農薬業界の世界市場シェアの分析

農薬業界の市場規模と世界市場シェアや世界大手農薬メーカーの動向について分析をしています。伝統的に農薬ビッグ6といわれるモンサント、バイエル、ダウ、デュポン、BASF、シンジェンタが大手でしたが、2015年以降のバイエルによるモンサント買収、ダウとデュポンの経営統合(コルテバ・アグリサイエンス)、ケムチャイナのシンジェンタ買収等によって業界順位が大きく変動しています。

世界市場シェア

「農薬メーカーの世界売上高ランキング(2020年版)」に記載されている売上高の情報を分子に、2018年度の農薬業界の市場規模(市場規模の項をご参照ください)を分母にして、2019年の農薬メーカーの世界市場シェアを計算すると、1位はバイエル、2位はシンジェンタ、3位はBASFとなります。

1位 バイエル 22%
2位 シンジェンタ 17%
3位 BASF 11%
4位 コルテバ 10%
5位 FMC 7%
6位 アダマ 6%
7位 ニューファーム 6%
8位 住友化学 5%
9位 UPL 5%

モンサントを買収したバイエルが、当局からの要請に基づき一部リバティリンク等の農薬事業をBASFに売却したものの、昨年に続き市場シェア1位を維持しています。なお、バイエルは伝統的に農薬分野に、モンサントは種子事業に強く補完的な経営統合と言われています。2位には中国化工集団(ケムチャイナ)傘下のスイスのシンジェンタが入っています。アダマも中国化工集団の傘下であることは勘案すると、両社の合算市場シェアではバイエルを超え、実質的な1位に躍りでることになります。
3位はドイツのBASF、4位は旧デュポン農薬事業が分社化して誕生したコルテバとなってります。バイエル、シンジェンタがトップ2強で、農薬4強の一角であるBASFとコルテバと間に差がつきつつあります。

5位はコルテバより一部農薬事業を買収しているFMCで、4強に食い込めるポジションとなりつつあります。7位は豪州のニューファーム、8位は住友化学で両社は資本提携関係にあり、今後の動向が注目されます。
9位はインドのUPLで、アリスタライフサイエンスの買収を行い規模拡大を図っています。
2015年以降の再編によって、農薬メーカービッグ6が支配していた2016年当時の農薬業界の世界シェアから様変わりとなっているのがわかります。大手9社で市場シェアのほぼ9割程度を占める寡占的な市場です。
また、今後の研究開発投資の負担を考えると、再編後に残ったビッグ4の中でも、すでに優勝劣敗の芽が、現れつつあります。

農薬業界の市場規模

調査会社のリサーチアンドマーケッツによれば農薬業界の市場規模は640億ドルと推計されています。近年ジェネリック農薬メーカーが売上高を伸ばしているのが特徴です。

農薬業界の再編

農薬事業は研究開発への設備投資とグローバルでの販売網の構築という点で規模の経済性がはたらき易い業種であり再編を通じて上位大手への集約が進んでいます。

  • 1993年 ICI(imperial Chemical Industries)による医薬品、農薬、機能性化学部門をゼネカ社への分社化。
  • 1993年 アメリカンホームプロダクト(2009年ファイザーが買収)がアメリカン・サイアナミッドを買収。
  • 1996年 チバガイザー社とサンド社が合併してノバルティスが誕生
  • 1997年 マクテシムとアガンが合併してマクテシム・アガンが誕生
  • 2000年 ノバルティスの農業部門とアストラゼネカの農業部門を統合しシンジェンタを設立
  • 2000年 住友化学によるアボットのアメリカ生物農薬部門の買収
  • 2001年 バイエルがアベンティス・クロップ・サイエンスを買収
  • 2001年 ダウケミカルによるローム・アンド・ハースの買収
  • 2001年 トーメンとニチメンの農業化学品事業が統合し、アリスタライフサイエンスが誕生
  • 2002年 住友化学による武田薬品の農薬部門の買収
  • 2006年 オリンパスキャピタルによるアリスタライフサイエンスの買収
  • 2007年 投資ファンドのペルミラによるアリスタライフサイエンスの買収
  • 2011年 中国化工によるマクテシム・アガンの買収
  • 2014年 プラットフォーム・スペシャルティ・プロダクツ・コーポレーションによるアリスタライフサイエンスの買収
  • 2015年 デュポンとダウケミカルが経営統合
  • 2015年 中国化工によるシンジェンタの買収
  • 2016年 住友化学によるインドの農薬メーカーエクセル・クロップ・ケアを買収
  • 2016年 バイエルによるモンサント買収
  • 2017年 デュポンによる除草剤等の農薬事業のFMCへの売却
  • 2018年 バイエルによるBASFへの一部除草剤事業の売却
  • 2018年 バイエルによるBASFへの野菜種子事業(Nunhems)の売却
  • 2018年 UPLによるアリスタライフサイエンスの買収
  • 2019年 住友化学による豪ニューファーム社からのブラジル、アルゼンチン、チリ、コロンビアの事業の買収

農薬の種類

農薬は、大きく除草剤(herbicides)、殺虫剤(insecticides)、殺菌剤(fungicides)、消毒薬(disinfectants)に分かれます。これらの農薬の中では除草剤の割合が市場規模としては最も大きくなっています。除草剤は、シンジェンタ、バイエル・モンサント、バスフ、ダウ・デュポンが寡占する市場となっています。

除草剤の種類

除草剤には大きく分けて選択制除草剤(Selective Herbicides)と非選択制除草剤(Non-Selective Herbicides)があります。前者は、雑草だけに効果のある除草剤で、農作物には影響を与えません。後者は散布した場所の全ての植物に効果のある除草剤です。散布する場所によって選択制除草剤と非選択制除草剤を使い分けます。
除草剤の成分によって、グリホサホート、グルホシネート、パラコート、スルホニルウレア、トリフルラリン、シハロホップブチル系除草剤があります。また、植物の中には、除草剤に対する抵抗性(除草剤が効かない)を備えた植物もあります。

世界の主要な農薬メーカーの動向

Syngenta(シンジェンタ、スイス)

世界的な種子・農薬メーカーです。2000年Novartis(ノヴァルティス)の農業部門とZeneca(ゼネカ、アストラゼネカの前身)の農業部門が合併して誕生しました。2016年に中国の国有科学メーカーの中国化工集団(ケムチャイナ)が買収しました。ケムチャイナは2015年にイタリアの名門タイヤメーカーのピレリを買収するなど、海外展開に積極的です。

ケムチャイナ

中国化工集団(ケムチャイナ、ChemChina、China National Chemical Corporation )はRen Jianxin(任建新)氏によって設立されたChina National Blue Star Corp(藍星) と China Haohua Chemical Industrial Corp(昊華)が2004年に経営統合して誕生した中国政府系の化学メーカーです。中国政府が100%株式を保有しています。農薬、ゴム、シリコーンや機能性化学等の分野で事業展開しています。
農薬分野では2011年にイスラエルに本拠を置くジェネリック農薬大手のAdama(アダマ)を、2016年にはスイスに本拠を置く農薬メーカー大手のシンジェンタを買収して、世界最大級となっています。
タイヤ事業では2015年にイタリアに本拠を置くタイヤ大手のピレリを買収して、上位に位置します。
シリコーン業界でも、2006年にフランスのローディアからシリコーン事業を買収、2011年にはノルウェーのコングロマリット大手のOrkla Group(オルクラグループ)からElkemを買収し世界大手となっています。
2006年には動物用栄養製品メーカーの Adisseo を4億ユーロで買収しています。2016年には射出成形機大手の独KraussMaffei(クラウス=マッファイ)を買収しています。

2004年 China National Blue Star Corp(藍星) と China Haohua Chemical Industrial Corp(昊華)が経営統合
2005年 豪州の石化会社Qenosを買収
2006年 動物用栄養製品メーカーの Adisseo を買収
2006年 フランスのローディアからシリコーン事業を買収
2011年 イスラエルの農薬大手Adama(アダマ)を買収
2011年 ノルウェーのコングロマリット大手のOrkla Group(オルクラグループ)からElkemを買収
2015年 イタリアのタイヤ大手ピレリを買収
2016年 射出成形機大手の独KraussMaffei(クラウス=マッファイ)を買収
2016年 スイスの農薬・種子大手のシンジェンタを買収
中国・社会主義市場経済と国有企業の研究: 鉱工業部門についての考察
中国大型国有企業の経営システム改革―中国石油天然ガス集団公司を中心として
中国国有企業の改革と再編 

Bayer AG(バイエル、独)

Bayer AG(バイエル)は、1863年にフリードリヒ・バイエル氏によって設立されたドイツに本拠を置く世界的な医薬品・化学品メーカーです。アスピリンの発明で有名です。第二次世界大戦中には、BASF、ヘキストとともにIG・ファルベンを形成した。戦後にバイエルとして独立し、数々の買収や事業の売却を行っています。

農薬・種子事業、ファーマスーティカル事業、コンシューマーヘルス事業が3本柱です。2015年にはマテリアルサイエンス部門をコベストロ(Covestro)として分社化・独立させています。

農薬・種子事業においては、2016年にモンサントを買収し、農薬ビッグ4を一歩引き離す存在となりました。種子分野でも上位に入っています。なお、香料大手であるシムライズは、2002年に同社の子会社の出会ったHaamann & Reimer社とDragoco社が経営統合をし、誕生した経緯があります。

2016年 ドイツ化学大手のバイエルが米の種子・農薬大手のモンサント買収を発表。
買収総額は約660億ドル。モンサントの終値に対して約20.6%のプレミアム。
農薬業界は、バイエル・モンサント連合、ダウ・デュポン連合、シンジェンタ・ケムチャイナ連合とビッグ6からビッグ3連合へと集約。
農薬の外部環境としては、食料の安全性、環境保全、バイオ・遺伝子への巨額研究投資を継続できるかが、生き残りの条件となっている。
一方、今後の人口増から農薬・種子への需要は今後も拡大し、成長分野である。
バイエル・モンサント連合は、経営統合により総額25億ユーロの研究投資枠を確保可能
また、農薬に強みをもつバイエルと、バイオ・種子技術に強みを持つモンサントは事業補完性が高い。欧州と米国における地域補完性も高い。

 

ファーマスーティカル事業では、循環器・腎臓、腫瘍、眼科、婦人科、血液、画像診断といった領域に注力しています。

コンシューマーヘルス事では、医療用医薬品やメルクから大衆薬分野を買収して強化しています。プレナタルサプリメント、美容サプリメントを強化しています。解熱鎮痛薬バイエルアスピリンは同社の代名詞とも言える商品です。

1925年 IGファルベン社が設立
1951年 IGファルベン社が解散し、バイエルとして再スタート
2000年 米ライオンデル・ケミカル社のポリオール事業を買収
2001年 クロップサイエンスのアベンティスからの買収
2002年 香料子会社のHaamann & Reimer社とDragocoが経営統合をしてシムライズが誕生
2005年 高分子事業を手掛けるランクセスの分社化
2005年 ロシュ社の一般用医薬品事業の買収
2006年  シエーリング社買収
2007年 診断事業をシーメンスに売却
2013年 テバより動物薬事業を買収
2014年 アルジェタ社の買収
2014年 メルクより一般医薬品事業を買収
2015年 プラスチック事業を手掛けるCovestro(コベストロ)の分社化上場
2016年 モンサントの買収
2018年 グルホシネートアンモニウム事業および除草剤耐性に関連するLibertyLinkをBASFに売却
2018年 Nunhemsブランドの野菜種子をBASFに売却
2019年 動物薬などのアニマルヘルス事業を、同業の米エランコ・アニマルヘルスに76億ドル(約8千億円)で売却

BASF(バスフ、独)

1865年に設立された世界最大級の独化学メーカーです。バイエル、ヘキスト(現サノフィ・アヴェンティス)と並ぶドイツ三大化学メーカーの一角となっています。BASFとはバーデン・アニリン・ウント・ソーダ(Badische Anilin- und Soda-Fabrik)の略です。BASFの読み方はバスフでなく、ビーエーエスエフです。アンモニアの量産を可能にしたハーバー・ボッシュ法を発明したことでも有名です。化学業界の売上高ランキングでは、世界1位の座が定番の総合化学の雄と言えます。現在は、石油化学品、高性能製品、機能性材料、農薬関連、石油・ガスの輸送で事業を展開しています。

事業構成

化学品事業においては、基礎化学品を中心に洗剤、プラスチック、繊維等の原材料を提供しています。化学業界における世界市場シェアは最上位に位置しています。2000年に英蘭ロイヤルダッチシェアのポリオレフィンポリマー事業と事業統合して、バセル社(ライオンデルバセルの前身)が誕生しています。塩化ビニル業界の世界シェアではイノビンが上位に位置します。高性能製品では、ビタミンや食品添加物等を取り扱っています。機能性材料分野では、触媒、バッテリー材料、自動車用塗料、ポリウレタンシステム、エンジニアリングプラスチック等の製品を提供しています。塗料や高吸水性樹脂の世界市場シェアでは、上位に位置しています。2016年にコイルや壁紙向けの工業用塗料事業をアクゾノーベルに売却し、自動車用や装飾用塗料に注力する方針です。農薬業界の世界シェアでも同社は上位に位置しています。石油やガスの権益開発では、子会社のWintershall(ウィンターシャル)を通じて行っています。ドイツ国内では最大級の石油・ガス開発会社です。ロシアのガズプロムと協業をしています。2017年にドイツのDEAとの経営統合を発表しました。

事業再編・買収

  • 2000年 医薬品部門をアボット・ラボラトリーズに売却
  • 2000年 Wyethの農薬事業を買収
  • 2004年 アヴェンティスの農薬事業を買収
  • 2005年 メルクの電子部品事業を買収
  • 2009年 Cibaを買収
  • 2016年 アクゾノーベルに工業用塗料部門を売却
  • 2016年 表面処理メーカーのシェメタル社を買収
  • 2017年 石油・ガスの上流開発を担うWintershall(ウィンターシャル)をドイツDEAと統合
  • 2018年 バイエルから除草剤のリバティリンクや野菜種子のNunhemを買収
2009年 507(10%)
2010年 638(13%)
2011年 735(11.7%)
2012年 721(8.9%)
2013年 740(9.4%)
2014年 743(9.7%)
2015年 704(9.5%)
2016年 575(10.8%)
2017年 644(13%)
2018年 626(10.6%)
2019年 593(7.1%)

コルテバ・アグリサイエンス

世界大手化学メーカーであるダウケミカル(Dow Chemical)とデュポン(E.I du Pont de Nemours)の2015年の経営統合に伴い、両社の農薬子会社が経営統合して誕生しました。
ダウケミカルの農薬子会社はDow AgroSciences(ダウ・アグロサイエンス)で、
米Rohm and Haas(ローム・アンド・ハース)を2001年に買収し、農薬事業へ参入しました。2017年にに除草剤や殺虫剤事業の一部をFMCへ売却しています。

Monsanto Company(モンサント、米)

1901年設立の種子・農薬専業大手でした。除草剤ラウンドアップは除草剤の定番商品です。2016年にバイエルがモンサントを買収をしました。

Adama Agriculture Solutions(アダマ)

旧Makhteshim Agan(マクテシム・アガン、イスラエル)です。世界最大のジェネリック農薬企業です。中国化工集団(ケムチャイナ)傘下です。

Nufarm(ニューファーム、豪)

豪州メルボルンに本拠を構える大手農薬メーカーです。住友化学と資本提携していいます。2015年にジフェニルエーテル(oxyfluorfen)系除草剤、2016年に尿素(tebuthiuron)系農薬をダウ・アグロサイエンスより買収しています。2019年に南米事業を住友化学に売却しました。

FMC(エフエムシー、米)

米大手農薬メーカーです。ソーダ灰等の生産も手掛けています。ジェネリック農薬に強みを持ちます。2014年にオランダ殺虫剤大手のcheminova(ケミノバ)を買収しました。2017年にデュポンより除草剤、殺虫剤の事業を買収し、デュポンに栄養食品や薬品添加剤事業を売却(資産交換)を実施しています。

UPL(United Phosphorus Limited、ユーピーエル、印)

インド最大のジェネリック農薬メーカーです。アリスタライフサイエンスを買収しました。

住友化学

日本の大手化学メーカーです。2016年にインドの農薬メーカー第5位のエクセル・クロップ・ケアを買収するなど世界展開に積極的です。エクセル社は特許切れの除草剤や殺虫剤に強みを持ちます。

アリスタライフサイエンス

機能性化学や農薬事業を手掛けるプラットフォーム・スペシャルティ・プロダクツ・コーポレーション傘下の農薬メーカーです。元はトーメンと ニチメンの農薬事業です。プラットフォーム・スペシャリティ・プロダクツはハンダ材料メーカーや基板表面処理剤メーカーも傘下に保有しています。2018年にインドのUPLが買収しました。

農薬業界の英語用語集

Agrochemical:農薬
Seeds:種子・種苗
Genetically Modified(GM):遺伝子組み換えの
Herbicides:除草剤
Insecticides:殺虫剤
Pesticides:殺虫剤
fungicides:殺菌剤
disinfectants:消毒薬
Rapeseed:菜種
Tebuthiuron:尿素
Crop protection:作物保護

関連書籍

農薬概説 2016 [単行本]
農薬ハンドブック 2016年版 [単行本]
モンサント――世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業 [単行本]
新版 ピシャッと効かせる農薬選び便利帳 [単行本]
農薬の科学―生物制御と植物保護 [単行本]
農薬学 [単行本]

コメント