船舶エンジン業界の世界市場シェアの分析

船舶エンジン業界の世界シェアと市場規模について分析をしています。業界大手であるマン、バルチラ、ロールス・ロイスなどの概要や動向についても掲載しています。

世界市場シェア

船舶エンジン会社の2020年度の売上高(⇒参照したデータの詳細情報)を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2020年の市場シェアを簡易に試算しますと、以下の順位となります。

2020年の船舶エンジン会社の世界市場シェアと業界ランキング

  • 1位 バルチラ 17.8%
  • 2位 マン・エナジーソリューション 15.3%
  • 3位 ロールス・ロイス 10.3%
  • 4位 ジャパンエンジンコーポレーション 0.9%

船舶エンジンの世界シェア(2020年)
船舶エンジンの世界シェア(2020年)

世界1位は、船舶エンジンの老舗であったスズラーを買収した、フィンランドのバルチラとなります。同社は、船舶エンジン(中速、4サイクルストローク)に集中する戦略をとっています。船舶用の中速エンジンは、エンジンスペースに制約のある客船、フェリー等に使用される場合が多くなっています。相対的に機関の構造が複雑で、エンジンの大きさが大きくなる反面、安定した燃焼が行われます。中速エンジン以外でも、ディーゼルを用いる発電所用の小規模原動機や船用補機の分野でも大手メーカーです。低速エンジンは、中国船舶工業集団公司(CSSC)にウインターツール・ガス・アンド・ディーゼルを売却し撤退しました。

世界2位は、デンマークの船舶エンジン大手B&Wを買収したマン・エナジーソリューションです。船舶エンジンの中でも低速、2サイクルストロークに強みを持ちます。低速エンジン事業は、主に大型のタンカー、コンテナ船等に使われる原動力です。マンは低速エンジンの分野では、ライセンス供給者として、圧倒的な地位を築いています。3位はイギリスのロールス・ロイスです。船舶用エンジンではMTUブランドの高速エンジンとBergenブランド(2021年にロシアの鉄道車両メーカーへ売却発表)の中速エンジンがメインとなっています。4位には三菱重工の流れを汲むジャパンエンジンコーポレーションとなっていて、三菱UE機関という独自技術を用いて、環境負荷の低い製品で上位2陣営の牙城に挑みます。キャタピラーは、ドイツのマシーネンバオ・キールを買収して事業を展開していますが、情報が非開示のためランキングには入っていません。

市場規模

当データベースでは、2020年の船舶エンジン業界の市場規模を118億ドルとしています。参照した各種公表統計データは次の通りです。調査会社のマーケッツアンドマーケッツによると、同業界の市場規模は、2020年の118億ドルから2025年には137億ドルに成長すると予測され、2020年から2025年にかけて3.1%のCAGRで成長すると見込まれています。調査会社のフォーチュンビジネスインサイツによると、2019年の同市場規模は125億ドルとなります。2020年から2027年は年平均4.7%での成長を見込みます。⇒参照したデータの詳細情報

船舶エンジンの市場は、造船業の影響を受けるため、今後の貿易量、油化、ガス排出規制等によって、市場規模は変化するものと思われます。なお、船舶エンジンにおいては低速エンジンが概ね7-8割程度の比率となっていると言われています。船舶用エンジンは船価の約10%を占め、建造するにあたり重要な要素です。

市場規模
(億ドル)
成長率見込み
(発表時点)
2020年118億ドル3.1%
2019年125億ドル4.7%
船舶用エンジンの推定市場規模の推移
(c)業界再編の動向

船舶エンジンの2サイクルと4サイクルの違い

船舶エンジンの燃料には、残渣油が利用されているため、燃料供給の価格と量においては安定しています。2サイクルストローク(低速エンジン)の特徴は、機関構造のコンパクトにあります、一方で、冷却や空気循環には改善の余地があります。4サイクルストローク(中速エンジン)は、機関が大型化する一方で、吸気や排気の安定性があります。

船舶エンジン業界の特徴

船舶エンジン業界の特徴として、船舶エンジンのライセンス供給者からのライセンス付与に基づいて、各国の造船会社や重電メーカーが実際に船舶エンジンを製造する形となっています。船舶エンジンの設計や開発と製造が分かれている点が特徴です。コカコーラ社からコカコーラ原液のレシピの提供を受けた各国のボトラーが、実際にコカコーラを製造する事業モデルに似ています。

マンの主要ライセンス供給先

三井E&S
川崎重工業
日立造船
中国の造船会社

バルチラやWinGDの主要ライセンス供給先

IHI(ディーゼル・ユナイテッド)
現代重工業
Doosan Heavy
中国の造船会

業界のM&A

1997年 バルチラがスルザーから船舶エンジン事業を買収
2015年 バルチラとCSSCが合弁会社WinGDを設立
2016年 バルチラがWinGDの全持分をCSSCへ売却
2021年 ロールスロイスが船舶エンジンのBergenをJSC Transmashholdingへ売却

さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍

主要船舶エンジンメーカーの動向

MAN Energy Solution (マンエナジーソリューション)

MAN (マン)は1758 年に創業したルール地方の鉄工所にルーツがある、ドイツに本拠を置くエンジン・機械メーカーです。トラック・バス等の商用車、船舶・産業用エンジン等を手掛けています。MAN Energy Solution (マンエナジーソリューション、旧Diesel & Turbo(マンディーゼル&ターボ))は、MANグループの動力エンジニアリング部門です。1981 年には、船舶エンジンの老舗であるデンマークBurmeister & Wain(B&W)のディーゼルエンジン部門を買収し、船舶エンジンの分野では2ストロークと4ストロークエンジンの主要ライセンサーとして圧倒的な地位を占めます。2015年には、スウェーデンのCryogenic ABから船用ガス燃料供給事業の買収もしております。メンテナンス等のサービスもグローバルで展開しています。船舶エンジン以外にも、発電所や大型工場向けのガス及びディーゼルエンジン、蒸気タービン、ターボエクスパンダー(高圧ガス膨張機)やターボチャージャーを製造しています。

Wartsila(バルチラ)

1834 年、カレリア地方に製材所として設立されたルーツを持つ、フィンランドに本拠を置く船舶用ディーゼルのライセンス供給大手です。中高速用のディーゼルエンジンでは世界最大級です。スイスのSulzer(スルザー)の船舶エンジン事業を買収しました。2ストローク低速用船舶エンジンからは、中国船舶工業集団公司(CSSC)にウインターツール・ガス・アンド・ディーゼルを売却し、撤退しました。バルチラの株主では、フィンランドの消費財系コングロマリット(祖業はハサミ(鋏)メーカー。ウェッジウッドやロイヤルコペンハーゲン等の陶器会社も保有)であるフィスカース(Fiskars)が筆頭株主となっています。船舶エンジン以外、発電(エネルギーソリューション)も展開し、船舶事業では、船舶設計、ラダー、プロペラ、航海・通信システムを提供しています。

Winterthur Gas & Diesel(WinGD、ウインターツール・ガス・アンド・ディーゼル)

もともとはSulzer(スルザー)傘下の船舶エンジンでしたが、1997年にバルチラが買収しました。2015年にバルチラが2ストローク低速用船舶エンジン事業を、中国の造船大手中国船舶工業集団公司(CSSC)との合弁会WinGDに売却し、2016年に全株式をCSSCへ譲渡しました。

ジャパンエンジンコーポレーション

三菱重工業の船舶エンジン事業を神戸発動機と経営統合することで合意し、2017年にジャパンエンジンコーポレーションが誕生しました。1955年に国産技術の粋を結集した三菱UE機関ブランドを引き継いでいます。

三菱重工について

1884年に創業された日本を代表する重工業グループです。三菱グループの中核企業の1社と言われています。戦前は軍産複合体として成長し、戦時中は戦艦武蔵やゼロ戦を手掛け、当時から技術力では世界最高水準を維持しています。戦後は民間向けの重工分野を強化し、発電所システム、航空機エンジン、航空機、船舶、ターボチャージャ、フォークリフト、機械システム、エンジニアリング、防衛関連機器の製造販売を行っています。さらに詳しく

Caterpillar(キャタピラー)

米国を代表する建機メーカーです。船舶エンジンは1997年に買収したドイツのMAK(マシーネンバオ・キール、元々ドイツで潜水艦のUボートを製造していた会社)ブランドで展開しています。

Rolls-Royce(ロールスロイス)

Rolls-Royce(ロールス・ロイス)は英国に本拠を置く航空機・船舶エンジンメーカーです。自動車のロールス・ロイスとは同根です。一時は英政府により国有化されましたが、ドイツのBMWとの航空機エンジン事業を子会社する等、積極的な買収により成長しました。民間航空、防衛、パワーシステムが3本柱です。産業用ディーゼルエンジンでは、発電所、建機、鉄道、船舶向けのエンジンを製造・販売し、キャタピラー、カミンズ、GE等と競っています。民間船舶部門が低調であり、2018年以降リストラを加速しています。燃料噴射装置を手掛けるロランジュ(L’Orange)を米航空機部品メーカーのウッドワードへ売却しました。船舶用エンジンではMTUブランドの高速エンジンとBergenブランドの中速エンジンがメインとなっていますが、2021年にBergenをロシアの鉄道車両大手であるJSC Transmashholdingへ売却しました。さらに詳しく

Hyundai Heavy Industries(現代重工業)

韓国を代表する造船メーカーです。造船分野でもトップクラスですが、船舶エンジンも中高速を中心に製造しております。4ストロークエンジンは独自開発をしたHiMSENブランドで展開をしています。

Cummins(カミンズ)

米国に本拠をおくバスや商用車向けのエンジンメーカーです。ターボチャージャー、トランスミッション、フィルタレーションなどの商用車向けの部品も提供しています。船舶向けのエンジンも手掛けています。

参照したデータの詳細情報について


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