水道業界(上水道・下水道会社)の世界市場シェアの分析

水道会社(上水道・下水道会社)の世界市場シェア、市場規模と業界ランキングの情報を掲載しています。水メジャー(ウォーター・バロン)のヴェオリア、スエズ、北控水務集団、アクアリア、テムズ・ウォーター、東京水道局といった水道会社の概要や動向も分析しています。

【水道業界とは】

水道事業は世界中で非常に公益性の高い事業となっています。水事業をフローでみてみると、取水→送水→配水→下水処理→リサイクル/放流という流れになっています。関係する主体は、次の3つに分けられます。(1)一連のフローを管理運営する運営会社、(2)水処理機器・システムプロバイダー、(3)上下水道料金を規制する行政となります。また、水の用途では、飲み水なのか工業用の水で分けることもできます。取水という観点では、淡水からなのか、海水からなのか、という違いもあります。
経済産業省の推計によると、工業水処理業界は12兆円程度の市場規模、淡水化処理業界は7兆円程度の市場規模です。

なお、調査会社The 2030 Water Resources Groupによると、2030年には水需要に対して水資源が40%不足するとされます。SGDsの観点からも水道インフラの拡充が要請されています。

水の2030年問題

調査会社The 2030 Water Resources Groupによると、2030年には水需要に対して水資源が40%不足するとされます。SGDsの観点からも水道インフラの拡充が要請されています。

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【市場シェア】

水道運営会社の2023年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、後述する市場規模を分母に、上下水道業界の2023年の市場シェアを簡易に試算しますと、1位はフランスのヴェオリア、2位はサンパウロ州基礎衛生公社、3位はアメリカン・ウォーター・ワークスとなります。

2020年の水道会社の市場シェアと業界ランキング

順位 Company name(English) 企業名 市場シェア
1位 Veolia ヴェオリア 7.04%
2位 SABESP サンパウロ州基礎衛生公社 0.75%
3位  American Water Works アメリカン・ウォーター・ワークス 0.57%
4位 Thames Water Utilities テムズ・ウォーター 0.43%
5位 Severn Trent Water セバーン・トレント・ウォーター 0.41%
6位 Beijing Enterprises Water Group 北控水務集団 0.35%
7位 The Bureau of Waterworks Tokyo Metropolitan Government  東京水道局 0.35%
8位 United USaur ソー 0.32%
9位  AUnited Utilities ユナイテッド・ユーティリティーズ 0.32%
10位  Aqualia アクアリア 0.23%
11位 Acea アーチェ 0.21%
12位  Berliner Wasserbetriebe ベルリーナー・ヴァッサーティッシュ 0.20%
©2024 Deallab

上下水道会社の市場シェア(2023年) ©2024 Deallab

1位は不動のヴェオリアです。元々2位だったスエズを2022年に買収してからは、他社を寄せ付けない圧倒的なシェアで首位の座を堅持しています。ヴェオリアもスエズもフランス企業で、水道事業の民営化で先行したフランス勢が国際展開でも先陣を切っております。

2位はブラジルのサンパウロ州基礎衛生公社です。3位は米国のアメリカン・ウォーター・ワークスです。以下米国・欧州・アジアなどの企業がランクインしていますが、シェアはすべて1%以下と僅差で、地域性が高いことがうかがえます。

一方、世界の人口増加に伴い水の需要は増加しており、各社とも世界展開の商機はあります。上下水道の整備はもちろん、インフラ整備などの技術を普及していくことでランキング上位を目指せると考えられます。

【市場シェア】

当サイトでは、2023年の上下水道の市場規模を6832.9億ドルとしております。参照した統計データは以下の通りです。

調査会社のリサーチアンドマーケットによると、2023年の同業界の市場規模は6832.9億ドルです。2024年には7321.3億ドルに達し2024年から2028年にかけ年平均7.1%で成長し、同年には9627.5億ドルに達する見込みです。

市場規模 成長率見込み
2023年 6832.9億ドル
2024年 7321.3億ドル 7.1%
2032年 9627.5億ドル 7.1%
水道業界の市場規模の予想成長推移 ©2024 Deallab

水道業界の市場規模の予想成長推移 ©2024 Deallab

【M&Aの動向】

1999年 スエズがUnited Water Resourcesを10億ドルで買収
2001年 RWEがアメリカンウォーターワークスを46億ドルで買収(RWEはこの買収でテムズとアメリカンウォーターワークスを保有するウォーターバロンの一角へ)
2006年 オーストラリアの銀行MacquireがRWEからテムズウォーターを80億ポンド(89億ドル)で買収
2009年 スエズエンバイロンメント(スエズの前身)がスペインのAgbarの株式を8億7100万ユーロ(13億ドル)で買収し、Agbarの株保有率を75%に高める
2017年 Macquarieがテムズを売却
2018年 IFMインベスターズがアクアリアの株式49%を1億ユーロ(12.5億ドル)で買収
2018年 EQTがソーを10.46億ユーロ(11.66億ドル)で買収
2022年 ヴェオリアがスエズを130億ユーロ(154.4億ドル)で買収⇒さらに詳しく

売上マルチプルは概ね0~1倍程度で推移しています。中間値は0.4、平均値は1.0となっています。

【会社の概要】

ヴェオリア(Veolia、仏)

ヴェオリア(Veolia、ベオリア)は1853年に設立された世界最大手の民間水道会社です。ウォーター・バロンの一角です。ヴィヴェンディの前身のジェネラル・デ・ゾー仏水道公社に源流があります。2020年にエンジーが保有するスエズ株式を取得しました。2022年にスエズと経営統合しました。

スエズ(Suez、仏)

Suez(スエズ)は、1880年に設立された世界トップクラスの水道事業運営・産業用水処理会社(ウォーターバロン)です。電力・ガス大手であるエンジ―(Engie)が主要株主でしたが、2021年にヴェオリアが買収をしました。スエズの源流は1800年代中盤にスエズ運河を建設したスエズ運河株式会社にまで遡ることができます。インドスエズ銀行の売却やフランスガス公社(GDF)と合併によるGDFスエズの誕生、その後エンジ―ヘの社名変更を行っております。2017年にはGEから水処理機器大手であるGEウォーターを32億ユーロで買収し、運営会社から水処理機器製造販売へと事業領域を拡大しております。MBR、UF/MF膜の分野に強みを持ちます。2020年にはドイツの化学メーカーであるランクセスよりRO膜を買収しました。2021年にヴェオリア傘下となりました。アグデス・デ・バルセロナ(Aguas de Barcelona、Agbar、スペイン)を傘下に持ちます。

SABESP(サンパウロ州基礎衛生公社、ブラジル)

1973年に設立されたブラジル・サンパウロに本拠を構える水道運営会社です。サンパウロ州が筆頭株主です。サンパウロ証券取引所に上場しています。

アメリカン・ウォーター・ワークス(American Water Works、米)

NYSEに上場する米大手民間水道会社です。上場前は独電力大手RWE傘下でした。

テムズ・ウォーター(Thames Water Utilities、英)

英国最大の水道事業会社です。独電力大手のRWE傘下を経て豪Macquarie Group(マッコーリ・グループ)が買収をしました。その後、マッコーリは部分売却を重ね、現在はカナダの年金ファンドであるオマース(OMERS)、アブダビ投資庁、クウェート投資庁、中国投資(CIC)等のコンソーシアムが所有しています。

セバーン・トレント・ウォーター(Severn Trent Water、英)

英大手民間水道会社です。ロンドン証券取引所に上場しています。

Beijing Enterprises Water Group(北控水務集団)

インフラ投資を行うBeijing Enterprises(ベイジンエンタープライズ)傘下の水道会社です。香港証券取引所に上場しています。

親会社 持分 グループ会社
Beijing Enterprises
100% Beijing Gas(北京ガス)
45% Yanjing Brewery(燕京ビール)
41% BE Water
ベイジンエンタープライズのグループ会社©ディールラボ

東京水道局

東京都傘下の公営水道局です。水質管理では世界的な評価を得ています。水道供給量も世界上位クラスです。

ソー(Saur、仏)

フランス第三位の水道会社です。19百万人に水を供給しています。フランス国内の市場シェアは16%です。2007年にフランス預金供託公庫(CDC)率いるファンドに買収され、2018年に想定企業価値17億ドル(EVITDA倍率で11.5倍)でEQTが買収を行いました。フランス以外ではスペイン、サウジアラビアとポーランドに進出しています。

ユナイテッド・ユーティリティーズ (United Utilities、英)

英国大手水道事業会社です。同社豪州子会社のユナイテッド・ユーティリティーズ・オーストラリア(UUA)は、三菱商事・産業革新機構連合が買収しております。

アクアリア(Aqualia)

Aqualia(アクアリア)はスペイン最大級の水道運営会社です。アブラワッシュ(エジプト)、ブルゴス(スペイン)、グリナ(ルーマニア)、アライジャン(パナマ)、グアイマス(メキシコ)、ソハール(オマーン)とアルワタ(UAE)等で水道事業を展開しています。同社はスペイン最大手の総合建設会社Fomento de Construcciones y Contratas, S.A.(FCC)の子会社で、2018年に豪州の年金ファンド系投資会社であるIMF Investors(IMFインベスターズ)に49%の持ち分を約10億ユーロで売却をしています。FCCの最大株主はメキシコでモバイル通信等を手掛けるCarlos Slim氏となっています。

アーチェ(Acea、伊)

元ローマ市営の電力供給会社です。ローマ市を中心に水道事業を展開しています。

ベルリーナー・ヴァッサーティッシュ(Berliner Wasserbetriebe)

独民間水道事業会社大手です。元ベルリン市水道局です。仏ヴェオリアや独RWEが共同株主です。丸紅へ子会社でベルリンに本拠を置くベルリンヴァッサー・インターナショナルを売却しました。

日本の商社の海外水道事業への展開状況

国内水道事業は地方自治体による管理・運営が基本であり、日本国内では水道事業のノウハウを蓄積することが難しいといわれています。一方、世界的には今後民営化される水道事業の拡大が予想され、すでに民間企業としてノウハウを蓄積した水メジャーと如何に競合していくかが水道事業を世界展開していくうえでの課題となっています。
そうした中で、各商社は海外での水道事業に参画することでノウハウを蓄積しようと試みております。

三菱商事

大手財閥であるアヤラグループとともにフィリピン最大手の水道管理会社のManila Water(マニラウォーター)を設立しています。
ドバイをベースとする水事業大手Metito Holdings Ltd(メティート)への出資、英国のSouth Staffordshireの持ち分25%の買収、豪州2位のUnited Utilities Australia Pty Limited社(英United Utilities、ユナイテッドユーティリティ社の子会社)を産業革新機構等と買収し、事業を拡大しています。

三菱商事について

1887年に設立された物流会社です。社名の通り倉庫を軸とした陸上、港湾、フォワーディングといった物流に強みを持ちます。三菱グループの中でも5番目に古く設立された会社です。
三菱倉庫の業績推移、株価パフォーマンスや市場シェアなどさらに詳しく

三井物産

タイの民間水事業者最大手であるタイタップウォーターサプライ社(Thai Tap Water Supply)へ出資、2010年にはシンガポールのハイフラックス社(Hyflux)と共同で中国において上下水事業を展開していますが、ハイフラックスは2021年に経営破たんしました。
スペインAqualia Gestion Integral del Agua S.A. チェコ共和国子会社Aqualia Czech S.L.(以下「Aqualia Czech」)の49%持分を取得しましたが、売却しております。

住友商事

英ロンドンの中堅水道事業会社であるサットン&イーストサーレイウォーター(Sutton & East Surrey Water)を買収し、大阪ガスと共同運営しています。

丸紅

中国では、成都浄水処理事業(Chengdu Generale Des Eaux‐Marubeni Waterworks社) の40%持ち分、中国下水処理事業(安徽国禎環保社) の30% の持ち分を取得しています。チリでは、バルディビア上下水道事業(Aguas Decima社) を完全子会社化し 、Aguas Nuevas上下水道事業(Aguas Nuevas社) の持ち分も50%取得しています。ペルーではリマ市浄水供給事業(Consorcio Agua Azul社) の29%の持ち分を取得しています。豪州では、豪州産業用水処理エンジニアリング会社への40%の出資(Osmoflo Holdings社) をしています。フィリピンでは、マニラ首都圏上下水道事業(Maynilad Water Services社) へ20%出資 、ポルトガル・ブラジルではポルトガル・ブラジル上下水道事業(AGS (Administração e Gestão de Sistemas de Salubridade) 社)に出資しています。

伊藤忠

英国のブリストル市で上下水道サービスを展開するBristol Water Groupの株式20%を取得しています。

参照したデータの詳細情報について


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