自動倉庫、台車、仕分機、コンベヤ、マテリアル・ハンドリング業界の世界市場シェアや市場規模の情報を分析しています。ダイフク、シェーファー、キオン(デマティック)、豊田自動織機(ファンダランデ)等の主要マテハン会社概要も掲載しています。
市場シェア
調査会社のモダンマテリアルハンドリングが発表している2019年マテリアルハンドリング会社の売上高を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして2019年の市場シェアを簡易に試算しますと、以下の順位となります。
- 1位 ダイフク 8.0%
- 2位 シェーファー 6.4%
- 3位 キオン 5.3%
- 4位 ハネウェル 3.6%
- 5位 村田機械 3.6%
- 6位 豊田自動織機 3.4%
- 7位 クナップ 2.7%
- 8位 ボイマー 2.2%
- 9位 マテリアルハンドリングシステム 2.0%
- 10位 スイスログ 1.8%
- 11位 TGWロジスティクス 1.7%
- 12位 ヴィトロン 1.3%
- 13位 カーデックス 1.1%
日本のダイフクとドイツのシェーファーが世界シェア・ランキングの首位を激しく争っています。3位はデマティックを買収したフォークリフト大手のキオン、4位はインテリグレイテッドを買収したオートメーション業界大手のハネウェル、6位はファンダランデを買収した豊田自動織機です。中堅マテハン専業会社が他業態の大手企業に買収される等、業界再編が起こっています。
マテリアル・ハンドリングとは
工場や物流拠点内の全てのモノ(原材料、製品、半製品)の移動やロジスティクスを総称してマテリアル・ハンドリングといいます。特徴としては、顧客が物流会社や製造会社等多岐に亘り、さらに設置環境毎に製品仕様をカスタマイズする必要があるため、統合による規模のメリットを追求しにくい業界です。
市場規模
調査会社のグローバルマーケットインサイツによれば、マテリアルハンドリング機器業界の2018年の世界市場規模は1400億ドルです。2019~2025年で年平均6%の成長を見込みます。
調査会社のグランビューリサーチによれば、同業界の2018年の市場規模は266億ドルです。
調査会社のモードーインテリジェンスによれば、同業界の2019年の市場規模は505億ドルです。
当サイトでは、市場シェア算定にあたり、マテリアルハンドリング機器業界の市場規模として500億ドルを採用しました。
世界の主要なマテハン会社概要
ダイフク(Daifuku)
日本かつの最大手のマテリアル・ハンドリング・メーカーです。薬品、食品などの工場で保管・搬送・仕分け・ピッキングを全自動で行えるシステムや機器を提供しています。半導体や液晶製造工場でのクリーンルーム対応の保管・搬送システムも強みです。自動車の製造工程や空港の手荷物搬送(バゲッジハンドリング)も行っています。
SSI Schaefer Group(シェーファー)
1937年に創業のドイツの大手自動搬送機メーカーです。Schaefer一族が支配する非公開会社です。自動化のソフトウェアからピッキングシステムまで工場内の自動化・効率化に包括的に対応できる体制を整えています
MECALUX(メカルックス)
スペインに本拠を置く大手自動搬送機メーカーです。自動倉庫システムに強みを持ちます。
村田機械(Muratec)
日本の大手マテリアル・ハンドリング・メーカーです。非上場会社です。
キオン/Dematic(デマティック)
ドイツに本拠を置く自動搬送機の大手会社です。投資会社のAEAに買収されたのち、フォークリフト業界大手のキオンが買収しました。キオンは、フォークリフトを納入している工場での、搬送の自動化等をディマティックと行う計画です。
豊田自動織機/VanDerLande(ファンダランデ)
ドイツに本拠をおくマテリアル・ハンドリング大手メーカーです。かつて日本のダイフクと資本提携していましたが、2017年に豊田自動織機が買収しました。
KARDEX(カーデックス)
スイスに本拠をおく自動運搬機器メーカーです。日本ではアルテック社と組み、縦型リフト式 自動収納庫などを展開しています。
Konecranes(コネクレーンズ)
港湾用搬送機メーカーです。Cargotec(カーゴテック)とは同根です。Cargotec(カーゴテック)は2005年にクレーン大手のKone(コネ)社より分社化設立されたフィンランドの名門企業。コンテナ部門(カルマー、Kalmar Industries AB)、貨物部門(Hiab and Moffett)、海上輸送部門(マックグレゴー、MacGREGOR)等を運営しています。なお、フィンランドを代表する、クレーン大手のCargotec(カーゴテック)社設立までの再編は、次の通りです。
- 1985年 フィンランドのエンジニアリング大手のPartek(パルテック)が、陸上用荷役クレーン大手のHiab(ヒアブ)を買収
1997年 Partek(パルテック)が、フィンランドの国営荷役会社のSisu(シス)と、スウェーデンの港湾コンテナ荷役大手のKalmar(カルマー)を買収
2000年 Hiab(ヒアブ)がフォークリフトメーカーのZepro(ゼプロ)を買収、Kalmar(カルマー)はコンテナ荷役のBromma(ブロンマ)を買収 - 2001年 Kalmar(カルマー)が、オランダの船舶用荷役大手のNelcon(ネルコン)を買収
2002年 フィンランドの産業機器大手のKONE(コネ)が、Partek(パルテック)を買収
2005年 KONE(コネ)がMacGREGOR(マックグレゴー)を買収後、旧ヒアブ、カルマー、マックグレゴーをCargotec(カーゴテック)として、分社化します。同社はヘルシンキ証券取引所に上場しました。
ハネウェル/Intelligrated(インテリグレイテッド)
米国に本拠を置くマテリアル・ハンドリング大手です。投資会社のPermiraが買収後、ハネウェル傘下へとなりました。
ハネウェル(Honeywell)は1886年に設立された米国に本拠を置く複合企業です。航空機エンジンや電子制御機器、自動化機器、特殊素材分野、自動車部品等幅広く展開しています。ビルディング・オートメーションやターボチャージャーの分野では世界大手の1社です。2017年にターボチャージャー事業と住宅向け空調機器、火災報知器事業を分社化しました。
ハネウェル社の事業構成は、大きく1999年に経営統合をしたアライドシグナル社を受け継ぐエアロスペース、オートメーション&コントロール・ソリューションズ、高機能素材(パフォーマンスマテリアルズ)、セーフティ&プロダクティビティソリューションの4部門に分かれます。エアロスペース部門の中の輸送機器部門(トランスポーテーション)で、直近約30億ドルの売上のあるターボチャージャー事業と、オートメーション&コントロール・ソリューションズ部門に属し約45億ドルの売上のある住宅向け部門を分社化しました。オートメーション事業部門は、今後商業やオフィースビル向けに特化することになります。
両事業売却後のハネウェル社の売上構成は以下の通りとなります。

分社化後の売上構成 出所:同社アニュアルレポート
エアロスペース部門:
航空機エンジンの分野ではGEやロールスロイスと並び世界大手の一角となっています。民間航空機、軍用航空機、軍用輸送機、ヘリコプター、ミサイル、戦車向けのナビゲーションやディスプレイ等の各種製品を幅広く展開しています。
オートメーション&コントロール・ソリューションズ:
ビルディング・オートメーション業界の世界シェアではシーメンスやジョンソンコントロールズを抑えて世界最大級の規模を誇ります。スイッチやセンサー、テスト、測定機器等も製造しています。倉庫内オートメーション業界(マテハン業界)では、Intelligrated(インテリグレイテッド)を買収して参入しました。
高機能素材部門:
ユーリッド (JURID)とベンデックス(Bendix)ブランドのブレーキパッド、温度調整装置のサーモスタット、温度センサー、湿度センサー、温度プローブ、スピードセンサー、半導体磁気抵抗(MR)センサ 、電流センサー、監視カメラ、カーエアコン用等の冷媒、溶媒、エアゾール用噴射剤、発泡剤、バリアフィルム、サーマル・インターフェース材料、スペクトラ繊維等を手掛けています。センサー分野では、2015年にElster(エルスター)を買収しスマートメーターを強化しております。
ターボチャージャー事業
分社化対象となった、ターボチャージャー事業は、1999年に買収したAlliedSignal(アライドシグナル)のGarrett (ギャレット)ブランドを世界展開しており、ターボチャージャー事業の世界シェアは世界1位となっています。主に自動車や船舶向けのエンジンで使われていますが、今後の輸送機の動力の脱石化への変化(ガソリン・ディーゼルからより、クリーンな電気や水素などの燃料へ)といった需要減を見込んでの、分社化の決定と思われます。
住宅向け火災報知器や温度調整事業
ハネウェルの火災報知器事業は、こちらも世界シェア1位となっています。火災報知器の分野では2016年に投資ファンドのPEPから、アイルランドに本拠を置くXtralisを買収しています。サーモスタット事業は、ハネウェルの祖業の事業であり、ハネウェルのサーキュレイター(扇風機)とともに、一般の消費者には馴染みのあるブランドとなっています。また、あわせて、上記の商品のディストリビューション事業(ADI)も分社化をします。
分社化の背景
事業が赤字になったから、分社化をするという追い込まれた形の分社化ではなく、同社のプレスリリースにunlocking significant valuesとあるように、両事業の潜在的な価値を最大化するという観点での組織再編のようです。確かに、同社のポートフォリオは、航空機エンジンから扇風機やサーモスタットまで、多岐にわたり、今回分社化する事業も、世界シェア1位の事業が含まれていて、潜在的な価値が埋もれている(コングロマリット・ディスカウント)の状態なのかもしれません。
一方で、ハネウェルの最大の強みである、航空機部品の分野では、最大のライバルであるレイセオンテクノロジーズ(旧ユナイテッドテクノロジーズ)が離着陸システムや航空機通信システムに強みを持つロックウェルコリンズを買収して、航空機部品メーカーとしての規模を拡大し、エアバスやボーイングとの価格競争力を高めようとしています。一方で、エアバスやボーイングも、新規に発注される航空機のダウンサイジングの影響を受け、航空機エンジンのアフターサービスに参入して、今までは航空機備品メーカーの金城湯地であった航空機の保守、修理、メンテナンスの分野でハネウェルやレイセオンテクノロジーズとの競合を始めています。ハネウェルとしては、分社化を経て同分野へのさらなる経営資源の集中を図ることになると思われます。
最後に、アクティビストファンドの代表格であるダン・ローブ氏率いるサードポイントがハネウェルの大株主となっていることも見逃せません。分社化・再編の背景には、株主からの圧力もあったものと推察されます。
Knapp(クナップ)
オーストリアに本拠をおく1952年に設立された倉庫内物流・オートメーション大手会社です。欧州を中心とした薬品や化粧品卸向けピッキングシステムに強みを持ちます。ダイフクと提携をしています。
Fives Group(フィブグループ)
2001年創業のフランスのマテリアル・ハンドリング大手です。仏保険大手のAXA傘下の投資会社が買収しました。
Witron GmbH(ヴィトロン)
ドイツに本拠を置く大手自動搬送機メーカーです。
Swisslog(スイスログ)
ドイツの産業用ロボットメーカーKUKA傘下の自動搬送機メーカーです。
Beumer(ボイマー)
ドイツの大手マテハン会社です。非公開です。
業界の再編
- 2013年 KUKAによるスイスログの買収
- 2016年 MideaグループによるKUKA買収
- 2016年 ハネウェルによるIntelligrated(インテリグレイテッド)買収
- 2016年 キオンによるDematic(デマティック)買収
- 2017年 豊田自動織機によるVanDerLande(ファンダランデ)買収
業界関連図書
- マテリアルハンドリング・システム活用術―MHSがロジスティクスを進化させる「下地賞」受賞研 [単行本]
- 未来を味方にする技術 ~新しいビジネスを創り出すITの基礎の基礎 [Kindle版
- JISハンドブック 産業オートメーションシステム [単行本]
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