFが米国の香料会社Henry H. Ottens社を買収

2015年 IFFがカナダの化粧品向け成分会社であるLucas Meyer Cosmetics社を買収

2016年 ジボダンが米香料メーカーのSpiceTec社のFlavors&Seasoning事業を買収

2017年 IFFが米香料メーカーのPowderPure(Columbia Phytotechnology)を買収

2018年 ジボダンが仏Naturexを買収

2018年 IFFがフルタロムを買収

2019年 ジボダンがAMSilkのコスメティック事業を買収

2019年 ジボダンがフランスの自然成分に強みを持つAlbert Vieille社を買収

2019年 ジボダンがベトナムの香料大手であるGolden Frog社を買収

2020年 長谷川香料によるミッションフレーバーズ&フレグランスの買収

2020年 ジボダンが化粧品成分のIndenaを買収

2020年 ジボダンが仏バイオ技術のAlderysを買収

2021年 IFFによるデュポンからのニュートリション・バイオサイエンス事業の買収

さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍

合成香料
香料入門
香料と調香の基礎知識
香りを創る、香りを売る

【会社の概要】

INTERNATIONAL FLAVORS & FRAGRANCES INC.(IFF)

1833年に創業された米国に本拠を置く大手香料メーカーです。NYSEに上場しています。国際的な大手食品・飲料メーカーとの取引に強みを有します。中小・中堅食品・飲料との取引を強化するために2018年にイスラエルの香料大手フルタロム(Frutarom)買収を発表しました。2021年にデュポンのニュートリション・バイオサイエンス事業と経営統合を行いました。さらに詳しく

デュポンについて

デュポン・ドゥ・ヌムール(E.I du Pont de Nemours)は、1802年にフランス人のエルテール・イレネー・デュポンによって設立された世界最大級の化学メーカーです。2015年米同業のダウケミカルと経営統合しましたが、特殊産業材事業が分社化され新生デュポンとなりました。2011年にデンマークに本拠を置く食品成分大手であるDanisco(ダニスコ)を買収し、ニュートリション&バイオサイエンス事業で食品成分事業を強化していましたが、同事業は2019年に香料大手のIFFと経営統合し、香料と食品成分を手掛ける総合食品成分会社となりました。水処理膜事業についてはDuPont Water Technology(デュポンウォーターテクノロジー)で展開しています。RO膜に強みがあります。さらに詳しく

Givaudan S.A.(ジボダン)

Givaudan(ジボダン)は、1768年に創設され、スイスに本拠を置いています。香り(フレグランス)と味(フレーバー)のジャイアントです。1946年に開校したパリのパフューマリースクールでは、フレグランスのパフューマーのうち、およそ3分の1を育成しています。1963年に製薬メーカーのロシュ傘下に入りましたが、2000年に分社化しスイス証券取引所に上場しました。フレグランス部門はパリ、フレーバー部門は北米に拠点を置きます。さらに詳しく

Firmenich SA(フィルメニック)

スイスに本拠を置く世界第3位の香料メーカーです。フィルメニック家がオーナーの非上場企業です。過去には「カルバンクライン シーケー ワン/CALVIN KLEIN CK1」やケンゾーの「フラワー・バイ・ケンゾー(FLOWER BY KENZO)」などデザイナーフレグランスの調香を行っていました。2007年にDupon(デュポン)傘下の食品添加物大手のDanisco(ダニスコ)より香料部門を買収しています。

Symrise AG(シムライズ)

ドイツの化学大手バイエルの香料子会社であるHaarmann & Reimer社とDragoco社の経営統合で誕生したドイツの大手香料メーカーです。フランクフルト証券取引所に上場しています。香料成分会社の仏Dianaを買収しました。

バイエルとは

Bayer AG(バイエル)は、1863年にフリードリヒ・バイエル氏によって設立されたドイツに本拠を置く世界的な医薬品・化学品メーカーです。アスピリンの発明で有名です。第二次世界大戦中には、BASF、ヘキストとともにIG・ファルベンを形成しました。戦後にバイエルとして独立し、数々の買収や事業の売却を行っています。農薬・種子事業、ファーマスーティカル事業、コンシューマーヘルス事業が3本柱です。2015年にはマテリアルサイエンス部門をコベストロ(Covestro)として分社化・独立させています。農薬・種子事業においては、2016年にモンサントを買収し、農薬ビッグ4を一歩引き離す存在となりました。種子分野でも上位に入っています。なお、香料大手であるシムライズは、2002年に同社の子会社の出会ったHaamann & Reimer社とDragoco社が経営統合をし、誕生した経緯があります。

さらに詳しく

ARCHER-DANIELS-MIDLAND COMPANY(ADM)

アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)は、1902年に米国のミネソタ州で設立された穀物商社・穀物メジャーです。設立当初は、リネン(亜麻)の圧搾加工に注力するなど、カーギル等と異なり穀物の加工事業から、現在の穀物メジャーの守備範囲である、穀物の集荷・流通・貯蔵・販売事業へと展開していきました。特に、大豆やトウモロコシ、油糧種子加工、食品成分や香料事業に強みを持ちます。さらに詳しく

Wild Flavors(ワイルドフレーバーズ)について

スイスに本拠を置く大手香料会社でした。創業オーナーのHans-Peter Wildと米プライベートエクイティファンドのKKRが株式を保有していましたが、米穀物メジャーのArcher Daniels Midland (アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、ADM)に買収され、現在はADM傘下です。

MANE(マン)

フランスの大手香料会社です。Mane家が創業オーナーの非上場会社です。

Sensient Technologies Corporation(センシエント・テクノロジー株式会社)

米大手香料メーカーです。NYSEに上場しています。食品向けのフレーバー(風味)も手掛けています。

Takasago International Corporation(高砂香料工業株式会社)

1920年に設立された国内最大手の香料会社です。東証プライム市場に上場しています。フレーバーとフレグランスが事業の両輪です。

Robertet(ロベルト)

仏大手香料メーカーです。香料発祥の地とも呼ばれる南仏・グラースで、1850年に創業しました。

T. Hasegawa Co., Ltd.(長谷川香料株式会社)

長谷川香料は1961年に設立された国内大手香料メーカーです。乳製品等のフレーバー系に強みを持ちます。2014年にマレーシアの香料加工を行うPeresscol(ペレスコル)社を買収し、ハラル対応が必要なイスラム圏での商圏拡大を狙っています。2020年に米国のMISSION FLAVORS &FRAGRANCES(ミッションフレーバーズ&フレグランス)を買収し、従来の食品香料(調味料・ドレッシング等のセイボリー系フレーバー)に加え、スイート系のフレーバーを補完・強化しています。さらに詳しく

Huabao International Holdings Limited(フアバオ・インターナショナル、華寶國際控股有限公司)

1996年に朱林瑶(Chu Lam Yiu)氏によって創業された中国に本拠を置く香料メーカーです。2006年に香港証券取引所に上場しています。タバコ向け香料や伝統的な中国の風味の調合にも強みを有しています。

その他の国内メーカー

小川香料や三井物産・東レ系の曽田香料があります。

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