【株主対話からはじまったスエズ争奪戦】ヴェオリア対投資ファンド連合のリアルタイムケーススタディ
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【株主対話からはじまったスエズ争奪戦】ヴェオリア対投資ファンド連合のリアルタイムケーススタディ

株主対話型ファンドであるアンバーキャピタルとスエズとの対話とエンジーによる戦略レビューが契機となって、ヴェオリアと投資ファンド連合がスエズの買収を争う事態へと発展しました。最終的にヴェオリアがスエズを買収する形での決着となりました。

Amber Capital(アンバーキャピタル)概要

アンバーキャピタルは、2005年にJoseph Oughourlian氏によって設立された、根源的価値の追求とイベントドリブン戦略を掲げる欧州企業への投資に特化したアクティビストファンドです。2020年6月現在約16億ドルの資産を運用しています。オフィスは、ロンドン(本拠地)、ニューヨーク、ミラノで展開しています。

Suez(スエズ)

Suez(スエズ)は、1880年に設立された世界トップクラスの水道事業運営・産業用水処理会社(ウォーターバロン)です。電力・ガス大手であるエンジ―(Engie)が主要株主でしたが、2021年にヴェオリアが買収をしました。スエズの源流は1800年代中盤にスエズ運河を建設したスエズ運河株式会社にまで遡ることができます。インドスエズ銀行の売却やフランスガス公社(GDF)と合併によるGDFスエズの誕生、その後エンジ―ヘの社名変更を行っております。2017年にはGEから水処理機器大手であるGEウォーターを32億ユーロで買収し、運営会社から水処理機器製造販売へと事業領域を拡大しております。MBR、UF/MF膜の分野に強みを持ちます。2020年にはドイツの化学メーカーであるランクセスよりRO膜を買収しました。2021年にヴェオリア傘下となりました。

序章戦:スエズVSアンバーキャピタル

アンバーvsスエズ攻防戦
  • 2019年
    アンバーキャピタルがスエズの株式の1.9%を取得
  • 2019年7月18日
    アンバーキャピタルからスエズ経営陣へ株主提案

    「新生スエズの潜在的な価値創造を解き放て」(Unlocking the value creation potential of the “New Suez”)が公開提案されました。

  • 2019年10月2日
    スエズによる中期経営計画の発表

    スエズの2030年への変革ー環境サービス分野でグローバルリーダーとなえるための経営計画(Shaping SUEZ 2030 A comprehensive plan to become the global leader in environmental services)が公表されました。

  • 2020年2月26日
    スエズ経営陣によるFY2019決算発表

    前年比、売上高は+3.6%、営業利益+4.3%、フリーキャッシュフロー+7%を達成しました。

  • 2020年4月30日
    スエズ経営陣によるFY2020の1Q決算発表

    コロナ禍の影響にも関わらず前年同期比+0.5%の売上高成長を達成しました。

  • 2020年5月12日
    スエズ株主総会

    経営陣の提案が全て株主よって承認されました。

2019年9月18日時点でのスエズの株主構成

エンジ―が約32.1%の株主となっています。(その後ヴェオリアが29.9%を取得しています。後述参照)

出所:スエズ

エンジーについて

2008年にフランスガス公社のGDFとスエズが合併して誕生した大手電力・ガス会社です。フランス政府が大株主です。GDF Suez(GDFスエズ)からエンジーへと社名変更しています。発電以外にも石油やガス権益も保有していましたが売却を行いました。現在はガス供給とリニューアブル発電での事業強化を目指しています。水素発電所の展開も狙いグリーン水素へも積極投資を行っています。

売上構成

2020年度はクライアントソリューションズ事業と小売事業の割合が大きくなりました。

エンジーの2020年度の売上構成

エンジーの2020年度の売上構成

リニューアブル:水力、太陽光、風力発電事業
ネットワークス:ガス配給事業
クライアントソリューションズ:地域冷熱供給事業、オンサイト発電、EVチャージ
火力発電:石炭とガス火力発電
小売:電力とガスの小売事業
原子力:原子力発電事業

エンジーの戦略

2020年7月31日にエンジーがストラテジックレビューを発表しました。

  • リニューアブル発電所と電力・ガスのインフラストラクチャーへの投資を実行
  • クライアントソリューション事業のストラテジックレビューの実施
  • ノンコア事業と少数持分株式を含めたダイベストメントを推進
  • 中長期的にリニューアブルの発電容量を3GWから4GWへと増加
  • 分散化発電である地域冷暖房事業やオンサイト発電所を強化するものの、それ以外のクライアントソリューション事業はレビューの対象とする
  • ノンコア事業と少数持分株式を含め総額80億ユーロ程度の資産売却を行う
  • 少数持分株式には、スエズ持分(約30億ユーロ)、メンブレン型のLNGコンテナの製造をするGTTの持分等を含みます。
  • ノンコア事業には、発電所などへのエンジニアリング(EPC)サービスを提供するEndelも含んでいます。

エンジーの注力する事業は以下の通りとなります。

発電事業

  • IPP事業としては世界最大手一角
  • 103GWの発電容量
  • 23.7GWのリニューアブル発電

ガス事業

  • ガス供給業者としては欧州最大手の一角
  • 120億立方米のガス保管容量
  • LNGの再ガス化で欧州大手
  • 3万3千キロのガスパイプライン(導管)を運用
  • 26万キロのガス供給導管を保有

エナジーサービス

  • 20か国、350の地域で地域冷熱を供給
  • 24百万人の顧客

2020年にエンジーの取締役会はスエズ持分(29.9%)へのベオリアからの買収提案を承認しました。業界大手同士の資本提携ということもあり、独占禁止法の観点からの審査プロセスで承認が得られるか、予断を許さない状況は続きます。

2016年 北米の天然ガス発電所等をDynegyとEnergyCapital Partnersへ33億ドルで売却
2017年 フランスのトタルにENGIEの上流および中流のLNG資産(液化施設やLNGタンカーも含む)を売却
2017年 ENGIEE&P Internationalをネプチューンエナジー(カーライル、CVCとCICの組成したファンド)へ売却
2020年 エンジーによるブラジルのガスパイプライン事業会社のTAGの10%持分取得
2020年 トルコのガス配給会社であるIzgazをPalmet Enerjiへ売却

エンジーの世界市場シェア

「新生スエズの潜在的な価値創造を解き放て」の骨子

スエズの現状の課題

2011年のIPO(新規上場)以降、一株当り営業利益や1株当たり配当金の成長がない。(No EBIT/Share or DPS growth since IPO)

出所:アンバーキャピタル

方向を間違った戦略(Misguided Strategy)

株式の希釈化やレバレッジをかけて、高水準の資本支出を継続しているものの、利益の成長が限定的であり、その結果ROCE(使用資本利益率)の減少は減少の一途。例えば、2013年から2018年にかけて約130億ユーロの資本支出が行われていますが、EBITは1億ユーロしか増加していません。2014年に7.8%だったROCEは、2018年に6.2%となっています。同時期にレバレッジ倍率(EBITDAに対する有利子負債額)は3.1倍から3.8倍に増加しています。ROCE/WACC(加重平均資本コスト)倍率も1倍になってしまいました。

正しい戦略の策定をしよう!

資本効率を高めるために、定期的なポートフォリオレビューを実施し、低収益な資産は売却し、より収益性の高い事業へ投資、自己株償却、負債の返済をしましょう。その結果、ROCEが向上するはずです。例えば、子会社で保有しているスペインの上下水道会社であるAgbarは、

  • 成長性に乏しい
  • スエズのWACCよりもROCEが低い

という問題点があります。一方で、インフラファンドや年金ファンド等は、こうした長期の収入が読みやすい資産をより低い期待利回りで購入したがっています。スエズの企業価値/EBITDA倍率が7.5倍に対して直近のM&A事例を参照すればAgbarは12.5倍の約30億ユーロで売却できる可能性があります。売却資金を活用して、ROCEを高めるために戦略的な支出を行えば、下記の図のようにROCEは向上します。

出所:アンバーキャピタル

本選:スエズVSヴェオリアVS投資ファンド連合

スエズとアンバーキャピタルとの対話は、大株主であるエンジーのストラテジックレビューを機に、ヴェオリアによる非友好的なアプローチへと進展していきました。
  • 2020年7月31日
    エンジーがストラテジックレビューを開始

    エンジーがノンコア事業のストラテジックレビューを発表しました。ガス事業と再生エネルギーに特化し、サービス事業や少数持分などは売却をする方針です。

  • 2020年8月30日
    ヴェオリアからの提案
    • ヴェオリアがエンジーに対してスエズの持分の買収を提案しました。
    • 7月30日のスエズ株価の終値に対して50%のプレミアムを乗せた15.5ユーロでの29.9%の買取
    • エンジー持分の買取後、スエズに対して公開買付を実施
    • 本件買収は、1)フランス企業同士の文化的な同質性、2)水道業界における技術革新の促進、3)地域補完性、4)両社の経営計画であるスエズの「2030年への変革」とヴェオリアの「Impact 2023」の親和性、5)全ステークスホルダーへの価値創出、という観点から戦略的な合理性がある
  • 2020年8月30日
    スエズの経営陣のアナウンス

    ヴェオリアの提案は事前相談のない非友好的なものであり、取締役会にて検討を至急行う予定。

  • 2020年9月17日
    エンジーの経営陣によるアナウンス

    スエズの持分の売却は、エンジーのストラテジックレビューに則するものであり、ヴェオリア提案の内容に対して改善を求めると同時に他社からの提案についても検討を行う予定。

  • 2020年10月1日
    投資ファンドのアルディアン(Ardian)からの提案

    29.9%のスエズの株式を取得する提案。スエズの経営陣が賛同しました。

  • 2020年10月5日
    エンジー経営陣によるヴェオリア提案の受入

    エンジーは34億ユーロの売却を見込みます。売却のクロージングにために、欧州委員会の承認を得る手続きに入りました。

  • 2021年1月17日
    アルディアンとGIPによる意向表明のスエズ取締役会への提案

    スエズ経営陣にスポンサーとして関心がある旨の意向表明を提示しました。

  • 2021年2月7日
    ヴェオリアがスエズの約70%の株式の取得を目指し18ユーロで公開買付を実施

    スエズの経営陣が自社独自の資産売却を検討しているため、早期の100%子会社化を目指します。
    スエズの経営陣は反対表明

  • 2021年3月21日
    アルディアンとGIPがスエズに対して法的拘束力ある買収案を提示

    アルディアンとGIPはスエズのフランス国内の水関連事業と海外の事業の一部(売上合計91億ユーロの事業)を119億ユーロ(スエズ株価換算で1株20ユーロ)で買収することを提案。
    スエズの経営陣は賛同表明

  • 2021年4月11日
    スエズとヴェオリアが経営統合で合意

    2021年5月14日に最終契約書に署名しました。ヴェオリアによる公開買付価格は20.5ユーロとなりました。

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