食塩・工業塩業界の世界市場シェアの分析

食塩・工業塩業界の世界シェア、業界ランキング、市場規模、再編の情報を分析しています。業界大手であるSCIソルト、CNSIC、コンパス・ミネラルズ・インターナショナルなどの概要や動向も掲載しています。

【食塩・工業塩とは】

塩の用途は幅広く、食用はもちろん、工業用にも広く利用されています。

  • 食用…調味料、脱水・防腐など
  • 医療用
  • 工業用…ホーロー、アルミ、ガラスなど

食塩・工業塩業界とは、岩塩・海水などの原料から塩を精製・製造し販売する業界を指します。

世界の塩の原料は、岩塩が7割程度、海水が3割程度と言われています。日本では岩塩が採れないので、ほぼ海水を原料としています。採掘・精製方法は原料や採掘国の気候などにより異なりますが、日本国内の食塩は次の方法で精製されるのが一般的です。

  • イオン膜・立釜法…海水をイオン膜に通して濃い塩水を作り、煮詰めて塩の結晶を作る方法
  • 溶解・立釜法…輸入した天日塩(塩田でつくられた塩)を輸入し、不純物を取り除き濃い塩水を作り、煮詰めて塩の結晶を作る方法

また、メキシコやオーストラリアなど雨が少なく風が強い国では塩田を作り、水分を日光で蒸発させる方法で天日塩を作っています。

工業用に使用される塩は、NaCL(塩化ナトリウム)からCLとNaOH(水酸化ナトリウム)へと分解され、塩化ビニルやウレタンの原料となります。

【食塩・工業塩の世界市場シェア】

食塩・工業塩会社の2022年度の生産量(⇒参照したデータの詳細情報)を分子に、後述する市場規模を分母にして、製塩業界の2022年の市場シェアを計算しますと、1位はSCIソルト、2位はCNSIC、3位はカーギルとなります。

製塩・食塩会社の市場シェア(2022年)

順位 会社名 市場シェア
1位 SCI Salt(SCIソルト) 10.00%
2位 China National Salt Industry Corporation(CNSIC 中国国家塩産業) 5.17%
3位 Cargill(カーギル) 4.83%
4位 Compass Minerals International(コンパス・ミネラルズ・インターナショナル) 4.33%
5位 Dampier Salt(ダンピアソルト) 3.55%
6位 ESSA 2.76%
7位 Salins(サラン) 1.38%
食塩・工業塩の生産高によるシェア(2022年度)

食塩・工業塩業界の市場シェア(2022年度)©2024 Deallab

※ドイツ肥料・食塩メーカーのK+Sグループも主要な食塩・工業塩企業ですが、生産量が開示されていないため、ランキングの対象外といたしました。

1位はアメリカのSCIソルトです。2021年にドイツのK+Sグループから北米事業のモートン・ソルト(Morton Salt)などを買収し、一気に世界首位となりました。2位は中国の食塩を独占しているCSNSICです。3位は米穀物メジャーのカーギルです。

4位は、同じく米国のコンパス・ミネラルズ・インターナショナルで、工業用塩に強く道路凍結防止剤ではトップクラスです。

5位は西豪州で事業を展開するダンピアソルトで、リオティントの子会社です。6位はメキシコ政府と三菱商事の合弁塩会社であるESSA、7位はフランスのサランとなりました。サランは2021年にヌーリオン(旧アクゾノーベル)から製塩事業を買収しました。

塩の生産量が多い国は、中国、アメリカ、インドです。ドイツ、オーストラリアなどが続き、ランキング上位の企業は生産量が多い国に集中していることが分かります。

なお、中欧・東欧の塩生産量が多い国としてウクライナがあり、過去にはArtyomsolなどの企業がランキング上位に挙がっていました。しかし、2022年のロシア侵攻の影響を受け操業を停止している企業が多く、中欧・東欧諸国の塩の供給に影響を及ぼしています。

【食塩・工業塩の世界市場規模】

当サイトでは、2022年の食塩・工業塩業界の世界の市場規模を294百万トンとして市場シェアを計算しております。参考にしたデータは次の通りです。

調査会社のスタティスタによると、2022年の生産量ベースの同市場規模は290百万トンです。2020年、2021年の生産量はそれぞれ280百万トン、294百万トンでした。

USGS(アメリカ地質調査所)によると、2021年の生産量ベースの同市場規模は290百万トンです。

参照したデータの詳細情報

塩の生産方法では、岩塩を原料とした塩が生産量の7割程度、海水を原料とする天日塩が3割程度と言われています。
用途としては、食塩の他に、工業用に使用されます。NaCLからCLとNaOHへと分解され、塩素は塩化ビニルやウレタンの原料となります。NaOHは苛性ソーダとなります。ガラス原料、洗剤や食品添加物の要素であるソーダ灰(炭酸ナトリウム)の原料でもあります。

【M&Aの動向】

1997年 カーギルによるアクゾノーベルからの北米塩事業の買収
2000年 K+S Groupによるソルベーから塩事業の買収
2009年 K+S Groupによるモートン・ソルトの買収
2016年 K+S Groupによる豪州のAshburton Saltの買収
2020年 Stone Canyon IndustriesによるKissner Group Holdingsの買収
2020年 K+S Groupによる米州塩事業のStone Canyon Industriesへの売却
2021年 フランスのサランがヌーリオンの塩事業を買収

製塩メーカーがライバル会社を買収するほか、化学メーカーが塩事業を拡大する目的で買収を実施するケースが見られます。また、日本の総合商社が海外の塩田事業に参画している例も多く見られます。

  • 豪ダンピアソルトに丸紅が22%、双日が10%出資
  • 三井物産が豪州のシャークベイ塩田を完全子会社化
  • ESSAはメキシコ政府と三菱商事の合弁会社

日本は年間約700万トンの塩を輸入しており、塩の自給率は11%と世界の塩生産国と比べて低い数値です。商社にとっては海外の塩田事業に参画して日本に塩を輸入することがビジネスチャンスとなっています。

さらに業界に詳しくなるためのお薦め書籍

塩の世界史(上) – 歴史を動かした小さな粒
日本と世界の塩の図鑑

【会社の概要】

SCI Salt(SCIソルト)

SCI Salt(SCIソルト)はストーンキャニオンインダストリーズ傘下の塩の生産会社です。2020年にKissner Group Holdings、2021年にK+SからMorton Salt事業などを買収し、現在は米州全域においてMorton Salt、Windsor Salt、Lobos Saltといったブランドの塩を生産・販売しています。

China National Salt Industry Corporation (中国国家塩産業、中国盐业总公司)

1950年に設立された中国に本拠を置く国営食塩会社です。食用食塩に関しては中国市場を独占しています。

Cargill(カーギル)

米国に本拠を置く1865年創業の穀物メジャー筆頭格です。食糧関連以外にも金融や製造業を営むコングロマリットです。塩の分野でも1997年にAkzoNobelから北米事業を買収して生産規模を拡大しています。食塩、家畜用の栄養補強材、硬水軟化剤、除氷製品などを手掛けています。非公開会社です。

Compass Minerals(コンパス・ミネラルズ・インターナショナル)

米国に本拠を置く塩・肥料メーカーです。塩は高速道路の凍結防止剤として利用されています。肥料は硫酸カリが主体です。

Dampier Salt(ダンピアソルト)

豪州に本拠を置く塩メーカーです。鉱山大手のリオティント傘下ですが、丸紅と双日も出資しています。ダンピア、ポートヘッドランド、マクラウド湖で天日による製塩を行っています。

ダンピアソルト(Dampier Salt)

豪州に本拠を置く塩メーカーです。鉱山大手のリオティント傘下ですが、丸紅と双日も出資しています。ダンピア、ポートヘッドランド、マクラウド湖で天日による製塩を行っています。

エクスポルタドラ デル サル メキシコ(ESSA、Exportadora de Sal, S.A. de C.V.)

三菱商事とメキシコ政府の合弁製塩会社です。天日塩田では世界最大級の生産規模を誇ります。

三菱商事について

三菱商事は、九十九商会に源流を持ち、1918年に三菱合資営業部が分社化され設立された総合商社です。広範囲な商材の輸出輸入を手掛けるトレーディングが祖業ですが、商社冬の時代を経て、プロジェクトや事業投資も行う複合企業体へと進化を遂げました。セクターなどで分類しにくい異形の経営スタイルのため、海外でもsogo shoshaという業態として理解が深まりつつあります。天然ガス、総合素材、石油・化学、金属資源、産業インフラ、自動車・モビリティ、食品産業、コンシューマー産業、電力ソリューション、複合都市開発で事業を展開しています。関連会社には、ローソン、三菱食品、三菱自動車、千代田化工などがあります。さらに詳しく

Salins(サラン)

フランスに本拠を置くフランスに本拠を置く製塩会社です。フランス、スペイン、イタリア、チュニジア、セネガルで、食用、農業用、化学用、除雪用、水処理用などの塩を生産しています。化粧品ブランドの「ECLAE」やワインの「サンルイ・キュヴェ」も展開しています。2021年にヌーリオンから製塩事業を買収しました。

Nouryon(ヌーリオン)について

Nouryon(ヌーリオン)はアクゾノーベルの特殊化学品事業が分社化して誕生した会社です。2018年にカーライルが買収を行いました。有機過酸化物、金属アルキルといった特殊添加剤、界面活性剤、キレート剤、特殊酸化剤、ジメチルエーテル、エチレンアミン・エタノールアミ、エクスパンセルマイクロスフィなどを、製紙パルプ、パーソナルケア、プラスチック、建築材料用途に提供します。また、工業塩事業にも強みを持ち、JOZO, NEZO, Suprasel, SanalやKNZブランドで展開しています。2021年に工業塩事業をフランスのSalins Groupへの売却を決定しました。

アクゾノーベルについて

アクゾノーベル(Akzo Noble)は、オランダに本拠を置く世界最大級の化学・塗料会社です。1994年にオランダのアクゾとスウェーデンのノーベルが合併して誕生しました。ノーベルはノーベル賞の生みの親のアルフレッド・ノーベルが買収して誕生した由緒のある会社です。さらに詳しく

K+S Group

ドイツに本拠を置く肥料・食塩メーカーです。カリウム肥料大手です。塩事業では、2000年にベルギーのソルベーから塩事業を買収したのに続き、2009年には米国の塩大手モートン・ソルト(Morton Salt)を買収し、塩生産量の拡大を図ってきました。2020年に負債削減のため米国の塩事業の売却検討を発表し、10月にStone Canyon Industries(ストーンキャニオンインダストリーズ、SCIソルト)への売却を発表しました。

Artyomsol

ウクライナに本拠を置く政府系塩メーカーです。Bryantsivska鉱山での岩塩が主体となります。

Suedwestdeutsche Salzwerke(ザルツヴェルケ)

ドイツに本拠を置く塩・食塩メーカー大手です。1517年に製塩を始めたハイルブロン岩塩鉱山がメインの鉱山となります。ライヘンハル盆地からの天然湧水塩水からも製塩を行っています。バーデンヴュルテンベルク州とハイルブロン市が株主となっています。

三井物産

西オーストラリアのシャークベイとオンズローの塩田で生産を行っています。天日製塩の塩田で、食塩と工業塩を日本を含むアジア地域へ輸出しています。

アメリカン・ロック・ソルト(American Rock Salt)

1997年に設立された米国に本拠をおく製塩会社です。ハンプトンコーナー鉱山(ロチェスター南部)からの岩塩がメインとなり、年間18000トンの製塩能力を持っています。

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