航空機リース業界の世界市場シェアの分析

航空機リース業界の市場シェアや市場規模の分析をしています。エアキャップ、エアリース、アボロン、BOCアビエーション、SMBCアビエーションキャピタル等の大手航空機リース会社の概要や動向も掲載しています。

航空機リース業界とは

航空機リースとは、航空会社やその他の航空機運航会社が、他の航空会社またはリース会社から航空機を取得するためにリースを利用することです。

2023 年までに新しい航空機の需要を満たすために 1,810 億米ドルの資金が必要とされており、航空機を購入する際の経済的負担なしに航空機を運用する必要があることから、リースの必要性が生じています。航空会社は、一時的なキャパシティの増加のために航空機リースを利用することもあります。

リースの種類

航空会社のリース業界では、航空機は、短期リースの場合はウェットリース、長期リースの場合はドライリース、または両方の組み合わせでリースできます。オペレーティングリース中の航空機のフリート数が最も多い地域はヨーロッパで、2021年には2,500機以上の航空機がリースされていました。次に多いのは北米で、同じ期間に1,751機がリースされていました。

資金調達源

航空機リース市場における 主な資金調達源は、資本市場と銀行借入の 2 つです。現金または輸出信用を使用して資金を調達することもできます。北米は、ボーイングの納入に使用される商業銀行借入の主な地域の 1 つです。2020 年には、北米が銀行借入の 35% を占めました。

成長の原動力

世界中で航空旅行の需要が増加

市場の成長は、世界中で航空旅行の需要が高まっていることが主な要因です。ビジネスやレジャーで航空輸送を選択する人が増えるにつれて、航空会社は増加する乗客数に対応するために追加の航空機を必要とします。リースにより、航空会社は航空機の購入に関連する初期費用をかけずに、迅速に航空機群を拡大することができます。

航空機リース業界の世界市場シェア

航空機リース会社の2023年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、後述する市場規模を分母にして、2023年の航空機リース業界の世界市場シェアを簡易に試算しますと、1位はAerCap(エアキャップ)、2位はGECAS(ジーキャス)、3位はAvolon(アボロン)となります。

順位 Company name(English) 企業名(日本語) 市場シェア
1位 AerCap エアキャップ 18.6%
2位 Air Lease エアーリース 7.3%
3位 Avolon アボロン 6.7%
4位 BOC Aviation BOCアビエーション 6.7%
5位 SMBC Aviation Capital SMBCアビエーションキャピタル 3.7%
6位 Dubai Aerospace Enterprise ドバイ・エアロスペース・エンタープライズ 3.6%
7位 Aviation Capital Group アビエーション・キャピタル・グループ 2.9%
8位 Aircastle エアキャッスル 1.9%
9位 Nordic Aviation Capital ノルディック・アビエーション・キャピタル 1.1%

航空機リース業界の世界シェア(2023年)©2024 Deallab

2023年の世界市場シェア1位は、保険最大手のAIGからインターナショナル・リース・ファイナンス・コーポレーションを買収したエアーキャップとなります。エアーキャップにはアブダビ系の資本が入っています。2021年には、General Electric (GE) と正式契約を締結し、GE の事業である GE Capital Aviation Services (GECAS) を 100% 買収し、突出して市場を牽引しています。
2位にはNYSEに上場する新興航空機リース会社である、エアリース、3位には、オリックスが30%出資しているアボロン、4位には中国銀行系のBOCアビエーショ、5位にはSMBCアビエーションが続きます。

下記の図の通り、航空機の価値ベースの市場シェアでみても、ジーキャス、インターナショナル・リース・ファイナンスとエアキャップが世界ランキング上位に位置します。

航空機の価値でみた業界ランキング
出所:AirCap

業界バリューチェーン

航空機リース業界は、航空機業界と密接に関係しています。まず、航空機メーカーが発注した仕様書に基づき、航空機部品メーカーが部品を納めます。なお、航空機の部品点数は30万点以上にのぼるとされ、自動車部品の約10倍超となっているほど多品種の部品が必要となります。その後、製造された航空機は航空機リース会社が購入し、エアライン会社に対してリースされます。耐用年数を過ぎた飛行機は解体され、一部パーツは再利用されます。

航空機リース業界の世界市場規模

当データベースでは2023年の航空機リース業界の市場規模を369億ドルとしております。参照した各種統計データは次の通りです。規模も大きく、成長が見込める業界です。

参照したデータは以下の通りです。

調査会社のリサーチアンドマーケッツによれば、2023年の同業界のリース収入ベース市場規模は、2023年に369億米ドルと推定され、2023年から2030年までの年平均成長率は7.4%、2030年には607億米ドルに達すると予測されています。[affi id=16]

市場規模 複利年間成長率
2023年 369
2030年 607 7.6%/年
航空機リース業界の市場規模 ©2024 Deallab

航空機リース業界の市場規模の予想成長推移 ©2024 Deallab

M&Aの動向

  • 2005年4月、Cerberusによるdebis AirFinance(現AerCap)の株式45%をDaimlerChryslerより買収。買収総額は約2,600百万ドル
  • 2006年1月、Terra Firma(テラファーマ)によるAWASの買収。買収総額は約2,500百万米ドル
  • 2006年12月、Bank of ChinaによるSingapore Aircraft Leasing(現BOC Aviation)の買収。買収総額は約3,200百万米ドル、純資産に対する倍率は1.8倍
  • 2007年1月、AirCastleによるGuggenheim Partners傘下のGuggengeim Aviation Partnersからの航空機資産の買収。Guggenheim Partnersは米鉱山王のソロモン・R・グッゲンハイムの子孫が運営。買収総額は1,600百万米ドル
  • 2007年5月、欧州系のプライベートエクイティファンドのTerra Firma(テラファーマ)傘下のAWASによるPegasus Aviationの買収。買収総額は約5,000百万米ドル、純資産に対する倍率は約1.1倍
  • 2009年9月、AerCapとGenesis Leaseとの合併。買収総額は1750百万米ドル、簿価純資産に対する倍率は約1.1倍
  • 2010年10月、 アラブ首長国連邦のアブダビ系ソブリン(国富)ファンドのWaha Capital(CEOはSalem Rashid Abdulla Ali Al Noaimi氏)によるAerCapへの20%の出資。出資額は380百万米ドル。簿価純資産に対する比率は1.4倍程度
  • 2011年8月、FLY Leasingによる豪州のGAAM(Global Aviation Asset Management)の買収。買収総額は1,400百万ドル、簿価純資産に対する倍率は約0.9倍
  • 2012年10月、MUFJリースによるジャクソンアヴィエーションファイナンスの買収。買収総額は1,280百万米ドル、簿価純資産に対する倍率は1.8倍程度
  • 2012年1月、三井住友フィナンシャルグループ、住友商事等によるロイヤルバンク・オブ・スコットランドグループからのRBS Aviation Capitalの共同買収。買収総額は約7,300百万ドル、簿価純資産に対する倍率は約1.1倍程度
  • 2013年12月、AercapによるILFCの買収。買収総額は5,400億米ドル程度。簿価純資産に対する倍率は0.68倍程度
  • 2013年6月、丸紅によるAircastleへの15.25%の出資。出資総額は約209百万米ドル。簿価純資産に対する倍率は1.2倍程度
  • 2015年 海航集団(HNAグループ)による航空機リースのアボロン(Avolon)を買収
  • 2016年 海航集団(HNAグループ)による航空機リースのCIT Aerospaceを買収
  • 2017年 東京センチュリーリースがアビエーション・キャピタル・グループの株式の20%を1700億円で取得。
  • 2017年 Dubai Aerospace Enterprise (DAE) によるAWASの買収。
  • 2018年 オリックスがアボロンの30%株式を約2500億円で取得。
  • 2018年 エアアジアがBBAMに子会社の航空機リースアジア・アビエーション・キャピタルの株式を売却。
  • 2019年 丸紅とみずほリースがエアーキャッスルを買収
  • 2021年 ジーキャスとエアキャップが経営統合
  • 2021年 カーライルがFly Leasingを買収
  • 2021年  AerCapが、GE Capital Aviation Services(GECAS)を買収
  • 2022年  SMBC Aviation Capitalが、Goshawk Management Ltdとその関連企業資産を買収

業界の買収マルチプル

主要なM&Aの企業価値/売上高倍率は概ね6~10倍程度です。

発表日 買手 対象会社 売手 企業価値 通貨 売上高倍率
2022 SMBC AC ゴスホーク 周大福
NWS HD
15 億ドル
2021 カーライル Fly Leasing BBAM 23.6 億ドル 7.1
2021 AerCap GECAS GE 312 億ドル 7.9
2019 丸紅、みずほリース Aircastle 73 億ドル 8.3
2019 東京センチュリー Aviation Capital Group 96 億ドル 10.1
2013 AerCap ILFC AIG 264 億ドル 6.1
売上高倍率は企業価値/直近対象会社売上高で計算(⇒参照したデータの詳細情報)©ディールラボ

航空機リースの仕組み

航空会社各社にとって1機数十億以上する飛行機を購入することは財務負担となっています。大体の相場は、B737の700/800で80-90億円、B777で250億円、B787で200億円、A320で90億円、A380で400億円前後といわれております(飛行機メーカーへの発注量や為替に応じて価格は変動します)。
そこで航空機リース会社が航空機を購入し、その航空機をエアライン会社が借りる(リースする)というニーズが生まれてきます。新興国の経済成長に伴う航空旅客数の増加やLCC(ローコストキャリア)の増加に伴い、エアラインにとって財務負担の軽い航空機リースのニーズは今後拡大していくことが見込まれます。
航空機リース会社は色々な飛行機を所有してエアライン各社にリースを行っていますが、その種類をざっくり分けると以下のようになります。基本は、ボーイング(B)対エアバス(A)の対立軸で理解できます。

B737NG(New Generation) familly
エアライン各社に最も人気のある中長距離向けの中型機です。700、700ER、800、900という具合に飛行機のサイズに応じてバリエーションがあります。(よってfamilyとなっています。)
A320 familly
B737の対抗馬です。こちらもサイズによって、A318、A319、A321というバリエーションがあります。
これらは中型の大きさで中距離を飛ぶという着眼の飛行機です。今後はB737MaxとA320Neoという次世代の飛行機で盟主の座の争いは引き継がれそうですが、後継の737MAXが墜落事故を起こしています。

B777family
ジャンボジェットの代名詞だったB747の後継機種です。-200、200ER、300、300ER等が人気どころです。
A380
エアバス社誇る2階建てのジャンボジェットです。これらは大きな機体で長く飛ぶという発想の長距離用の飛行機です。

B787 vs. A350
飛行機の素材等を改良して、中型でも長距離を飛べるようにするという着眼での飛行機です。B787のほうが早くに世に出ております。以上が、現世代の競合状況ですが、少し前の世代では、A330/340 vs. B767-300ERという争いもありました。飛行機の経済的な耐用年数は大体35年から40年といわれております。実際には大体25年位で新しい機材にリニューアルされているようです。
一方、税務上の償却期間は、5から10年となっています。よって税務上の償却期間を過ぎた機体を購入した場合、税務上は一括償却することで損金を立てることが可能となります。個人富裕層向けにもレバレッジドリースという名称で匿名組合への出資等を通じて航空機に投資をする手法があるぐらいです。
また、リース期間の終了後の、航空機の転売マーケットでの価格も安定しているといわれており、機体の整備についても制度がととのっていることから価値の毀損が生じにくく、リース収入と転売収入にて、リース会社にとってはキャッシュフローの予測がたてやすいリース商品であるともいえます。但し、JALの旧ジャンボジェットB747の時のように一度に売りにだされると中古市場が機能しにくくなる場合もあるようです。経済耐用年数を過ぎた飛行機は処理所(モハベ砂漠など)に集められて処分されていきます。

さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍

The Commercial Aircraft Finance Handbook
買うべき旅客機とは?
リース会計実務の手引き

世界大手航空機リース会社の動向

AerCap(エアキャップ)

アイルランドを拠点とする、世界最大の独立系航空機リース会社です。保険会社の最大手であったAIG傘下の世界最大手級のインターナショナル・リース・ファイナンス・コーポレーション (ILFC, International Lease Finance Corporation)を買収。Abu Dhabi(アブダビ)の投資会社であるWaha Capitalが筆頭株主となっています。

2021年には、General Electric (GE) と正式契約を締結し、GE の事業である GE Capital Aviation Services (GECAS) を 100% 買収することを発表しました。さらに詳しく

GECAS(GEキャピタル・アビエーション・サービス)

世界最大級のメーカーであるGEの関連会社で、世界最大級の航空機リース会社でもあるGEキャピタル・アビエーション・サービスです。50年以上の経験を持つ航空機リースおよびファイナンス会社です。ナローボディ機、ワイドボディ機、リージョナルジェット機、ターボプロップ機、貨物機、エンジン、ヘリコプター、融資、資材など、幅広い資産を提供しています。

また、オペレーティング・リース、セール・リースバック、アセット・トレーディング&サービシング、エアライン・ファイナンス、資材調達、機体部品管理など、これらの資産に関する幅広いファイナンス商品とサービスを提供しています。1,600機以上の航空機を所有、サービス、または発注しており、世界15ヵ所の事務所ネットワークから73ヵ国、約205社の顧客にサービスを提供しています。

※GEについて
GE(ジェネラル・エレクトロニック)は、1878年にトーマス・エジソンによって設立されたエジソン電気照明会社を源流に持つ世界を代表する総合電機メーカーの老舗です。世界シェア1位か2位以外の事業からは撤退するというナンバーワン・ナンバーツー戦略を実施し、積極的な事業ポートフォリオの入れ替えを行うことでも有名です。インダストリアル・インターネットを成長戦略にしたジェフ・イメルト氏が退任した後、2017年に生え抜きのジョン・フラナリー氏が社長に就任したものの、2018年には外部のダナハーからラリー・カルプ氏が招聘され、新CEOとなるなど、経営陣の交代が続きます。2021年にGEをヘルスケア部門、電力・エネルギー部門、航空部門の3社へと分社化することを発表しました。さらに詳しく

Air Lease(エアリース)

Air LeaseはNYSEに上場する新興航空機リース会社です。ILFCの創業者によって設立され、 豪州大手銀行のCommonwealth Bank of Australiaが大株主になっております。さらに詳しく

Avolon(アボロン)

旧RBS Aviation Capitalの経営陣が独立して2010年設立されました。株主の欧州PEファンドのCinven、旧シティ系のPEファンドのCVC、PEファンドのOak Hills、シンガポールの国策ファンドのGIC)から、2015年にHainan Airlines(海南航空)子会社(当時。現在は海南省が大株主)であった渤海租賃(Bohai Leasing)が買収しました。2016年にBohai LeasingがCIT Aerospaceを買収し業界上位となりました。
CIT Aerospaceは米国の総合金融会社のCITの関連会社の大手航空機リース会社です。CITはCommercial Credit and Investment Companyの略称。過去に旧第一勧業銀行やTyco Internationa がCITを買収した経緯もあります。2014年にみずほグループ系の東京センチュリーリースと航空機リースの合弁会社を設立しています。
2018年にオリックスがBohai Leasing傘下の航空機リース大手アボロン・ホールディングス(アイルランド)に2500億円を出資し30%の株式を取得しました。ダブルBプラスの格付け(S&P、下図参照)の改善を図っています。さらに詳しく

アボロンの格付け
出所:アボロンホームページ

BOC Capital(BOCキャピタル)

中国の4大銀行の一角である中国銀行(BOC, Bank of China)の関連会社です。旧社名をSingapore Aircraft Leasing Enterpriseといい、2006年にBOCが株主のTemasek, GICやシンガポール航空から買収しました。2016年に株式会社に転換、香港証券取引所に上場しています。さらに詳しく

SMBC Aviation Capital(SMBCアビエーションキャピタル)

かつては英国のRBS(Royal Bank of Scotland Group)が保有していたRBS Aviation Capitalです。2012年に約5500億円で三井住友フィナンシャルグループや住友商事がRBSより共同買収をしました。2022年にゴスホークの買収を発表。さらに詳しく

Dubai Aerospace Enterprise(ドバイ・エアロスペース・エンタープライズ)

ドバイエアロスペースエンタープライズは、ドバイに本社を置く世界的な航空サービス会社です。35 年以上の経験を持つ DAE のリースとエンジニアリング部門は、ドバイ、ダブリン、アンマン、シンガポール、ニューヨーク、マイアミ、シアトルの 7 つのオフィスから世界中の 170 社を超える顧客にサービスを提供しています。2017年にAWASを買収し規模を拡大しています。

※AWASについて
Ansett Worldwide Aviation Servicesの略です。もともとはNews Corporation、Australian airline、Ansett Airlineによって設立された豪州系の企業です。その後Molgan Stanleyおよび2006年には投資ファンドのテラ・ファーマとCPPIB(カナダ公的年金投資運用、Canada Pension Plan Investment Board)に買収をされています。2017年にDubai Aerospace Enterprise (DAE)がAWASを買収しました。さらに詳しく

Aviation Capital Group(アビエーション・キャピタル・グループ)

Aviation Capital Groupは米国Pacific Life の子会社です。2017年に日本の大手リース会社である東京センチュリーが、アビエーション・キャピタル・グループの20%の株式を約1700億円で取得し、2019年に100%のオーナーとなりました。さらに詳しく

Aircastle(エアーキャッスル)

NYSEに上場する投資ファンドのFortress Investment傘下の航空機リース会社として発足しましたが、IPO後の2012年に市場で持ち分を売却。丸紅が2013年に約15%出資し、2019年には丸紅・みずほ連合で買収を行っています。さらに詳しく

Nordic Aviation Capital(ノルディック・アビエーション・キャピタル)

1990年にMartin Møller氏によってデンマークで設立された独立系の航空機リース会社です。リージョナルジェットやATRやボンバルディアのターボプロップのリースを強みとしています。70以上の航空会社に500機をリースしています。2015年にEQTが買収を行いました。2018年にシンガポールのGICが一部株式を買収しました。COVID-19の影響を受け、十分な資本の不足、様々なポートフォリオの問題により、2021年後半に大規模な財務再編を実施しました。

参照したデータの詳細情報について


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