肥料業界の世界シェア、売上高ランキング、市場規模と業界再編の情報を分析しています。ニュートリエン、ヤラ、モザイク、ウラルカリ、ICLグループ(旧イスラエルケミカルズ)といった肥料メーカーの動向も掲載しています。
【肥料の基礎知識】
肥料の3大要素は、リン酸(phosphate)、カリ(Potash、Kalium、加里)、窒素(nitrogen)です。五大要素は、リン酸、カリウム、窒素に加えカルシウム(石灰)とマグネシウム(苦土)です。
根・茎や幹の成長の要素となるカリウムはカナダとロシアが一大産地(世界生産量の7割超)となっており、カナダの肥料会社やロシアの肥料会社が強い背景にもなっています。一方で、花や実に影響があるリン酸も産地が米国、中国、モロッコ、ブラジル等に産地が限定されています。植物の葉の成長を促す窒素は、主にアンモニアから製造され、原油や天然ガスの価格の影響を受けます。
カルシウムは植物の肥料の吸収を促進し、マグネシウムは植物の新陳代謝を活性化する効果があります。
肥料は、原料となるリン酸、カリウム、窒素(アンモニア)を配合して作る(※下記化学肥料の作り方を参照)ため、加工における技術は余り必要としません。また、肥料のコストに占める原料の割合が非常に高く、リンやカリウム等の主要原料を押さえているかが競争優位の源泉となります。日本の肥料会社は、原料を輸入に頼っており、肥料原料の価格変動等の影響等を大きく受けてしまいます。
化学肥料の作り方
化成肥料とは、数種類の肥料を化学的に配合して成形・造粒した肥料のことをいいます。
配合飼料とは、数種類の肥料を配合した肥料のことをいいます。
肥料の種類によって、単肥(リン・カリ・窒素の要素が1種類)・複合肥料(配合・化成肥料、ペーストや液状肥料)・有機質肥料(たい肥や魚かす、油かすなど)へも分類できます。
※化学肥料の作り方
【肥料業界の世界市場シェア+ランキング】
肥料会社各社の2023年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、後述する肥料業界の市場規模を分母にして、2023年の肥料業界の世界市場シェアを計算すると、1位はカナダのニュートリエン、2位はノルウェーのヤラ・インターナショナル、3位は米国のモザイクとなっています。
肥料会社の市場シェアと業界ランキング(2023年)
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | Nutrien Ltd.(ニュートリエン株式会社) | 16.47% |
2位 | Yara International ASA(ヤラ・インターナショナル、ヤラ) | 8.75% |
3位 | The Mosaic Company(モザイク カンパニー) | 7.76% |
4位 | OCP SA(OCPグループ) | 5.33% |
5位 | ICL Group Ltd.(旧イスラエルケミカルズ株式会社、ICL) | 4.27% |
6位 | CF Industries Holdings, Inc.(CFインダストリーズホールディングス株式会社) | 3.76% |
7位 | PhosAgro(フォスアグロ) | 2.50% |
8位 | OCI | 2.31% |
9位 | Uralkali(ウラルカリ) | 1.98% |
10位 | Sinofert Holdings Limited(中化化肥、シノフェルトホールディングス) | 1.72% |
11位 | K+S AG(KプラスS) | 1.64% |
12位 | Indian Farmers Fertiliser Co-operative Limited(IFFCO、インド農民肥料協同組合) | 0.88% |
13位 | Sociedad Química y Minera(SQM、ソシエダ・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリSA) | 0.68% |
14位 | Katakura & Co-op Agri Corporation(片倉コープアグリ株式会社) | 0.15% |
ニュートリエンはポタッシュとアグリウムが経営統合して誕生した会社で、トップ3の中でも頭一つ抜き出た存在です。4位のモロッコ政府系のOCPは2021年から順位を上昇させました。5位はイスラエルのICLグループ(旧イスラエルケミカルズ)です。死海とネゲブ砂漠で肥料原料を採取できる強みがあります。6位は米国のCFインダストリーズ、7位はロシアのフォスアグロ、9位はウクライナのウラルカリとなっています。その他、12位のIFFCO、13位のSQMが2023年は新たにランクインしました。作物価格等のマクロ経済の影響をうけるものの、農作物への需要が今後の世界人口とともに増加することが見込まれ、肥料業界は成長市場であるといえます。
ユーロケムは2023年の公式決算数値の掲載がなかったためランキングから除外いたしました。
業界上位3社の成長率と収益力比較
肥料業界トップ3のポジションにいるニュートリエン、ヤラ・インターナショナル、モザイクの3社について、売上高成長率(過去3年平均)、ROA (直前期)、ROE(直前期)について比較をしました。
売上高成長率ではニュートリエンが1位ですが、収益力(ROA,ROE)で見るとモザイクが1位となっています。
【肥料業界の世界市場規模】
当サイトでは、各種公表情報を参照にして、2023年の肥料業界の世界市場規模を1,764億ドルとしております。参考にした情報は以下の通りです。
調査会社のアイマークによると、2023年の肥料業界の市場規模は1,764億ドルです。2024年から2032年にかけて年平均3.2%で成長し、同年には2,369億ドルに達すると予測しています。
調査会社のグローバルマーケットインサイツによると、2023年の同業界の市場規模は2,020億ドルです。2024年から2032年にかけて年平均2.7%で成長し、同年には2,570億ドルに達すると予測しています。
肥料業界の市場規模の予想成長推移 ©2024 Deallab
さらに理解を深めるためのお薦め書籍と関連サイト
窒素固定の科学
よくわかる 土と肥料のハンドブック
肥料になった鉱物の物語―グアノ、チリ硝石、カリ鉱石、リン鉱石の光と影
農薬業界の市場シェア・売上高ランキング・規模・再編の分析
肥料指数
【M&Aの動向】
業界再編を通じて、肥料大手各社は得意とする肥料要素へのフォーカスを強めています。窒素はCFインダストリーズが業界再編を通じてヤラ・インターナショナルと首位を競っています。カリウムの分野ではポタッシュとアグリウムが合併して誕生した、ニュートリエンが首位固めをしています。リンの分野ではモザイクがヴァーレの肥料部門を買収し大手となっています。
2004年 ノルスクハイドロが肥料部門をヤラ・インターナショナルとして分社化
2004年 化学肥料メーカー大手のIMCとカーギルの肥料部門が経営統合してモザイクが誕生
2007年 日産アグリと三井東圧肥料が合併してサンアグロが誕生
2012年 ヤラがEthiopianpotashを買収
2013年 モザイクがCFインダストリーズからにリン酸塩事業を買収
2015年 IFFCOは三菱商事と合弁会社IFFCO-MC Crop Science Private Limitedを設立
2015年 片倉チッカリンとコープケミカルが経営統合し片倉コープアグリが誕生
2015年 CFインダストリーズによるOCIの肥料事業の買収を発表(その後断念)
2016年 ポタッシュとアグリウムが合併し、ニュートリエンが誕生
2016年 モザイクがブラジルの資源大手ヴァーレから肥料事業を買収
2018年 ニュートリエンがSQM持分をティアンキリチウムへ売却
2018年 ニュートリエンがAgribleを買収
2018年 ヤラがTreckerを買収
2019年 投資ファンドのインテグラルによる日東エフシーの買収
2019年 ニュートリエンがActagroを買収
2019年 ニュートリエンがRuralcoを買収
2020年 ニュートリエンがTEC AGROを買収
2020年 ニュートリエンがAgrosema Groupを買収
2021年 ヤラがEcolanを買収
2022年 ヤラがOrbiaを買収
2023年 ニュートリエンは、ブラジルのCasa do Aduboを買収する契約を締結したと発表
2023年 ヤラは、アグリビオス・イタリアーナの有機肥料事業を買収すると発表
2023年 OCPグループとフェルティナグロ・バイオテックS.L.は、グローバル・フィードS.L.の買収が完了したことを発表
2023年 CFインダストリーズはインシテック・ピボット・リミテッドのアンモニア製造施設の買収を完了
【会社の概要】
Nutrien Ltd.(ニュートリエン株式会社)
Nutrien(ニュートリエン)は、カナダに本拠を置く世界最大級の大手化学肥料メーカーです。1975年にサスカチュワン州政府によって設立されたPotash(ポタシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワン)が2018年に同業のアグリウムを買収して誕生しました。カナダを中心にカリウム、リン酸塩鉱山を運営しています。リチウム大手のSQMの大株主でしたが、2018年にティアンキリチウムに売却をしました。ポタシュとはカリ (炭酸カリウム)の略の通り、カリウムの生産能力では世界最大級です。北米、豪州、南米で農業資材の小売り(肥料・種子・農薬の販売)も手掛けています。
Agrium(アグリウム)について
Agrium(アグリウム)はカナダに本拠を置く肥料メーカー大手です。カナダ・北米にて肥料や種子等の小売も手掛けていましたが、2016年にポタッシュがアグリウムを買収し、ニュートリエンとなりました。
Yara International ASA(ヤラ・インターナショナル)
Yara International (ヤラ)はノルウェーに本拠を置く世界最大級の肥料メーカーです。尿素、硝酸塩、アンモニアといった窒素肥料に強みを持ちます。オスロ証券取引所に上場しています。アルミ生産会社大手のノルスクハイドロ社より独立して誕生しました。
The Mosaic Company(モザイク カンパニー)
Mosaic(モザイク)は米国に本拠を置く大手化学肥料メーカーです。2004年に化学肥料メーカー大手のIMCグローバルとカーギルの肥料部門が合併して誕生しました。リン酸肥料やカリ(炭酸カリウム)に強みを持ちます。2016年にブラジルの資源大手ヴァーレより肥料事業を買収しました。肥料のなかでも、リン酸業界では世界シェアが最大級、炭酸カリウムではポタシュとウラルカリと並ぶ上位陣の一角となっています。
モザイクの主要な事業再編
2016年 ヴァーレの肥料部門を買収
2014年 ADMよりブラジル等の肥料部門を買収
2014年 塩事業をカーギルに売却
2013年 リン酸事業をCFインダストリーより買収
OCP SA(OCPグループ)
OCPはモロッコに本拠を置く肥料メーカーです。リン酸に強みを持ちます。モロッコ政府100%子会社です。
ICL Group Ltd.(旧イスラエルケミカルズ株式会社、ICL)
Israel Chemicals(イスラエルケミカルズ、ICL)はイスラエルに本拠を置く肥料大手です。カリやリン酸の生産に強みを持ちます。子会社のDead Sea Magnesium(死海マグネシウム)でマグネシウムの採掘生産を行っています。
※イスラエルケミカルズは2020年製品志向の企業から、人類のニーズに応えるグローバルなスペシャルティ・ミネラル企業へとシフトすることを目指し「ICLGroup Ltd.」に社名変更しました。
CF Industries Holdings, Inc.(CFインダストリーズホールディングス株式会社)
CF Industries(CFインダストリーズ)は、1946年に設立された北米に本拠を置く肥料大手です。2015年にリン大手のOCIの肥料事業の一部の買収を発表するも買収を断念しました。アンモニア、尿素、硝酸アンモニウムといった窒素肥料に強みをもちます。
PhosAgro(フォスアグロ)
PhosAgro(フォスアグロ)はロシアに本拠をおく肥料会社です。リン酸塩ベースの肥料に強みを有しています。
OCI
OCIはオランダに本拠をおく肥料メーカーです。肥料以外にもメタノールとバイオメタノールの製造を行っています。
Uralkali(ウラルカリ)
Uralkali(ウラルカリ)はロシアを代表するカリウム生産大手です。ロシアの証券取引所に上場しています。
Sinofert Holdings Limited(中化化肥、シノフェルトホールディングス)
中国に本拠を置く肥料メーカーです。中国の大手化学メーカーである中国中化(ケムチャイナ)の傘下企業です。ニュートリエンも大株主です。
ケムチャイナについて
中国化工集団(ケムチャイナ、ChemChina、China National Chemical Corporation )はRen Jianxin(任建新)氏によって設立されたChina National Blue Star Corp(藍星) と China Haohua Chemical Industrial Corp(昊華)が2004年に経営統合して誕生した中国政府系の化学メーカーです。中国政府が100%株式を保有しています。農薬、ゴム、シリコーンや機能性化学等の分野で事業展開しています。2016年から寧高寧氏がシノケムとケムチャイナのCEOとなり、2021年に国営化学会社のシノケムと経営統合、中国中化(シノケム)ホールディングス傘下になりました。さらに詳しく
K+S AG(KプラスS)
ドイツに本拠を置く肥料・食塩メーカーです。塩事業では、2000年にベルギーのソルベーから塩事業を買収したのに続き、2009年には米国の塩大手モートン・ソルト(Morton Salt)を買収し、塩生産量の拡大を図ってきました。2020年に負債削減のため米国の塩事業をStone Canyon Industries Holdings(ストーンキャニオンインダストリーズホールディングス)に売却しました。肥料部門はカリウム肥料に強く、BASFの肥料部門と経営統合し事業を拡大しています。
Indian Farmers Fertiliser Co-operative Limited(IFFCO、インド農民肥料協同組合)
IFFCOはインド最大手の肥料製造・販売会社であり、傘下の農協組織を通じて、インド全土に販売網を有し、農家が必要とする高品質な肥料を提供することで、国内において絶大なブランド力を構築しています。2015年にIFFCOは三菱商事と合弁会社を設立しました。
Sociedad Química y Minera(SQM)
チリに本社を置く特殊植物栄養素・化学製品メーカーです。
Katakura & Co-op Agri Corporation(片倉コープアグリ株式会社)
片倉コープアグリは、2015年に片倉チッカリンとコープケミカルが経営統合をして誕生しました。源流は1920年に設立された片倉工業系の肥料企業です。JA全農や丸紅が大株主となっています。化成肥料・配合肥料・液体・有機質肥料や培土に強みを持ちます。さらに詳しく
Belaruskali(ベラルーシカリー)
Belaruskali(ベラルーシカリー)はベラルーシに本拠を置く国営のカリウム生産大手です。
EUROCHEM(ユーロケム)
EUROCHEM(ユーロケム)はスイスに本拠を置く肥料メーカーです。窒素とリン酸の生産に強みを持ちます。ロシアの富豪のAndrey Melnichenko(アンドレイ・メルニチェンコ)氏が大株主となっています。
日本の肥料メーカー
日本国内では、丸紅・三菱商事・JA系の片倉コープアグリが国内肥料市場シェア約10%超で業界最大手となっていますが、2021年の売上高は約390億円であり、世界的にみても規模は小さいです。その他は、投資ファンドのインテグラル傘下の日東エフシー、三菱商事系の多木化学、日産化学・三井化学系のサンアグロ、住商アグリビジネスが肥料業界大手です。
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