リチウムを採掘し、水酸化リチウムや炭酸リチウムなどに加工する業界の市場シェアと市場規模について分析をしています。アルベマール、ティアンキ・グループ、SQM、ピルバラミネラルズ、ガンフォンリチウムといった大手リチウム資源開発会社の概要や動向も掲載しています。
【リチウムとは】
二次電池や窯業に利用される金属です。特に二次電池のリチウムイオン電池の主要材料として重要な金属となっています。リチウムの生産方法は、塩湖(Lithium Brine、リチウム・ブライン)からのかん水方式とリチウム鉱石(Lithium Mineral)から取り出す方式、Rio Tinto方式の3種類の方式があります。
世界のリチウム資源は大まかに、1)塩湖のかん水からの回収、2)ペグマタイト鉱床等に含まれるリチウム鉱物であるリシア輝石(spodumene)、葉長石(petalite)などからの回収、3)近年セルビアにおいてRio Tintoにより発見された新鉱物「jadarite」からの回収(ただし未だ回収技術の開発中)の3種類に分類することができます。(出所:JOGMEG)
精製過程の産出物である塩化リチウム(Lithium Chloride)は乾燥剤や融剤として利用され、炭酸リチウム(Lithium Carbonate)は花火の材料、釉薬、製鉄連鋳用フラックス、弾性表面波フィルターや医薬品の材料として用いられます。水酸化リチウム(Lithium Hydroxide)は電解質、添加剤、現像液、炭酸ガス吸収触媒等に用いられます。
バッテリーグレードの炭酸リチウムや水酸化リチウムでは、SQM、アルベマール、ガンフォンリチウム、ティアンキ、ライベントが主要な生産会社となっています。
リチウム関連素材の用途
リチウムの価格推移
リチウム価格が14ドル前後だと、生産コストを上回り、リチウム生産会社の利益が出る水準です。
2022年に入り、EV化が加速していることから、リチウム価格も高位安定しています。
CMEリチウム先物(当月当限)
さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍と関連サイト
リチウムイオン電池が未来を拓く
全固体電池の入門書 -次世代リチウムイオン電池
リチウムイオン電池の市場シェアの分析
ニッケル生産会社の世界市場シェアと市場規模の分析
コバルト生産・採掘会社の世界市場シェアの分析
【市場シェア】
リチウム生産加工会社の2023年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2023年のリチウム生産加工業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位はアルベマール、2位はティアンキ・グループ、3位はSQMとなります。⇒参照したデータの詳細情報
リチウム資源開発会社の市場シェア(2023年)
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | Albemarle(アルベマール) | 22.30% |
2位 | Tianqi Group(ティアンキ・グループ) | 17.84% |
3位 | SQM | 16.32% |
4位 | Pilbara Minerals(ピルバラミネラルズ) | 12.80% |
5位 | Ganfeng Lithium(ガンフォンリチウム) | 11.27% |
6位 | Allkem(アルケム) | 3.80% |
7位 | Livent Corp(ライベント) | 2.78% |
8位 | Mineral Resources(ミネラル・リソーシズ) | 2.49% |
市場シェア1位はアルベマールです。サウスカロライナ州にリチウム処理工場を建設し、水酸化リチウムの生産を開始しました。また、2027年までにノースカロライナ州の新たなリチウム鉱山の操業を開始予定で、リチウム生産能力を拡大し続けています。
市場シェア2位はティアンキ・グループです。リチウム電池用途の需要拡大に備えるため、固体電池を含む新エネルギー材料や次世代電池技術メーカーへの投資を続けています。今後5年間で、サプライチェーン全体にわたる既存のリソースとパートナーシップを活用して、高品質のリチウム資源を開発し、リチウム化学処理能力を拡大し、関連分野での市場シェアを拡大する予定です。
市場シェア3位はSQMです。チリの炭酸リチウム生産能力を2024年第1四半期中に21万トンまで拡大しました。2025年前半までに水酸化リチウムの生産能力を5万トンに拡大する予定です。
【市場規模】
当サイトでは、2023年のリチウム業界(金額ベース)の市場規模を317.5億ドルとしております。参照した各種データは以下の通りです。
調査会社のグランビューリサーチによると、2023年の同業界の市場規模は317.5億ドルです。2024年には280.8億ドルに減少するが、2024年から2030年にかけて年平均17.7%で成長し、同年には748億ドルに達すると予測しています。⇒参照したデータの詳細情報
年 | 市場規模 | 成長率見込み |
---|---|---|
2023年 | 317.5億ドル | – |
2024年 | 280.8億ドル | -11.56% |
2030年 | 748億ドル | 17.7% |
【M&Aの動向】
2012年 炭酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウムを生産・販売するティアンキティアンキが、リチウム生産会社Talisonを買収
2015年 機能性化学メーカーAlbemarleが、化学品および材料の製造を行いリチウム関連の製品も扱っているRockwoodを買収
2018年 総合商社の豊田通商が、リチウム・カリウム資源の開発会社Orocobreに出資
2018年 炭酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウムを生産・販売するティアンキが、化学品メーカーSQMの株式を23.77%をNutrienから取得
2019年 FMCがリチウム事業をライベントとして分社化
2020年 リチウムとタンタルの生産と販売をするピルバラミネラルズが、リチウム採掘および生産などを行うAlturaのリチウム事業の買収を合意
2021年 リチウムを中心とする資源会社Galaxy Resourcesと豪州に上場するリチウム・カリウム資源の開発会社Orocobreが経営統合
2022年 リチウム採掘・生産会社であるガンフォンリチウムが、リチウム探査企業LitheAの買収予定を発表
2023年 リチウム生産会社アルケムが、リチウム生産会社ライベントの買収予定を発表
【会社の概要】
Albemarle(アルベマール)
米国に本拠を置く機能性化学メーカーです。リチウム化合物、臭素、触媒等の特殊化学品を得意としています。2014年にリチウム生産大手のロックウッドを買収し、リチウム分野で世界最大の会社となりました。
成都天斉実業(Tianqi Group、ティアンキ・グループ)
シンセン証券取引所に上場する炭酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウムを生産・販売する民間企業です。子会社でリチウム開発・生産を手掛けるTianqi Lithium Corporation(ティアンキ・リチウム・コーポレーション)が中核です。豪州のGreenbushes鉱山等を手掛けています。2018年に香港証券取引所に上場しました。主要株主及び経営メンバーはJiang Weiping(江偉平)氏です。SQMの持ち分の一部をNutrien(ニュートリエン)から2018年に買収にしましたが、2019年に巨額の減損を発表しました。2021年にタリソンリチウムの持分の一部をIGOに売却しました。
上場前の株主構成
SQM(ソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ)
チリに本拠を置く化学品メーカーです。アタカマ塩湖を利用し、かん水からリチウムを生産しています。カリウムや硝酸カリウム等の肥料、ヨード(Iodine)関連の工業用化学品の生産も行っています。
2021年までに炭酸リチウムの生産能力を4倍に増やすことを検討しています。投資会社であるPampa Calichera(パンパ・カリシェラ)を率いるフリオ・ポンセ(Julio Ponce Lerou)氏が長く支配を行っています。肥料大手のPotash(ポタッシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワン、現Nutrien(ニュートリエン))が30%超の株式を保有していましたが、成都天斉実業(ティアンキ・グループ)が4400億円で約25%の株式を取得しました。
ピルパラ・ミネラルズ(Pilbara Minerals Limited)
豪州の中堅資源開発会社で、リチウムとタンタルに特化しています。中国の大手自動車メーカーである長城汽車(グレート・ウォール・モーター)が2017年に出資しました。
Ganfeng Lithium(ガンフォンリチウム、江西贛鋒鋰業)
ガンフォンリチウム(江西贛鋒鋰業)は、2000年に設立された中国のリチウム採掘・生産会社です。炭酸リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムなどを手掛けています。中国以外でもリチウム権益保有会社への出資を通じ、オーストラリア、アルゼンチン、メキシコやアイルランドで事業を展開しています。2010年にシンセン証券取引所に上場をしました。2019年にドイツのVWと10年間にわたるリチウムの供給を合意しました。VW以外にもテスラ、パナソニック、LG化学、フォルクスワーゲン、サムスン、そして最近ではBMWにリチウムの供給をしています。ティアンキが筆頭株主となっています。さらに詳しく
TAllkem(アルケム)
リチウムを中心とする資源会社Galaxy Resourcesと豪州に上場するリチウム・カリウム資源の開発会社Orocobreが合併して誕生した企業です。
ライベント(Livent Corp)
米国に本拠を置く総合化学品メーカーであるFMCから分社化独立したリチウム生産会社です。アルゼンチンのSalar del Hombre Muerto(オンブレ・ムエルト塩湖)にてかん水から生産するリチウムが主力です。
Mineral Resources(ミネラル・リソーシーズ)
豪州の中堅資源開発会社です。鉄鉱石、マンガン、リチウムがメインです。リチウムは、中国のGanfeng Lithium(ガンフォンリチウム)社と共同で手掛けるMt Marion lithium project(マウント・マリオン・リチウム・プロジェクト)を手掛けています。
Talison(タリソン)
豪州のリチウム生産会社です。主にペグマタイト系リチウム鉱床であるGreenbushes(グリーンブッシュ)鉱山からリチウムを生産しています。同鉱山は、品位と埋蔵量が、他の鉱山の群を抜いています。かん水リチウムではSQMが最大手、鉱石リチウムではタリソンが最大手です。
2012年に成都天斉実業(Tianqi Group、ティアンキ・グループ)が買収し、現在は51%の株式を保有しています。(49%はアルベマールが保有しています。)2020年にオーストラリアの金やニッケル開発会社であるIGOが、ティアンキが保有するタリソン株式の49%を買収しました。
名前 | 持分比率 |
---|---|
アルベマール | 49% |
ティアンキ | 26.01% |
IGO | 24.99% |
タリソンの持分比率©ディールラボ
ギャラクシー・リソーシズ(Galaxy Resources Limited)
リチウムを中心とする資源会社です。オーストラリア、カナダ、アルゼンチンで硬岩と塩水鉱物から成る多様なプロジェクトのポートフォリオを保有しています。西オーストラリア州のマウント・キャトリン(Mt.Cattlin)にあるリチウムとタンタルの鉱山でリシア輝石を生産しています。2021年にオロコブレ(Orocobre)との経営統合を発表しました。
オロコブレ(Orocobre Ltd)
豪州に上場するリチウム・カリウム資源の開発会社です。アルゼンチンのオラロス塩湖(オラロス)のプロジェクトに注力しています。2018年に豊田通商が15%の持分を約260億円で取得すると発表しました。拡張プロジェクト(フェーズ2)終了後のオラロスでの炭酸リチウム生産能力は42,500トン/年を予定しています。なお、100万台の高性能EVに必要な炭酸リチウムは約6万トン、1000万台なら約60万トンが必要と言われております。
美都能源(MeiDu Energy Corporation)
中国のエネルギー開発会社です。リチウム鉱山開発を手掛ける山東瑞福鋰業有限公司(Shandong Ruifu Lithium)を2018年に買収して、同分野に参入しました。
参照したデータの詳細情報について
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