化学業界の市場シェアの分析

化学業界の市場シェア・売上高ランキング・市場規模・再編について分析をしています。中国中化(シノケム)、BASF 、ダウ、デュポン 、Sinopec(シノペック)、SABIC(サウジ基礎産業公社)、ライオンデルバセル、三菱ケミカルといった世界の主要化学メーカーの概要や動向も掲載しています。

【市場シェア】

化学メーカー各社の2021年度の売上高(⇒参照したデータの詳細情報)を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2021年の化学業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位は中国中化(シノケム)ホールディングス、2位はBASF、3位はシノペックとなります。

化学業界の世界シェアと業界ランキング(2021年)

順位会社名市場シェア
1位中国中化ホールディングス3.74%
2位BASF2.27%
3位シノペック1.78%
4位ダウ1.40%
5位サウジ基礎産業公社1.20%
6位ライオンデルバセル1.18%
7位エクソン・モービル0.94%
8位三菱ケミカル0.88%
9位イネオス0.54%
10位LG化学0.44%
11位デュポン0.42%
12位住友化学0.37%
13位シェル0.32%
14位台湾プラスチック0.24%
化学業界の世界シェアと業界ランキング(2021年)
化学メーカーの世界シェア(2021年)
化学メーカーの世界シェア(2021年)

化学メーカーの世界1位は2021年に経営統合した中国のシノケム(中国中化)です。規模で2位のドイツBASFの2倍を上回る超巨大化学メーカーが誕生しました。3位は中国のシノペック(中国石油化工集団)です。4位は米国のダウです。ダウとデュポンの統合会社の売上高の単純合計は、シノペックやBASFの売上高を上回っておりましたが、ダウ、デュポン、コバレントなどへ再分割され、規模は小さくなりました。5位にはサウジアラビアのサウジ基礎産業公社(サビック)、6位には石油メジャー系の石油化学メーカーであるライオンデルバセル、8位は三菱ケミカルです。

化学メーカーの業界ランキングトップ5の定点観測

順位2008年2014年2020年
1位BASFBASF中国中化
2位ダウダウBASF
3位ライオンデルバセルシノペックシノペック
4位エクソン・モービルサウジ基礎産業公社ダウ
5位サウジ基礎産業公社エクソン・モービルライオンデルバセル
化学業界の業界ランキング推移
©ディールラボ

BASFとダウの2強体制が長らく続きましたが、2010年代後半から中国系化学メーカーが上位に入り始めました。中国中化の誕生によって業界構図が大きく変わりました。2021年以降はBASF、ダウ、シノペック、ライオンデルバセル、サウジ基礎産業公社が2位以下と争う形となります。
1989年まで遡ると、化学メーカーの市場シェアの順位は1位BASF、2位インペリアルケミカル、3位ヘキスト、4位デュポン、5位バイエル、6位ダウケミカルの順となっています。インペリアルケミカルとヘキストの上位2社は再編の過程で消滅しています。

【市場規模】

化学業界は化学製品で分類しますと、石油化学製品、合成樹脂、粘着素材、肥料、農薬、火薬、医薬中間体、合成繊維、化粧品、油脂、合成ゴム、電子材料、塗料・インキ、接着剤、酸化チタン等の広範囲にわたります。
当サイトでは、化学業界の市場規模を3.41兆ユーロ(3.92兆ドル)として市場シェアを計算しています。参照したデータは以下の通りです。業界団体のヨーロピアンケミカルインダストリーカウンシルによると、2020年の同業界の市場規模は3471億ユーロです。⇒参照したデータの詳細情報

世界の化学業界の市場規模推移
世界の化学業界の市場規模推移
出所:ECIC

【売上高ランキング】

2021年10-12月四半期売上高をベースとした化学メーカーのランキングでは、1位中国中化(シノケム)、2位BASF、3位シノペックとなっています。2020年の市場シェアから上位3社のランキングに変動はありません。⇒参照したデータの詳細情報

化学メーカーの売上高ランキング(四半期ベース)
化学メーカーの売上高ランキング(四半期ベース)

【M&Aの動向】

BASF、ダウケミカル、シノペック、ライオンデルバセル、イネオス等大手化学会社が再編の担い手となっています。

化学業界の主要M&A(1993年~)

1993年 英インペリアルケミカルによる医薬・バイオ事業の分社化によるゼネカの誕生
1997年 独バスフによるタルゴルへのポリプロピレン(PP)事業ポリプロピレン事業の売却
1997年 独バスフによるエレナックへのポリエチレン事業の売却
1998年 米デュポンによる独ヘキストからの塗料事業の買収
1999年 独ヘキストと仏ローヌ・プーランが経営統合し、アベンティスが誕生
1999年 米デュポンによる農薬大手パイオニアの買収
2000年 独バスフと英蘭ロイヤルダッチシェアのポリオレフィンポリマー事業が統合しバセル誕生
2001年 独バイエルによるクロップサイエンスのアベンティスからの買収
2001年 米ダウケミカルによるユニオンカーバイドの買収
2003年 独バスフによるハネウェルからのエンジニアリングプラスチック事業の買収
2005年 独バイエルによる高分子事業を手掛けるランクセスの分社化
2005年 ライオンデルとバセルが経営統合しライオンデルバセルが誕生
2007年 仏アクゾノベルによるインペリアルケミカルの買収
2008年 米ダウケミカルによる機能性化学大手の米ロームアンドハース(Rohm and Haas)の買収
2010年 米ダウケミカルによる合成ゴム事業のスタイロン社を投資ファンドへ売却
2010年 独バスフによる機能性化学メーカーのCognisの買収
2011年 独バスフによるスチレン事業をスタイロルーションとして分社化
2015年 独バイエルによるプラスチック事業を手掛けるCovestro(コベストロ)の分社化上場
2016年 LonzaによるCapsugelの買収
2016年 LanxessによるChemturaの買収
2016年 Westlake ChemicalによるAxiallの買収
2016年 BASFによるChemetallの買収
2016年 米ダウケミカルとデュポンの経営統合
2017年 米クラリアントによる米ハンツマンの買収
2017年 カナダのノバ・ケミカルズによるウィリアムスからのオレフィンプラントの買収
2017年 酸化チタン大手のトロノックスによるサウジアラビアのクリスタルからの酸化チタン事業の買収
2018年 大陽日本酸素がPraxairの欧州事業を買収
2019年 デュポンからコルテバが分社化
2019年 BASFが顔料事業をDICに売却
2019年 BASFがMBCC Groupをローンスターに売却
2021年 デュポンがLiard Performance Materialをアドベントから買収
2021年 JSRがエラストマー事業をエネオスに売却
2021年 シノケムとケムチャイナが経営統合しシノケムホールディングスが誕生

さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍と関連サイト

10分でわかる化学業界
ケミカルビジネス情報MAP2020
化学製品が一番わかる
化学品ハンドブック (2020) 
LNG・液化天然ガス生産会社の世界市場シェアの分析
M&Aの対象となる石油・ガス開発やサービス会社の分析
油田・ガス田向けサービス提供業界の世界市場シェアの分析

【会社の概要】

BASF(ビーエーエスエフ)

BASFは、1865年に設立された世界最大級の独化学メーカーです。バイエル、ヘキスト(現サノフィ・アヴェンティス)と並ぶドイツ三大化学メーカーの一角となっています。BASFとはバーデン・アニリン・ウント・ソーダ(Badische Anilin- und Soda-Fabrik)の略です。BASFの読み方はバスフでなく、ビーエーエスエフです。アンモニアの量産を可能にしたハーバー・ボッシュ法を発明したことでも有名です。化学業界の売上高ランキングでは、世界1位の座が定番の総合化学の雄と言えます。現在は、石油化学品、高性能製品、機能性材料、農薬事業を展開しています。さらに詳しく

Dow (ダウ)

ダウは、1897年にHerbert Henry Dow氏によって設立された米国に本拠を置く世界最大級の総合化学メーカーです。祖業は漂白剤と臭化カリウムです。その後、ユニオンカーバイド(Union Carbide)やローム・アンド・ハースの買収を通じて成長しました。2015年に米同業のデュポンと経営統合しましたが、2019年に素材事業を担う新生ダウ、特殊産業材のデュポン、農薬のコルテバアグリサイエンスへと分社化されました。シリコーンはダウシリコーンが展開しています。コーティング剤、プラスチック、アクリル樹脂原料・メチルメタクリレートにも強みを持ちます。さらに詳しく

Sinopec(China Petrochemical Corporation、シノペック)

中国国営の総合エネルギー会社です。ペトロチャイナの親会社である中国石油天然気集団公司 (CNPC)と中国海洋石油総公司(CNOOC)と並ぶ中国国有石油開発会社の一角です。CNPCやCNOOCと比べ化学事業の割合が大きいことが特徴です。

Sinochem(シノケム、中国中化)

シノケムホールディングス(中国中化)は、2021年に中国の政府系化学メーカーで石油化学に強いシノケムとケムチャイナが経営統合して誕生した総合化学メーカーです。

ケムチャイナについて

中国化工集団(ケムチャイナ、ChemChina、China National Chemical Corporation )はRen Jianxin(任建新)氏によって設立されたChina National Blue Star Corp(藍星) と China Haohua Chemical Industrial Corp(昊華)が2004年に経営統合して誕生した中国政府系の化学メーカーです。中国政府が100%株式を保有しています。農薬、ゴム、シリコーンや機能性化学等の分野で事業展開しています。2016年から寧高寧氏がシノケムとケムチャイナのCEOとなり、2021年に国営化学会社のシノケムと経営統合、中国中化(シノケム)ホールディングス傘下になりました。続きを読む

Shell(シェル、旧ロイヤル・ダッチ・シェル)

1907年に誕生した石油メジャーです。2005年にオランダのロイヤル・ダッチとイギリスのシェルが合併して現在の形となりました。かつてのセブンシスターズである民間石油メジャーのエクソン・モービル、BPと競合しています。温暖化ガスの流れを受け、ガス分野の強化やPower as a Service (PaaS)分野の強化を図っています。2021年はオランダの裁判所から二酸化炭素(CO2)の純排出量の削減を命じる判決を出され、物言う株主からリニューアブルエネルギー事業の切り出しを求められています。社名をシェルへと再変更しました。さらに詳しく

SABIC(サウジ基礎産業公社)

サウジアラビア政府(サウジアラムコ)傘下の大手化学メーカーです。産油地との距離感を生かし、石油化学や製鉄、肥料の基礎化学分野で事業を拡大しております。

Exxon Mobil(エクソン・モービル)

Exxon Mobil(エクソンモービル)は、1870年に創業した米に本拠を置く石油メジャーです。1999年にエクソンとモービルが合併しエクソン・モービルとなりました。
原油・ガスの探査と生産を在来型から深海まで行い、重油、シェール、LNGなど幅広い分野の上流権益を保有しています。中下流では石油化学コンビナートやガソリンスタンドを展開している垂直統合型のビジネスモデルが特徴です。
脱炭素の流れの中で総合エネルギー会社への脱皮を模索中です。2021年には環境系の物言う株主エンジン・ナンバーワンが取締役会の議席を獲得しました。さらに詳しく

Formosa Plastics(FPG、台湾プラスチックグループ)

1954年に設立された台湾最大の化学メーカーです。

LyondellBasell Industries(ライオンデルバセル)

Royal Dutch ShellとBASFの合弁会社であるポリオレフィンポリマーのBasell社がAccess Industiries傘下のライオンデルに買収され設立された総合化学会社です。石油化学分野に特化し、規模拡大を追求する戦略をとっています。

E.I du Pont de Nemours(デュポン)

デュポン・ドゥ・ヌムール(E.I du Pont de Nemours)は、1802年にフランス人のエルテール・イレネー・デュポンによって設立された世界最大級の化学メーカーです。2015年米同業のダウケミカルと経営統合しましたが、特殊産業材事業が分社化され新生デュポンとなりました。2011年にデンマークに本拠を置く食品成分大手であるDanisco(ダニスコ)を買収し、ニュートリション&バイオサイエンス事業で食品成分事業を強化していましたが、同事業は2019年に香料大手のIFFとの経営統合し、香料と食品成分を手掛ける総合食品成分会社となりました。水処理膜事業についてはDuPont Water Technology(デュポンウォーターテクノロジー)で展開しています。RO膜に強みがあります。さらに詳しく

LG

LGグループは1952年にク・インフェ氏によって設立された韓国を代表する財閥グループです。1958年にLuckyとGoldStarが経営統合をして設立されました。電機事業、化学事業、通信事業が3本柱です。子会社は、家電メーカーのLGエレクトロニクス、電子部品の製造を手掛けるLGイノテック、液晶ディスプレイを手掛けるLGディスプレイ、総合化学メーカーのLG化学など多岐にわたります。さらに詳しく

イネオス(INEOS)

スイスに本拠を置く化学メーカーです。元々はBPの石油化学事業が分離して誕生しました。石油化学事業に特化し、規模拡大戦略をとっています。

日本の総合化学メーカー

エチレンなどの石油化学や汎用化学の分野において、中国の化学メーカーやオイルメジャー系化学メーカーのようにスケールメリットを追うか、それとも、ダウとデュポンの経営統合・分社化や欧州系化学メーカーのように機能性化学分野へ集中していくか、それとも第三の道を開くか、日本の化学メーカーの戦略に注目が集まります。

三菱ケミカルホールディングス

三菱ケミカルホールディングスは、日本の最大手の化学メーカーです。三菱レイヨンや大陽日酸を買収し、機能性化学分野の強化を図っています。アクリル樹脂の分野では、ダウケミカルやエボニックといった、大手化学メーカーを抑え、世界最大級の規模となっています。また、炭素繊維分野では、傘下の三菱レイヨンがパイロフィルの商標で炭素繊維を世界展開し、自動車会社とも開発を加速させています。電池材料では、正極材からは撤退し、電解液と負極材を強化しています。水処理膜事業では、MBR膜に強く、ステラポアーブランドで展開をしています。さらに詳しく

住友化学

住友化学は、1913年に別子銅山の煙害解消のために銅鉱石中の硫黄を取り出して肥料を製造する住友肥料製造所として設立されました。石油化学、機能材料、情報電子化学、農薬、医薬品が主軸です。サウジ・アラムコと組んで世界最大級の石油コンビナート(ラービグプロジェクト)を運営しています。機能性化学の分野では、偏光板で日東電工と並び、世界大手の1角となっています。また、メチオニンにも強みがあります。農薬の分野では、バイエル、BASF、コルテバ、シンジェンタのビッグ4に次ぐ準大手のポジションです。アクリル樹脂原料(MMA)は三菱ケミカルと双璧です。持分法子会社の住友精化で高吸水性樹脂事業を行っています。さらに詳しく

旭化成

化学、建材、繊維等を手掛ける日本を代表する化学メーカーの1社です。リチウムイオン電池のセパレータ分野や水処理膜の分野では強みを発揮しています。不織布では、デュポンと合弁事業を展開しています。

東レ

三井グループの中核化学メーカーです。祖業は繊維で、東レは東洋レーヨンの略です。ダウ、キャボットと並び大手となっている水処理膜、エアバッグの生地やトレカで有名な炭素繊維の分野で強みを発揮しています。おむつ等に使用する不織布の分野では、フロイデンベルグと共同で日本バイリーンを子会社化しています。

参照したデータの詳細情報について


参照したデータは以下の通りです。リンク切れなどありましたら、お問い合わせのページからご連絡頂けますと大変有難く存じます。

化学メーカーの売上高ランキング

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