水道会社(上水道・下水道会社)の世界市場シェア、市場規模と業界ランキングの情報を掲載しています。水メジャー(ウォーター・バロン)のヴェオリア、スエズ、北控水務集団、アクアリア、テムズ・ウォーター、東京水道局といった水道会社の概要や動向も分析しています。
【市場シェア】
水道運営会社の2020年度の売上高を分子に、後述する市場規模を分母に、上下水道業界の2020年の市場シェアを計算すると、1位はフランスのヴェオリア、2位はフランスのスエズ、3位はイタリアのアーチェとなります。
2020年の水道会社の市場シェアと業界ランキング
- 1位 Veolia(ヴェオリア) 6.2%
- 2位 Suez(スエズ) 4.1%
- 3位 Acea(アーチェ) 0.8%
- 4位 Beijing Enterprises Water Group(北控水務集団) 0.7%
- 5位 American Water Works(アメリカン・ウォーター・ワークス )0.7%
- 6位 SABESP(サンパウロ州基礎衛生公社) 0.6%
- 7位 Thames Water Utilities(テムズ・ウォーター) 0.6%
- 8位 東京水道局 0.6%
- 9位 United Utilities(ユナイテッド・ユーティリティーズ) 0.5%
- 10位 Severn Trent Water(セバーン・トレント・ウォーター) 0.5%
- 11位 Gelsenwasser(ゲルゼンヴァッサー) 0.4%
- 12位 Saur(ソー) 0.4%
- 13位 Aqualia(アクアリア) 0.3%
- 14位 Berliner Wasserbetriebe(ベルリーナー・ヴァッサーティッシュ) 0.3%
1位と2位は不動のフランス勢であるヴェオリアとスエズです。水道事業の民営化で先行したフランス勢が、国際展開でも先陣を切っております。2021年に両社が経営統合を発表し、水のスーパーメジャーが誕生しました。3位はイタリアのアーチェです。4位は中国の北控水務集団です。北京を中心に上下水道サービスを展開しています。5位は米国のアメリカン・ウォーター・ワークスです。ペンシルベニアやニュージャージー等の東部地域を中心に上下水道事業を展開しています。6位はブラジルのサンパウロ州基礎衛生公社、8位は東京で上下水道を運営する東京水道局です。7位にはかつてウォーターバロンの一角とされた英国のテムズ・ウォーターとなっています。ドイツの電力会社であるRWEの傘下に入った後、投資ファンドへ売却され、規模を縮小しております。9位、10位も同じく英国の水道運営会社であるユナイテッド・ユーティリティーズとセバーン・トレント・ウォーターです。11位はドイツのライン・ ルール地方等で事業を展開するゲルゼンヴァッサーとなっております。
【市場シェア】
当サイトでは、2020年の上下水道の市場規模を5000億ドルとしております。参照した統計データは以下の通りです。調査会社のリサーチアンドマーケットによると、2020年の同業界の市場規模は5017億ドルです。2025年にかけて8%での成長を見込みます。一方で業界団体のグローバルウォーターインテリジェンスによると2018年の水関連業界の市場規模を7700億ドルと推計しています。⇒参照したデータの詳細情報
水道事業は世界中で非常に公益性の高い事業となっています。水事業をフローでみてみると、取水→送水→配水→下水処理→リサイクル/放流という流れになっています。関係する主体は、次の3つにわけることができます。(1)一連のフローを管理運営する運営会社、(2)水処理機器・システムプロバイダー、(3)上下水道料金を規制する行政となります。また、水の用途では、飲み水なのか工業用の水で分けることもできます。取水という観点では、淡水からなのか、海水からなのか、という違いもあります。
経済産業省の推計によると、工業水処理業界は約12兆円程度の市場規模、淡水化処理業界は約7兆円程度の市場規模です。
水の2030年問題
調査会社The 2030 Water Resources Groupによると、2030年には水需要に対して水資源が40%不足するとされます。SGDsの観点からも水道インフラの拡充が要請されています。
【M&Aの動向】
水道業界における1998年以降の企業価値10億ドル以上の案件の平均EBITDAマルチプルは約11倍となります。近年インフラストラクチャーへの投資を専業とするインフラファンドによる上下水道会社の買収が目立ちます。
- 1999年 スエズによるUnited Water Resourcesの買収
- 2001年 RWEよる米American Water Worksの買収(RWEはこの買収でThames WaterとAmerican Water Worksを保有するウォーターバロンの一角へ)
- 2006年 Hastingsによる英South East Waterの買収
- 2006年 マッコーリによるRWEからお英国のThames Waterの買収
- 2007年 SuezによるスペインのAgbarの株式52.13%の買収
- 2011年 香港のチョンコン・インフラストラクチャーが英Northumbrian Waterを買収。チョンコン(長江基建集団)は香港の不動産大手。
- 2017年 アリアンツ等コンソーシアムによる英Affinity Water買収。Affinity Waterは英国の大手水道会社。
- 2018年 IFMインベスターズによるスペインAqualiaの株式49%の買収。Aqualiaはスペイン最大の水道会社、売主はFCC(スペインの建設系財閥)
- 2018年 EQTによるSaur買収。Saurはフランス第3位の水道会社。
- 2018年 KKRが英South Staffordshireの持ち分75%をArjun Infrastructure Partnersに売却。
- Arjun Infrastructure Partnersは買収した持ち分の19.9%を三菱UFJリースに売却。
- 2021年 ヴェオリアによるスエズの買収⇒さらに詳しく
さらに詳しく業界を知るためのお薦め書籍
水道事業 経営戦略ハンドブック 改訂版
水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと
【会社の概要】
ヴェオリア(Veolia、仏)
ヴェオリア(Veolia、ベオリア)は1853年に設立された世界最大手の民間水道会社です。ウォーター・バロンの一角です。ヴィヴェンディの前身のジェネラル・デ・ゾー仏水道公社に源流があります。2020年にエンジーが保有するスエズ株式を取得しました。2022年にスエズと経営統合しました。
スエズ(Suez、仏)
Suez(スエズ)は、1880年に設立された世界トップクラスの水道事業運営・産業用水処理会社(ウォーターバロン)です。電力・ガス大手であるエンジ―(Engie)が主要株主でしたが、2021年にヴェオリアが買収をしました。スエズの源流は1800年代中盤にスエズ運河を建設したスエズ運河株式会社にまで遡ることができます。インドスエズ銀行の売却やフランスガス公社(GDF)と合併によるGDFスエズの誕生、その後エンジ―ヘの社名変更を行っております。2017年にはGEから水処理機器大手であるGEウォーターを32億ユーロで買収し、運営会社から水処理機器製造販売へと事業領域を拡大しております。MBR、UF/MF膜の分野に強みを持ちます。2020年にはドイツの化学メーカーであるランクセスよりRO膜を買収しました。2021年にヴェオリア傘下となりました。アグデス・デ・バルセロナ(Aguas de Barcelona、Agbar、スペイン)を傘下に持ちます。
アグデス・デ・バルセロナ(Aguas de Barcelona、Agbar、スペイン)
スペイン最大手の水道会社です。現在はスエズ傘下となっています。
アクアリア(Aqualia)
Aqualia(アクアリア)はスペイン最大級の水道運営会社です。アブラワッシュ(エジプト)、ブルゴス(スペイン)、グリナ(ルーマニア)、アライジャン(パナマ)、グアイマス(メキシコ)、ソハール(オマーン)とアルワタ(UAE)等で水道事業を展開しています。同社はスペイン最大手の総合建設会社Fomento de Construcciones y Contratas, S.A.(FCC)の子会社で、2018年に豪州の年金ファンド系投資会社であるIMF Investors(IMFインベスターズ)に49%の持ち分を約10億ユーロで売却をしています。FCCの最大株主はメキシコでモバイル通信等を手掛けるCarlos Slim氏となっています。
SABESP(サンパウロ州基礎衛生公社、ブラジル)
1973年に設立されたブラジル・サンパウロに本拠を構える水道運営会社です。サンパウロ州が筆頭株主です。サンパウロ証券取引所に上場しています。
Beijing Enterprises Water Group(北控水務集団)
インフラ投資を行うBeijing Enterprises(ベイジンエンタープライズ)傘下の水道会社です。香港証券取引所に上場しています。
親会社 | 持分 | グループ会社 |
---|---|---|
Beijing Enterprises | ||
↳ | 100% | Beijing Gas(北京ガス) |
↳ | 45% | Yanjing Brewery(燕京ビール) |
↳ | 41% | BE Water |
重庆水务集团(Chongqing Water Group、中国)
重慶市に本拠を置く水道運営会社です。上海証券取引所に上場しています。
ユナイテッド・ユーティリティーズ (United Utilities、英)
英国大手水道事業会社です。同社豪州子会社のユナイテッド・ユーティリティーズ・オーストラリア(UUA)は、三菱商事・産業革新機構連合が買収しております。
アメリカン・ウォーター・ワークス(American Water Works、米)
NYSEに上場する米大手民間水道会社です。上場前は独電力大手RWE傘下でした。
アーチェ(Acea、伊)
元ローマ市営の電力供給会社です。ローマ市を中心に水道事業を展開しています。
ソールグループ(Saur、仏)
フランス第三位の水道会社です。19百万人に水を供給しています。フランス国内の市場シェアは16%です。2007年にフランス預金供託公庫(CDC)率いるファンドに買収され、2018年に想定企業価値17億ドル(EVITDA倍率で11.5倍)でEQTが買収を行いました。フランス以外ではスペイン、サウジアラビアとポーランドに進出しています。
テムズ・ウォーター(Thames Water Utilities、英)
英国最大の水道事業会社です。独電力大手のRWE傘下を経て豪Macquarie Group(マッコーリ・グループ)が買収をしました。その後、マッコーリは部分売却を重ね、現在はカナダの年金ファンドであるオマース(OMERS)、アブダビ投資庁、クウェート投資庁、中国投資(CIC)等のコンソーシアムが所有しています。
セバーン・トレント・ウォーター(Severn Trent Water、英)
英大手民間水道会社です。ロンドン証券取引所に上場しています。
ベルリーナー・ヴァッサーティッシュ(Berliner Wasserbetriebe)
独民間水道事業会社大手です。元ベルリン市水道局です。仏ヴェオリアや独RWEが共同株主です。丸紅へ子会社でベルリンに本拠を置くベルリンヴァッサー・インターナショナルを売却しました。
東京水道局
東京都傘下の公営水道局です。水質管理では世界的な評価を得ています。水道供給量も世界上位クラスです。
ゲルゼンヴァッサー(Gelsenwasser、独)
ドイツ大手の水道会社です。
日本の商社の海外水道事業への展開状況
国内水道事業は地方自治体による管理・運営が基本であり、日本国内では水道事業のノウハウを蓄積することが難しいといわれています。一方、世界的には今後民営化される水道事業の拡大が予想され、すでに民間企業としてノウハウを蓄積した水メジャーと如何に競合していくかが水道事業を世界展開していくうえでの課題となっています。
そうした中で、各商社は海外での水道事業に参画することでノウハウを蓄積しようと試みております。
三菱商事
大手財閥であるアヤラグループとともにフィリピン最大手の水道管理会社のManila Water(マニラウォーター)を設立しています。
ドバイをベースとする水事業大手Metito Holdings Ltd(メティート)への出資、英国のSouth Staffordshireの持ち分25%の買収、豪州2位のUnited Utilities Australia Pty Limited社(英United Utilities、ユナイテッドユーティリティ社の子会社)を産業革新機構等と買収し、事業を拡大しています。
三菱商事について
1887年に設立された物流会社です。社名の通り倉庫を軸とした陸上、港湾、フォワーディングといった物流に強みを持ちます。三菱グループの中でも5番目に古く設立された会社です。
三菱倉庫の業績推移、株価パフォーマンスや市場シェアなどさらに詳しく
三井物産
タイの民間水事業者最大手であるタイタップウォーターサプライ社(Thai Tap Water Supply)へ出資、2010年にはシンガポールのハイフラックス社(Hyflux)と共同で中国において上下水事業を展開していますが、ハイフラックスは2021年に経営破たんしました。
スペインAqualia Gestion Integral del Agua S.A. チェコ共和国子会社Aqualia Czech S.L.(以下「Aqualia Czech」)の49%持分を取得しましたが、売却しております。
住友商事
英ロンドンの中堅水道事業会社であるサットン&イーストサーレイウォーター(Sutton & East Surrey Water)を買収し、大阪ガスと共同運営しています。
丸紅
中国では、成都浄水処理事業(Chengdu Generale Des Eaux‐Marubeni Waterworks社) の40%持ち分、中国下水処理事業(安徽国禎環保社) の30% の持ち分を取得しています。チリでは、バルディビア上下水道事業(Aguas Decima社) を完全子会社化し 、Aguas Nuevas上下水道事業(Aguas Nuevas社) の持ち分も50%取得しています。ペルーではリマ市浄水供給事業(Consorcio Agua Azul社) の29%の持ち分を取得しています。豪州では、豪州産業用水処理エンジニアリング会社への40%の出資(Osmoflo Holdings社) をしています。フィリピンでは、マニラ首都圏上下水道事業(Maynilad Water Services社) へ20%出資 、ポルトガル・ブラジルではポルトガル・ブラジル上下水道事業(AGS (Administração e Gestão de Sistemas de Salubridade) 社)に出資しています。
伊藤忠
英国のブリストル市で上下水道サービスを展開するBristol Water Groupの株式20%を取得しています。
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