神戸製鋼所の市場シェア・業績推移・売上構成・株価の分析

神戸製鋼所は旧鈴木商店の流れを汲む名門鉄鋼会社です。石川島播磨の源流の1社である播磨造船所は、神戸製鋼所より分社化して誕生した経緯があります。従来より鉄鋼業界における再編からは距離をおいてきたものの、2001年に当時の新日本製鐵と包括的な提携をした経緯から、現在でも日本製鉄と親密です。鉄鋼事業以外にも、溶接事業、アルミ・銅事業、機械事業、エンジニアリング事業、電力事業、建機事業、電力事業などを多角化展開しています。

業績推移

2018年以降売上高が減少するとともに、営業利益も低迷しています。

神戸製鋼所の業績推移

神戸製鋼所の業績推移

売上構成

神戸製鋼所の売上構成(2020年度)

神戸製鋼所の売上構成(2020年度)

神戸製鋼所の事業ポートフォリオと収益率(2019年度)

神戸製鋼所のポートフォリオ

神戸製鋼所のポートフォリオ
出所:同社

鉄鉱事業

神戸製鋼所の祖業であり、自動車向けのエンジンに使われる特殊鋼である線材や高張力鋼板(ハイテン)といった、高い技術が要求される鉄鋼製品に注力しています。規模では、年間粗鋼生産量は約70万トン程度と、世界的に見れば、鉄鋼メーカーの上位50社にようやく入る程度です。売上高では約6000億円程度。利益は近時赤字が続き、祖業事業ではあるものの、収益面では全体の足を引っ張っているという状況です。
かつての欧州鉄鋼メーカーの雄であり、現在では自動車部品、エレベーター(2019年に売却をしました)、エンジニアリングの分野へ多角化に成功したティッセンクルップの粗鋼生産量は17万トン程度で、神戸製鋼所の規模より大きくなっています。鉄鋼業界の競争環境を改めてみると、規模では、新日鐵住金の2倍以上の差をつけているダントツのアルセロールミタルに、同じく規模を拡大して競争力強化を図る中国勢が、粗鋼生産量の上位をほぼ独占しつつあります。規模だけが競争優位の源泉のすべてではないと思われますが、欧州名門ティッセンクルップの規模を追わない戦略を勘案しますと、やはり一定のタイミングでの何らかの業界再編が行われる可能性は否定できないのかもしれません。また、今後需要が伸びていくと予想される電気自動車は、バッテリーが重く、軽量化へのニーズが強くなることからも、自動車部品への鉄鋼への需要が減少するものと思われれます。また、内燃車の象徴であるエンジンへの鉄鋼の需要も確実に減っていくものと考えられます。仮に、新日鐵住金が、神戸製鋼所の鉄鋼事業と経営統合を行うと、合計粗鋼生産量は約50万トン超程度、最近経営統合を行った宝武鋼鉄集団との距離を縮められ、線材分野の強化も図れます。国内2位で、世界10位前後のJFEスチールの場合、粗鋼生産量が約40万トンまで増え、増加率では新日鐵住金を上回り、上位5位を狙える位置につけることができ、さらには線材やハイテンといった分野で新日鐵住金に対して攻勢をかけることもできます。

建機事業

コベルコ建機とコベルコクレーンが経営統合して誕生。売上高は3000億円程度規模。油圧ショベル、ミニホイールローダー、クローラクレーン、ホイールクレーンなどの機種を手掛け国内では、コマツや日立建機に次ぐ3位です。
世界に目を向ければ、米国のガリバーのキャタピラー、スウェーデンのボルボ、イタリアのフィアット傘下のCNH、農機のジャイアントのディア&カンパニー、フィンランドのコネクレーンズ・テレックス連合といったスーパーメジャーがおり、国内建機最大手のコマツといえども、生き残りをかけた競争に巻き込まれている状態です。さらに、中国勢のZoomlion(中連重科)やSany(三一重工)も急速に力をつけており、今後間違いなく競争は激化するものと思われます。
神戸製鋼所の建機・クレーン事業が、今後収益性を高められるか、こうしたジャイアントや新興勢力とどのように競争していくかが、重要です。

溶接事業

事業規模は1000億円弱と小さいですが、溶接業界では、かつては、米国のリンカーン、欧州のエサブ、アジアの神戸製鋼所と称されていた時代があります。溶接システムや溶接材料も手掛けています。特に、低合金耐熱性用の溶接材料では、世界シェアトップクラスの実績を持ちます。

アルミ事業

売上高は約3000億円程度で、アルミ板・圧延大手のUACJ(旧古河スカイと旧住友軽金属)の半分程度の規模。自動車用の外板や鉄道車両用アルミ材に強みを持っています。両業界における軽量化のニーズは高く、今後も市場規模の拡大が見込まれる成長分野といえます。
とはいえ、やはりアルミの加工・圧延分野でも、世界のアルミメジャーの存在感は圧倒的で、圧延分野に限っていっても、日本の盟主のUACJですら、世界市場におけるマーケットシェアでは米アルコア(アルコニック)、インド資本参加のノベリスの後塵を拝しており、売上高の規模でも、アルミのバリューチェーンの垂直統合を志向している中国アルミ、ノルウェーのノルスク・ハイドロ、ロシアのUCルサールに引き離されています。こうした流れを受けて、神戸製鋼所もノベリスの韓国工場に出資するなどして、海外展開の橋頭堡を築いてはいます。また、真岡製造所でのライン増設に踏み切っています。そうは言っても、今後も負担としてのしかかる巨額の研究開発や設備投資の競争を考えれば、神戸製鋼所のアルミ事業も、戦略的な選択肢として、同業との経営統合による規模拡大があると思われます。

神戸製鋼所の主な戦略的意思決定

1927年 鈴木商店の経営破綻
1929年 播磨造船所(現IHI、石川島播磨重工業)の分社化
2000年 神鋼コベルコツールを三菱マテリアルに売却
2002年 新日本製鐵、住友金属工業と資本提携
2008年 アーステクニカを川崎重工に売却

神戸製鋼所の事業部門別の市場シェア

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