乳製品(牛乳・チーズ・ヨーグルト・バター)業界の世界市場シェア、市場規模、再編について分析をしています。ラクタリス、ダノン、デイリーファーマーズオブアメリカ、伊利集団、フリーズランドカンピナといった大手乳製品メーカーの概要や動向も掲載しています。
【乳製品業界とは】
牛乳、ヨーグルト、バター、チーズ、アイスクリームなどの乳製品を製造・販売する企業のことを指します。雪印メグミルクによれば、2017年の世界の乳製品消費量(バターを除く)は3億5700万トンで2000年の1億9300万トンから年平均3.68%増加しています。
乳製品のうち最も売上高が大きいのは牛乳ですが、急成長を遂げているのがヨーグルトです。健康意識の高まりが理由に挙げられます。日本でも機能性ヨーグルトなどの付加価値の高いヨーグルトを中心に売上が伸びています。
乳製品業界の主力市場はヨーロッパですが、アフリカでのシェアが急速に伸びています。中間層が増えて乳製品を購入する人が増えていることに加えて、牛乳やチーズの消費量が多い若年層の人口が急増していることが理由に挙げられます。
【乳製品業界の世界市場シェア+ランキング】
乳製品メーカー各社の2022年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、後述する市場規模を分母にして、2022年の乳製品業界の世界市場シェアを簡易に算出すると、1位はラクタリス、2位はダノン、3位はデイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカとなります。
*推計データ
**2023年会計年度のデータを使用(フォンテラ:2022年8月~2023年7月、サプート:2022年4月~2023年3月、DMK:2023年1月~2023年12月)
乳製品業界の世界市場シェアと業界ランキング(2022年)
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | Lactalis(ラクタリス) | 3.36% |
2位 | Danone(ダノン) | 3.28% |
3位 | Dairy Farmers of America(デイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ) | 2.74% |
4位 | Inner Mongolia Yili Industrial Group Co. Ltd(Yili、伊利集団) | 1.93% |
5位 | FrieslandCampina(フリーズランドカンピナ) | 1.67% |
6位 | Fonterra(フォンテラ) | 1.64% |
7位 | Arla Foods(アーラフーズ) | 1.64% |
8位 | Saputo(サプート) | 1.48% |
9位 | Mengniu Dairy(蒙牛乳業、メンニュウ乳業) | 1.45% |
10位 | Nestlé(ネスレ) | 1.35% |
11位 | Agropur(アグロプール) | 0,70% |
12位 | Deutsches Milchkontor(DMK) | 0.65% |
13位 | Sodiaal(ソディアール) | 0.65% |
14位 | Schreiber Foods(シュレイバー・フーズ) | 0.57% |
15位 | Kraft Heinz(クラフトハインツ) | 0.56% |
参考 | Meiji Holdings Co., Ltd.(明治ホールディングス株式会社) | ー |
参考 | Youran Dairy (優然牧業、ユーラン乳業) | ー |
参考 | General Mills Inc.(ゼネラルミルズ) | ー |
参考 | Ezaki Glico Co.,Ltd.(江崎グリコ株式会社) | ー |
2022年もフランスのラクタリスが世界1位となりました。2位はフランスのダノンで、フランス企業がランキング上位に挙がっていることが分かります。3位は米国の全国乳業販売協同組合であるデイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカです。
4位は中国の乳製品最大手である伊利集団、5位はオランダの農協系グループであるフリーズランドカンピナ、6位はニュージーランドのフォンテラと、生産・販売国が世界中に分散しています。
また、上位15社でも市場シェアは25%弱で、乳製品業界は多くの企業がシェアを競うレッドオーシャンとも言えます。これは乳製品の性質(痛みが早い、ヨーグルト等型崩れする)から、輸出等で世界展開をするのが難しく、地域ごとに強い乳製品メーカーが存在感を示しているためだと考えられます。
また、ESGを推進する流れから、より環境負荷の低いとされる牛乳に代わるプラントベースの乳製品(代替乳製品)の市場も成長しています。スタートアップが数多く参入し、今後の業界構造も大きく変わる可能性があります。
【乳製品業界の世界市場規模】
当サイトでは、下記の各種市場推計データをもとに、2022年の乳製品業界の市場規模を8930億ドルとして市場シェアを算出しております。
調査会社のスタティスタおよびアイマークによると、2022年の同業界の市場規模は8930億ドルです。2023年から2028年にかけて年平均5.79%で成長し、2028年の同市場規模は1兆2430億ドルへ拡大すると見込まれています。⇒参照したデータの詳細情報
年 | 市場規模 | 成長率見込み |
---|---|---|
2022年 | 8930億ドル | ー |
2023年 | 9447億ドル | 5.79% |
2028年 | 1兆2430億ドル | 5.79% |
乳製品業界の世界市場規模の予想成長推移 ©2024 Deallab
【M&Aの動向】
- 2007年 ダノンによるオランダの乳製品会社のRoyal Numicoの買収
- 2011年 ラクタリスによるイタリア乳業メーカーParmalat社の買収
- 2013年 中国蒙牛乳業(China Mengniu Dairy)による中国の粉ミルクメーカー雅士利国際(Yashili)の買収
- 2013年 カナダのサプートによる豪ワーナンプールの買収
- 2013年 ラクタリスによるインドの乳業メーカーTirumala Milk社の買収
- 2014年 ダノンによるモロッコの乳製品メーカー大手のCentrale Laitière(レチーエル)の買収
- 2014年 ダノンによる中国蒙牛乳業(China Mengniu Dairy)への出資
- 2014年 カナダの協同組合AgropurによるDaviscoの買収
- 2015年 ラクタリスによるトルコの乳製品大手のAK Gidaの買収
- 2015年 ダノンによる粉ミルクメーカー中国の粉ミルクメーカー雅士利国際(Yashili)への25%出資
- 2015年 フリーズランドカンピナによるベルギーの チーズメーカーのFabrelac社の買収
- 2016年 ダノンによるエジプトのチーズメーカーのHalayeb社の買収
- 2017年 ダノンによる大豆飲料大手であるホワイトウェーブの買収
- 2017年 ラクタリスによるStonyfield Farmの買収
- 2019年 雅士利国際による豪Bellamy’s Australiaの買収
- 2019年 ラクタリスによるNuova Castelliの買収
- 2020年 明治による中国の牧場運営会社オーストアジア社の25%株式をインドネシア等で食肉・水産事業を手がけるジャプファ社から買収
- 2020年 クラフト・ハインツがチーズ事業(売上高18億ドル)の一部をラクタリスに売却
- 2021年 サプートが代替チーズメーカー2社(Bute Island FoodsとSheese brand)を買収
ラクタリスやダノンなど乳製品大手がアジアやアフリカの企業を買収し、売上高を伸ばしています。サプートの代替チーズ企業買収やダノンのホワイトウェーブ買収から分かるように、代替乳製品分野へ参入する足がかりとしてM&Aを利用するケースもあります。
直近のM&Aの企業価値に対する売上高の倍率を見てみると、概ね1〜3倍のレンジとなります。中間値・平均値は2.4です。
さらに業界を詳しく理解するためのお薦め書籍と関連サイト
【会社の概要】
Lactalis(ラクタリス)
フランスの大手乳製品メーカーです。プレジデントやガルバーニといったチーズブランドを世界的に展開しています。 Besnier(ベニエー)一族が支配するファミリーカンパニーです。同社は、75千人の従業員を85カ国で展開し、製造拠点は約230を43カ国に有しております。牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、クリーム、乳成分をバランスよく売り上げているのが特徴です。2020年にクラフト・ハインツからチーズ事業の一部を買収しました。
Danone(ダノン)
ダノンはフランスを代表する大手乳製品メーカーです。1919年にスペインのヨーグルトの会社として誕生し、1972年にフランスの食品会社であるBSNと経営統合することでダノンが誕生しました。ダノンブランドのヨーグルトは特に有名です。エビアンやボルビックといったミネラルウォーター事業も手掛けています。
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Dairy Farmers of America(デイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ)
米国の酪農組合です。牛乳の生産量では世界最大級です。2020年に経営破たんしたディーン・フーズのスポンサーとなりました。
Dean Foods(ディーン・フーズ)について
米国に本拠を置く乳業大手です。ディーン・フーズは米国大手の食品・飲料メーカーです。牛乳、アイスクリーム、発酵乳製品などの製品を「TrueMoo」、「Alta Dena」「バークレイ・ファームズ」、「ランド・オ・レイクス」といったブランドで展開しています。2020年に経営破たんし、デイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカがスポンサーとなりました。
Inner Mongolia Yili Industrial Group Co. Ltd(Yili、伊利集団)
Yili(内蒙古伊利実業集団、 伊利、Inner Mongolia Yili Industrial Group Co. Ltd)は、内蒙古(内モンゴル)に本拠をおきます。アイスクリーム、アイスキャンデー、粉ミルク、粉ミルクティー、ヨーグルト、チーズ等、乳製品を幅広く製造しています。中国内の市場シェアは各製品ともにトップクラスです。主要株主は内蒙古の公共団体である呼和浩特市ですが、CEOの潘剛氏率いる民間企業です。さらに詳しく
FrieslandCampina(フリーズランドカンピナ)
2008年にCampina(カンピナ)とFriesland Foods(フリーランズ)が統合して誕生したオランダ最大手の乳製品メーカーです。酪農協同組合系の流れを継ぎます。フリスティ、フリソ、ショコメル、ダッチレディといった有力な乳製品ブランドを擁しています。
Fonterra(フォンテラ)
ニュージーランドに本拠を置く酪農協同組合系の乳業メーカーです。生乳生産量はトップクラスです。放牧主体のニュージーランドと異なり、中国では畜舎管理が求められるため不振が続いていた中国乳業事業では、2020年に河北省と山西省の7箇所の農場の売却を発表しました。
Arla Foods(アーラフーズ)
デンマークに本拠を置く乳製品メーカーです。スウェーデンのアーラとデンマークのMDフーズが合併して誕生しました。牛乳、乳飲料、チーズ、バター、マーガリン、脱脂粉乳等の製品に強みを持ちます。
Saputo(サプート)
カナダに本拠を置く乳業大手です。「サプート」「アームストロング」「デイリーランド」等のブランドを展開しています。
Mengniu Dairy(蒙牛乳業、メンニュウ乳業)
中国の大手乳業メーカーです。牛乳に強みを持っています。同社は、牛根生氏によって設立され、メラミン事件を経て、2009年にコフコが資本参加、2012年にデンマークのアーラフーズとフランスダノンと資本提携しました。ダノンとは2022年に提携を解消しています。コフコが筆頭株主です。
COFCO Corporation(コフコ、COFCO)
コフコ(COFCO)は1949年に設立された中国政府傘下の国有の食糧・穀物商社です。各種穀物や食糧の集荷、備蓄、運搬、輸出入、加工等を手掛け、最近では、食品・飲料分野でも成長を志向しています。2009年の売上高は1782億元でしたが、中国の成長に伴い、2020年には4711億元へと急成長を遂げています。総資産は5606億元です。続きを読む
Nestlé(ネスレ)
ネスレは、1866年に薬剤師のアンリ・ネスレ氏によって設立されたスイスに本拠を置く世界最大級の総合食品・飲料メーカーです。食品ではパスタのブイトーニやコンソメのマギー等、飲料ではネスカフェやミロ、乳製品、菓子類ではKitKatやCrunch等のチョコレートのブランドにて世界展開しています。
2018年以降、アクティビストファンドであるサードポイントからの要請で、事業ポートフォリオの再構築を急いでいます。2019年には、投資ファンドのEQTパートナーズ、アブダビ投資庁およびPSPインベストメントに、同社のスキンヘルスケア事業を売却しました。スキンヘルスケア事業は、Proactive(プロアクティブ)やCetaphil(セタフィル)などのにきび防止用の洗顔料、保湿剤などのスキンケア用品などを展開しています。2021年にはKKRから栄養補助食品大手ザ・バウンティフル・カンパニーの主要ブランドであるネイチャーズバウンティ、ソルガー、オステオバイフレックスを買収しました。さらに詳しく
Agropur(アグロプール)
カナダに本拠を置く共同組合です。カナダでは最大手です。
Deutsches Milchkontor(DMK)
ドイツ最大手の酪農協系乳業メーカーです。DMKはDeutsches Milchkontorの略です。2011年に酪農協系であるノルト・ミルヒ社とフマーナ社とが合併して誕生しました。
Sodiaal(ソディアール)
米国に本拠を置く乳業メーカーです。チーズに強みを持っています。従業員持ち株会制度を導入し、株主は従業員という形態をとっています。
Schreiber Foods(シュレイバー・フーズ)
米国に本拠を置く乳業メーカーです。チーズに強みを持ちます。従業員持ち株会制度を導入し、株主は従業員という形態をとっています。
Kraft Heinz(クラフトハインツ)
Kraft Heinz(クラフトハインツ)は、旧クラフトフーズの北米事業を引き継いだ会社です。北米に特化しています。クラフトチーズ、冷凍食品や飲料等を展開しています。2015年にバフェット氏率いるパークシャー・ハサウェイや投資ファンド傘下のトマトケチャップ等で有名な食品メーカーHeinz(ハインツ)と経営統合しクラフトハインツが誕生しました。パスタソースはClassicoを軸に展開しています。事業構成としては、調味料・ソース事業、チーズ・乳製品事業、常温保存食事業、肉・魚食品、冷蔵・冷凍食品に分かれます。2021年にナッツ事業をHormel Foodsへ売却しました。さらに詳しく
その他の乳製品メーカー
その他の乳製品メーカーには、Müller(ドイツ)、優然牧業(ユーラン乳業、中国)などが挙げられます。
日本国内では明治ホールディングスや森永乳業が大手乳業メーカーとして挙げられます。
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