旅行代理店の世界シェアと市場規模について分析をしています。ブッキングホールディングス、エクスペディア、TUI、JTBといった世界大手旅行代理店の概要や動向も掲載しています。
【旅行代理店とは】
旅行代理店は、旅行商品を代理で販売しています。例えば、ホテルや航空会社などと契約を結び顧客に対して代わりに販売し、手数料で利益を得ています。旅行代理店の取り扱う商品は、旅行計画、発券、宿泊施設の予約、交通機関の手配、ビザサポート、旅行保険、個人的な旅程など多岐に渡ります。個人の旅行者へのパッケージ販売(BtoC)などと共に、出張や社内旅行などのビジネス向けへの販売(BtoB)にも需要があります。
従来は店舗などで旅行パッケージを販売するのが一般的でしたが、インターネットの台頭によりOTA(Online Travel Agent)と呼ばれるオンライン旅行代理店が増えてきました。OTAは実店舗を持たず、ホテルなど宿泊施設の仲介や、ホテルと航空券のセット販売、ツアーの販売なども扱っています。
OTAを利用すると、検索・閲覧が容易で、コストを抑えながら旅行をカスタマイズできるので、利用者が着実に増えています。当然参入する企業も増えており、競争は激化しています。また、近年では「脱OTA」を目指し、自社サイトからの予約に注力するホテルなども増えており、旅行代理店市場は今後どのように顧客を獲得していくかが大きな課題となっています。
当データベースでは、従来の実店舗などによる旅行代理店ならびにOTAを含めた広義の意味での旅行代理店の市場規模を採用し、主要企業の市場シェアを分析しています。
【旅行代理店の世界市場シェア+ランキング】
旅行代理店各社の2022年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2020年の旅行代理店業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位はブッキングホールディングス、2位はTUI、3位はエクスペディアとなります。
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | TUI Group(トゥイ) | 4.06% |
2位 | Booking Holdings(ブッキングホールディングス) | 3.95% |
3位 | Expedia Group(エクスペディア) | 2.70% |
4位 | JTB Corporation(JTB) | 1.72% |
5位 | Trip.com(トリップドットコム) | 0.67% |
6位 | FLIGHT CENTRE TRAVEL GROUP(フライトセンター) | 0.35% |
7位 | American Express Global Business Travel(アメックスGBT) | 0.33% |
*フライトセンターは2023年会計年度(2022年7月~2023年6月)のデータを使用
ランキング1位のTUIはドイツ企業で、OTAではない旅行会社の中では最大規模です。TUIは、旅行代理店以外にも航空会社、クルーズ船、ホテルなどを保有しています。
2位のブッキングホールディングスは、ブッキング・ドットコムやアゴダなどの宿泊予約サイト、レストラン予約サイトのオープン・テーブル、レンタカー予約のレンタルカー・ドットコムなどのサービスを展開しているOTAです。
3位のエクスペディアは、長年首位の座を守っていましたが、勢いを増すブッキングホールディングスに首位を明け渡しました。もともとはマイクロソフトの旅行代理店事業でしたが、分社化後独立され、現在はジョン・マローン率いるケーブル大手のリバティ傘下となっています。
日本企業としてはJTBが4位にランクインしています。1963年に日本交通公社から、分社化して誕生しました。
《OTA上位2社の取扱高とビジネスモデルの比較》
オンライン旅行代理店トップ2のブッキングホールディングスとエクスペディアの取扱高の推移を比較した結果は、次のようになります。
旅行代理店大手2社の取扱高の比較 ©2024 Deallab
エクスペディアが首位を守ってきたものの、コロナウイルスの流行が落ち着き始めた2021年にはブッキングホールディングスに首位を明け渡し、2022年には取扱高に大きな差が生じています。ブッキングホールディングスの成長要因としては、B2Bビジネスの強化や支払い方式の多様化が挙げられます。また、ブッキングホールディングスでは「コネクテッドトリップ(旅行の準備から終わりまでを1つのプラットフォームでシームレスに提供する方針)」を強化しています。航空券の予約・保険の手配から、旅行を終えるまでの全てのサービスを提供できるため、ユーザーがブッキングホールディングスのサービスのみを利用して旅行することが可能となり、利便性が増しています。
なお、ブッキングホールディングスとエクスペディアの大きな違いは、ビジネスモデルにあります。エクスペディアが「マーチャントモデル(前払い方式)」、ブッキングホールディングスが「エージェンシーモデル(後払い方式)」をメインに取り扱っています。
2022年時点でもその傾向は同じですが、ブッキングホールディングスは年々マーチャントモデルでの収益を伸ばしています。マーチャント方式のほうが手数料が高い傾向にあり、利用者から受け取った料金をホテル側に支払うまでにブッキングホールディングスがキャッシュを保持することになり、キャッシュフローも改善します。ブッキングホールディングスがマーチャントモデルを取り扱うようになってから売上が伸びたことも考慮すると、今後はビジネスモデルに変化が生じていくことも考えられます。
【旅行代理店の世界市場規模】
当データベースでは、2022年の旅行代理店業界の市場規模を4321億ドルとしております。参照にした各種統計データは次の通りです。
調査会社のスタティスタによると、2021年の旅行代理店業界の市場規模は2991.9億ドルで、2022年の同市場規模は4321億ドルです。2023年は前年比12.2%増の4747億ドルになると見込まれています。⇒参照したデータの詳細情報
年 | 市場規模 | 前年成長率 |
---|---|---|
2022年 | 4321億ドル | – |
2023年 | 4747億ドル | 12.2% |
旅行代理店業界の市場規模の予想成長推移 ©2024 Deallab
2020年から2021年にかけてはコロナウイルスの流行により、移動制限・旅行自粛の影響を受け旅行代理店は大打撃を受け、市場全体での売上も大きく落ち込みました。その後、感染が落ち着いた2022年から徐々に旅行する人が増え、代理店の売上も回復してきています。
近年では、インターネットの普及に伴い代理店を通さずにオンラインで自ら航空券や宿泊施設を予約する人も増えました。調査会社スタティスタによると、2022年のオンラインでの旅行関連の販売市場(航空券・宿泊施設・レンタカー・レジャーなど)は4748.9億ドル、2023年は5211.8億ドルで、旅行代理店の市場規模よりも大きいことが分かります。今後も若い世代を中心に、旅行代理店を介さず個人で旅行を手配する人が増えていくことが予想されます。
一方、旅行代理店業界にも一定の需要は期待されており、特に新興国で中間層の旅行ニーズの高まりを受けて代理店の需要も高まると考えられています。また、各代理店は画一的なパッケージの販売ではなく、エコツーリズムやマイクロツーリズムなど多様化する旅行のニーズに対応していくことが求められています。
さらに詳しく業界を理解するためのお薦め書籍と関連サイト
最新《業界の常識》よくわかる旅行業界
旅行産業論
エアライン・航空業界の世界市場シェア
【M&Aの動向】
2013年 エクスペディアが宿泊施設の検索エンジン運営のTrivagoの株式を61.6%取得して子会社化
2013年 ブッキングホールディングスが旅行関連サービスの検索エンジン運営のKAYAKを18.8億ドルで買収
2014年 ブッキングホールディングスがオンラインレストラン予約サイトのオープンテーブルを26億ドルで買収
2015年 エクスペディアが民泊仲介大手のHome Awayの株式を約64.8%(39億ドル)取得して子会社化
2021年 ブッキングホールディングスが米ホテル客室販売のGetaroomを12億ドルで買収
2021年 ブッキングホールディングスがスウェーデンの航空券予約プロバイダーEtraveli Groupを16.3億ユーロで買収予定と発表
2023年 フライトセンターが英国富裕層向け旅行販売のScott Dunnを約1.2億ポンドで買収
主に2大トップのブッキングホールディングスとエクスペディアが大型のM&Aによってシェアを広げています。両社ともに、代理店業務関連の企業買収に留まらず、民泊仲介や検索エンジン、レンタカーやレストラン関連など、旅行に関連する企業を広く子会社化しています。
ブッキングホールディングスによるETraveliの買収に関しては、EUの独占禁止規制当局が難色を示しています。ETraveliの買収により、欧州内でのブッキングホールディングスのシェアが高まり、航空券やホテル料金などの値上げに影響するとの懸念があるからです。欧州委員会がどのような判断を下すのかが、この買収の焦点となります。
【インバウンド需要の見通し】
日本政府観光局(JNTO)によると、インバウンド需要により、2023年7月の訪日外国人旅行者数は232万600人となりました。2019年との比較では22.4%減で、コロナ前の水準の約8割まで回復しました。4-6月期の一人当たり消費額も20.5万円となり、2019年の15.8万を大きく上回っております。
円安の進行やコロナで日本に旅行できなかったペントアップディマンドも生じており、2023年インバウンド需要は5.9兆円に達し、コロナ前の2019年の4.8兆円を大きく上回るという見通しのため、今後も旅行業界には注目です。
【会社の概要】
Booking Holdings(ブッキングホールディングス)
米国に本拠を置くオンライン・トラベル・エージェント(OTA)です。2018年にプライスラインドットコムから社名を変更しております。欧州のBooking.com、アジアのAgodaと、地域ごとに異なるブランドで事業を展開しています。レンタカーのTravelJigsaw、レストラン予約のOpenTable、航空券比較サイトのWoomooを相次いで買収し、業容を拡大しています。
TUI Group(トゥイ)
ドイツに本拠を置く旅行代理店大手で、前進は1923年に設立されたプロイスザーク社です
。旅行代理店事業以外にも、クルーズ船運航企業のトムソン、LCCのTUI航空、トムソン航空などを展開。コンテナ大手のハパックロイド社を所有していた時期もあり、現在も主要株主の1社でもあります。
Expedia Group(エクスペディア)
米国に本拠を置くマイクロソフトから2004年に分社化したオンライン・トラベル・エージェントです。子会社のHotels.com、Hotwire、Orbitz、 trivago 、Venere.comなどを通じて、ホテルに加えて航空、レンタカー、ツアーなどを総合的に取り扱っています。
JTB Corporation(JTB)
日本の交通公社が全身の総合旅行代理店。国内やアジアでは圧倒的な存在感を示す。アウトバウンドの取り込みが課題と言われています。
Trip.com(トリップドットコム)
2017年にサービスを開始した中国に本拠を置くオンライン旅行代理店です。
FLIGHT CENTRE TRAVEL GROUP(フライトセンター)
オーストラリアに本社を置く旅行代理店大手で、1982年に創業されました。20ヵ国以上で個人・法人旅行の代理店事業を展開しています。豪州・ニュージーランドでの事業がメインでしたが、近年では米州や中東・アフリカでの事業も拡大しています。日本では2021年に合弁会社「FCMトラベル・スタンダード・フォア・ジャパン」を立ち上げ、日本市場での事業拡大を図っています。
American Express Global Business Travel(アメックスGBT)
アネックスGBT(グローバルビジネストラベル)はアメリカン・エクスプレスと投資ファンド連合(カーライル、カタール投資庁、GIC、ブラックロックなど)との合弁会社です。
アメリカン・エクスプレスとは
米国を代表するクレジットカード会社です。1850年にウェルズ・ファーゴの創設者によって設立されました。もともとは運輸業です。クレジットカード会員向けの旅行の手配や、法人向けのアメリカンエキスプレス・グローバルビジネストラベルを展開しています。
BCDトラベル
1975年にJohn Fentener van Vlissingen氏によって設立されたオランダに本拠を置く旅行代理店です。BCDグループ傘下の非公開会社です。法人向けの旅行代理店に業務に強みを持ちます。BCDグループは法人向けのカンファレンスの取扱い、航空券価格比較、空港内送迎サービスも行っています。
Carlson Wagonlit Travel(カールソン・ワゴンリー・トラベル、CWT)
フランスに本拠を置く法人向けの旅行代理店です。1938年にCurt Carlson氏によって設立されたCarlson Group傘下にあります。Carlson Groupはラディソンホテル、パークプラザホテルを海航集団(海南航空、HNA Group)に売却しております。
HNA Grou(海航集団、海南航空)
海航集団(海南航空、HNA Group)は2000年に中国の海南省に設立された非公開のコングロマリットです。コングロマリットの中核の企業は前身が海南省航空公司である1993年に陳峰(Chen Feng、チェン・フェン)氏によって設立された海南航空(ハイナン・エアライン)となります。2000年に経営難となった長安航空を買収し、中国トップ5の規模の航空会社となりました。ホテル、不動産、航空機リース等の分野で積極的な投資を行いました。2017年末の時点で負債が12兆円となり、2018年には共同創業者である王健氏が死亡しています。2021年に破産プロセスに入りました。さらに詳しく
HRG(ホッグ・ロビンソン・グループ)
1845年に設立された英国に本拠を置く法人向け旅行代理店大手です。中小・中堅企業向けのサービスを得意とします。
China National Travel Service(中国旅游集团)
中国の政府系の旅行代理店です。1928年にChen Guangpu氏によって設立されました。
Thomas Cook Group(トーマス・クック・グループ)
英国に本拠を置く老舗旅行代理店です。旅行代理店以外にもトーマス・クック航空等を展開しています。2019年に破産し、中国の復星(Fosun)グループ傘下でオンライン旅行代理店として事業を継続しております。
コンテンツの残りを閲覧するにはログインが必要です。既に会員の方はログインすると閲覧できます。まだ会員登録がお済みでない方は、こちらから会員登録ができます。