鉄道車両業界の世界市場シェア・売上高ランキング・市場規模・M&A(合併買収)について分析。中国中車、アルストム 、シーメンス、CAF、シュタッドラー 、日立、川崎重工業といった世界大手の鉄道車両会社の概要を掲載。アルストムがボンバルディアの鉄道車両事業を買収するなど業界再編が継続。
世界シェア
鉄道車両メーカー各社の2021年度の売上高(⇒参照したデータの詳細情報)を分子に、同業界の市場規模を分母に、鉄道車両メーカー会社各社の2021年の世界市場シェアを計算すると、1位は中国中車、2位はアルストム、3位はシーメンスとなります。
鉄道車両業界の世界市場シェアと業界ランキング(2021年)
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | 中国中車 | 32.83% |
2位 | アルストム | 13.56% |
3位 | シーメンス | 9.45% |
4位 | ワブテック | 7.09% |
5位 | 日立製作所 | 4.97% |
6位 | シュタッドラー・レール | 3.57% |
7位 | CAF | 3.02% |
8位 | トランスマスホールディングス | 2.84% |
9位 | 川崎重工 | 1.00% |
10位 | トリニティ・インダストリーズ | 0.64% |
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2015年に誕生した中国中車(CRRC)が旺盛な国内のインフラ需要に支えられ世界1位です。2位はアルストムです。2020年に発表された高速鉄道に強いアルストムと地下鉄・都市鉄道に強いボンバルディアの鉄道車両部門の経営統合が実現し、シーメンスを抜いて、アルストムボンバルディア連合が2位になりました。
3位はシーメンスです。2017年にアルストムとの経営統合を発表し、シーメンス・アルストムの誕生は鉄道車両業界版エアバスの誕生と言われましたが、その後2019年2月に欧州委員会がシーメンスとアルストムの事業統合を却下し、鉄道車両版エアバスの誕生にはなりませんでした。
CRRC、シーメンス、アルストムが鉄道車両メーカーの御三家と言われています。
5位以下は、日伊連合である日立・アンサルド連合、米国ワブテック、ロシアのトランスマスが追い上げますが、上位4社には大きく規模で引き離されています。
市場規模
当サイトでは、各種公表されている情報をもとに、2021年の鉄道車両業界の世界市場規模を、保守サービスもあわせた1100億ドルとして市場シェアを計算しております。参照にした情報は以下の通りです。
調査会社のグランドビューリサーチによると、2021年の鉄道車両の市場規模は592億ドルです。2030年にかけて年平均5.8%での成長を見込みます。
調査会社のリポートリンカーによると、2021年の鉄道車両の保守メンテナンスの市場規模は484億ドルです。2027年にかけて年平均5.72%での成長を見込みます。
欧州鉄道産業連盟によれば2017~2019年の年平均鉄道車両と保守サービス市場規模はそれぞれ619億ユーロ、650億ユーロです。2025年にかけて年平均2.3%での成長を見込みます。
調査会社のアライドマーケットリサーチによると、2018年の鉄道車両の市場規模は586億ドルで、2026年にかけて2.9%の成長を見込みます。
鉄道車両のパーツメーカーまでも含めるとすそ野が大きい市場です。特に運行や保守サービスの市場規模は、車両のみの市場規模より大きくなっています。⇒参照したデータの詳細情報
年 | 鉄道車両市場規模 | 保守市場規模 | 成長率 |
---|---|---|---|
2021年 | 592億ドル | 484億ドル | 5.8% |
2020年 | 700億ドル | 700億ドル | – |
2019年 | 619億ユーロ | 650億ユーロ | 2.3% |
2018年 | 586億ドル | – | 2.9% |
売上高ランキング
2021年度10-12月*四半期売上高をベースとした鉄道車両・部品メーカーのランキングでは、1位中国中車、2位アルストム、3位シーメンスとなっています。引続き中国中車の巨大さが光ります。日立製作所は、GEの貨車事業を買収したワブテックとCAFに次ぐ世界6位です。⇒参照したデータの詳細情報
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*2021年7-9月の売上高
M&A
グローバルプレイヤーに各地域の有力鉄道車両会社が挑む形となっております。
- 2010年 米キャタピラによる米機関車製造大手のEMD買収
- 2011年 仏アルストムによるロシアのTransmashholdingの25%の株式の買収
- 2012年 ドイツのジーメンスによる英Invensys Railの買収
- 2015年 中国の北車集団と南車集団が経営統合をし中国中車が誕生
- 2015年 日立がイタリアのフィンメカニカ傘下のAnsaldo Brenda(アンサルドブレーダ) とアンサルドSTSを買収
- 2015年 仏アルストムによるGE鉄道車両事業の買収
- 2015年 米ワブテックによる仏フェヴレの買収
- 2017年 アルストムとシーメンスが鉄道車両事業の経営統合で合意
- 2019年 アルストムとシーメンスの経営統合が欧州委員会により却下
- 2020年 アルストムとボンバルディアが鉄道車両部門の経営統合で合意
- 2020年 中国中車がVosslohの貨車事業を買収
- 2021年 日立が仏タレスの鉄道信号事業を買収
鉄道車両の種類
鉄道車両には、路面電車の進化系ともいえる、ライトレール、地下鉄、通勤電車、新幹線などの高速鉄道、機関車、モノレールという種類があります。鉄道車両メーカーにも、得意とする種類があります。
例えば、ボンバルディアは、ライトレールからモノレールまで、全てを手掛けていますが、一方で日本の川崎重工は、地下鉄、通勤電車や高速鉄道に注力しています。
こうした種類に加えて、鉄道車両関連の鉄道信号やシステムを手掛けているかで、メーカー各社の戦略の違いが分かります。鉄道関連メーカーは、車両メーカー、鉄道信号制御装置メーカー、車両部品メーカーに大きく分かれます。
鉄道車両部品の一覧
鉄道車両部品には、高サ調整装置、ブレーキ制御器、空気管開閉器、基礎ブレーキユニット、ABS、ブレーキ指令器、ブレーキ受量器、ブレーキ制御装置、空気ダメ、インバータ、除湿装置、電動空気圧縮機、速度センサ、戸閉装置等の数多くの部品が必要となります。一般社団法人 日本鉄道車輌工業会によれば、車両は、大きく構体、側窓・側引戸、車両の内装、腰掛、車内放送装置、車内表示器、トイレ、連結幌、パンタグラフ、ボルスタレス台車、車輪・車軸、歯車装置、VVVFインバータ装置、補助電源装置、ブレーキ装置、空調装置、抵抗器、車上演算ATC、ATS車上装置、デジタルATC、ディーゼルエンジン、推進軸、冷却器、変速機、キャリパブレーキ、主電動機、主電動機用軸受、戸閉装置、オイルダンパ、速度発電機、車軸用軸受、空気ばね、床下配管等で構成されています。
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鉄道会社の世界市場シェアの分析
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鉄道車両メーカー概要
中国中車(China Railway Rolling Stock Corporation、CRRC)
中国中車(CRRC)は、中国南車(CSR)と中国北車(CNR)が2015年に合併をして誕生した世界最大級の車両メーカーです。広大な中国市場における独占企業として規模では他の競合他社の群を抜いています。中国政府の海外インフラ支援に伴い、今後は海外での展開も選択肢となっています。高速車両では、川崎重工の新幹線をベースとしたCRH2型、ドイツのシーメンスの技術をベースとしたCRH380B型、国産車両であるCR400型が主要な車両となっています。日立やアルストムなどとも合弁会社を展開し、高速鉄道から機関車まで幅広く手掛けています。さらに詳しく
Alstom(アルストム)
アルストム(Alstom)は、フランスの鉄道車両や鉄道信号メーカーです。フランスの高速鉄道の代名詞であるTGVを手掛けた高い技術力を有します。2014年にGEの鉄道車両事業を買収しました。2017年に鉄道事業をドイツのシーメンスと経営統合する発表をしましたが、規制当局の承認が得られず断念しています。また、2020年にボンバルディアの鉄道車両・信号部門の買収を発表しました。
水力タービンと蒸気タービンの分野も展開していましたが、ガスタービンに強いGEとの提携で、タービン分野での強者連合を形成しました。2014年にGEと 送配電事業を含む電力事業において戦略的提携を行い、2018年にGEに電力事業を売却し、現在は鉄道事業に特化しています。鉄道信号にも強みを持ちます。続きを読む
Bombardier(ボンバルディア)について
カナダのケベック州に本拠を置く航空機・鉄道車両の大手メーカーです。2001年にAdtranz(アドトランツ、ドイツ)を買収して鉄道車両事業へ参入しました。鉄道車両製造はBombardier Rail Transportationが行っています。地下鉄・都市鉄道に強みを持ちます。2020年にアルストムへ鉄道事業を売却しました。航空機事業については、機体はCRJで識別されています。2017年にエアバスが、ボンバルディアのA220などを手掛ける小型機部門に出資をしました。2020年に小型機事業の持分をエアバスに売却をしました。
Siemens(シーメンス)
シーメンス(Siemens AG)は、ドイツのミュンヘンに本拠を置く大手総合電機メーカーです。1847年に、ヴェルナー・フォン・ジーメンス (Werner von Siemens) によって設立されました。世界初の電車を製造したことでも有名です。事業範囲は電力、交通システム、家電、医療等と社会インフラ全般に及びます。事業のポートフォリオを組み替えながら、モノ作りのデジタル化や産業機器のIoT化を含むインダストリー4.0を提唱し、強力に推進しています。米国のライバルであったGEと同じように再編を通じて、その時々の社会ニーズに即した組織体を作り上げる柔軟性のある経営を行っています。鉄道車両はグループ内のモビリティ事業本部が担当しています。ICEで知られるドイツの高速鉄道も手掛けています。2017年には鉄道車両部門でアルストムと経営統合を発表しましたが、2019年に欧州委員会がアルストムとの経営統合を承認せず遂行されませんでした。鉄道信号にも強みを持ち、上位株主には、象徴としてのシーメンス家が引き続き残っています。さらに詳しく
CAF(コンストルクシオネス・イ・アウクシリアル・デ・フェロカ Construcciones y Auxiliar de Ferrocarriles)
1917年創業のスペインの最大手鉄道車両メーカーです。マドリード証券取引所に上場しています。
Stadler Rail(シュタッドラー・レール)
1942年創業のスイスの大手鉄道車両メーカーです。
Transmashholding(トランスマッシュホールディングス)
ロシアを代表する鉄道車両メーカーです。Ministry of Transportation of the Russian Federation(ロシア交通省)傘下のロシア鉄道です。仏Alstom(アルストム)等が株式を保有していますが、非公開会社です。
Wabtec(ワブテック、Westinghouse Air Brake Technologies Corp)
ワブテックは、米車両製造大手です。NYSEに上場しています。1999年にWestinghouse Air Brake Company (ウェスティンハウス・エアブレーキ、WABCO) とMotivePower Industries Corporation(モーティブパワーインダストリー)の合併で誕生しました。2015年にフランスのFaiveley(フェヴレ)を買収しました。2018年にGEトランスポーテーションと経営統合をするなど、事業の拡大に積極的です。
Faiveley(フェヴレ)
仏車両製造大手です。ユーロネクストに上場していましたが、2015年に米ワブテックに買収されました。
GE Transportationについて
GE Transportationは米GEの車両製造部門でした。機関車製造や鉄道信号を得意とします。2015年にアルストムと鉄道車両事業を統合し、GEトランスポーテーションが設立されました。2018年にGEトランスポーテーションを分社化し、米機関車・貨客車製造大手ワブテックと経営統合をしました。
GEについて
GE(ジェネラル・エレクトロニック)は、1878年にトーマス・エジソンによって設立されたエジソン電気照明会社を源流に持つ世界を代表する総合電機メーカーの老舗です。世界シェア1位か2位以外の事業からは撤退するというナンバーワン・ナンバーツー戦略を実施し、積極的な事業ポートフォリオの入れ替えを行うことでも有名です。インダストリアル・インターネットを成長戦略にしたジェフ・イメルト氏が退任した後、2017年に生え抜きのジョン・フラナリー氏が社長に就任したものの、2018年には外部のダナハーからラリー・カルプ氏が招聘され、新CEOとなるなど、経営陣の交代が続きます。2021年にGEをヘルスケア部門、電力・エネルギー部門、航空部門の3社へと分社化することを発表しました。さらに詳しく
Vossloh(フォスロ)
ドイツに本拠をおく車両部品メーカーです。1888年に創業し、当初はRoyal Prussian Railway(プロシア王立鉄道)向けに部品を供給していました。現在は鉄道レールの締具などに強みを持ちます。ドイツの富裕ファミリーであるHeinz Hermann Thiele一族が過半の株式を保有しています。フランクフルト証券取引所に上場しています。
Škoda Holding(シュコダ・ホールディング)
チェコ共和国の重工コングロマリットの名門企業です。Skoda Transportation(シュコダ・トランスポーテーション)が車両製造を担当しています。
Rotem Hyundai (現代ロテム)
韓国の大手車両メーカーです。現代精工・大宇重工業・韓進重工業の統合により誕生しました。韓国鉄道車輌株式会社(Korea Rolling Stock)より社名変更しています。
Electro-Motive Diesel(エレクトロ・モーティブ・ディーゼル)
米機関車製造大手メーカーです。現在は米Caterpillar(キャタピラー)傘下となっております。
キャタピラーについて
Caterpillar(キャタピラー)は1925年に設立された米国に本社を置く世界最大の建機・重機メーカーです。CATの愛称と建機における黄色の配色が特徴です。資源開発や建設工事向けの建機、鉱山機械、船舶エンジンなどを手掛けます。部品交換などのサポート体制が充実している点に強みがあります。リアルタイムのデータ収集はProduct Linkで展開しています。さらに詳しく
Knorr-Bremse AG(クノールブレムゼ)
独ミュンヘンに本社を置き、鉄道車両向けのブレーキシステムの製造・販売を行う独立系サプライヤーです。
Trinity Industries(トリニティ・インダストリーズ)
米国車両製造大手です。ホッパー貨車等を手掛けています。
日立
日立製作所は、久原鉱業所日立鉱山付属の修理工場として、1910年に創業された日本を代表する重電メーカーです。IT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフを主要領域とします。配電事業、自動車部品、エレベーター事業や鉄道事業は強化する一方で、日立化成、日立金属、日立キャピタル、日立建機等は外部へ売却をし、選択と集中を進めています。さらに詳しく
Ansaldo Brenda(アンサルドブレーダ)
伊政府系の軍産複合企業大手のFinmeccanica(フィンメッカニカ)傘下で伊ナポリに本拠を置く大手車両メーカーです。兄弟会社に鉄道信号大手のAnsaldo STS(アンサルドSTS)があります。2015年に日立が買収をしました。
川崎重工業(Kawasaki)
1896年に松方正義の支援によって川崎正蔵氏によって設立された川崎築地造船所を源流とする日本を代表する宇宙防衛・重電大手メーカーです。戦前の神戸川崎財閥には、川崎造船(川崎重工)の他に、川崎汽船、川崎製鉄(JFE)が属していました。技術者の育成には定評があります。現在は、防衛、航空エンジン、鉄道車両、プラント、油圧機器、溶接やシリコンウエハの搬送等の産業用ロボット、造船、中大型バイク、オフロード四輪車、パーソナルウォータークラフト(ジェットスキーの商標で展開しています)、汎用エンジンを開発製造しています。さらに詳しく
中国鉄路通信信号(CRSC)
中国政府系の鉄道信号大手です。2015年に香港市場にて株式を公開しました。
Thales(タレス)
タレス(Thales )は、フランスに本拠を置く防衛・重電メーカーです。前身はThomson-CSF社で、現在は航空関連の電子サービス(Flight avionics)、衛星、鉄道信号、マイクロ波、防衛セキュリティ、本人認証サービス等の分野を手掛けています。航空機部品は、ハネウェルやコリンズエアロスペースが競合会社です。エアバス、ATR、ベル、ボーイング、ボンバルディア、ダッソーアビエーション、エンブラエル、ガルフストリーム、レオナルド等へ販売をしています。機内エンターテイメント事業にも強く、グローバルイーグルエンターテイメント、ゴーゴー、パナソニック アビオニクスやゾディアック インフライト イノベーションズ(サフラングループ)と競合しています。マイクロ波およびイメージングサブシステムでは、Varian Medical Systems、CPIやL3Harrisと競合しています。2021年に日立に鉄道信号事業を売却しました。さらに詳しく
JR東日本
JR東日本(東日本旅客鉄道)は1987年に旧国鉄が民営化されて誕生した日本最大の鉄道運行会社です。首都圏と東日本を地盤にしています。駅周辺の開発事業、駅ナカの物販、Suicaを活用した決済事業など非鉄道事業の育成にも力を注いでいます。さらに詳しく
参照したデータの詳細情報について