肥料業界の市場シェアの分析

肥料業界の世界シェア、売上高ランキング、市場規模と業界再編の情報を分析しています。ニュートリエン、ヤラ、アグリウム、モザイク、ウラルカリ、イスラエルケミカルズといった肥料メーカーの動向も掲載しています。

【市場シェア】

肥料会社各社の2021年度の売上高(⇒参照したデータの詳細情報)を分子に、後述する肥料業界の市場規模を分母にして、2021年の肥料業界の世界市場シェアを計算すると、1位はカナダのニュートリエン、2位はノルウェーのヤラ・インターナショナル、3位は米国のモザイクとなっています。

肥料会社の市場シェアと業界ランキング(2021年)

順位 会社名 市場シェア
1位 ニュートリエン 16.97%
2位 ヤラ 10.17%
3位 モザイク 7.60%
4位 ユーロケム 6.25%
5位 イスラエルケミカルズ 4.23%
6位 CFインダストリーズ 3.98%
7位 OCP 3.44%
8位 フォスアグロ 2.58%
9位 OCI 1.94%
10位 ウラルカリ 1.87%
11位 中化化肥 1.80%
12位 KプラスS 1.59%
参考 片倉コープアグリ 0.21%
肥料会社の市場シェアと業界ランキング(2021年)

肥料業界の市場シェア(2021年)
肥料業界の市場シェア(2021年)

ニュートリエンはポタシュとアグリウムが経営統合して誕生した会社で、トップ3の中でも頭一つ抜き出た存在です。4位のユーロケムはスイスに本拠を置いていますが、ロシア系の資本が大株主となっています。5位はイスラエルのイスラエルケミカルズです。死海とネゲブ砂漠で肥料原料を採取できる強みがあります。6位は米国のCFインダストリーズ、7位はモロッコ政府系のOCP、8位はロシアのフォスアグロ、10位はウクライナのウラルカリとなっています。作物価格等のマクロ経済の影響をうけるものの、農作物への需要が今後の世界人口とともに増加することが見込まれ、肥料業界は成長市場であるといえます。

業界上位3社の成長率と収益力比較

肥料業界トップ3のポジションにいるニュートリエン ヤラ・インターナショナル モザイクの3社について、売上高成長率(過去3年平均)、ROA (直前期)、ROE(直前期)について比較をしました。

売上成長率ではニュートリエンが1位ですが、収益力で見るとモザイクが1位となっています。

肥料大手3社の指標比較(2021年)
肥料大手3社の指標比較(2021年)
*各財務数値は2021年度決算数値を使用しています。
**売上高成長率は直前期を基準に過去3年間の年平均成長率(CAGR)を計算しています。
***ROEとROAは直前期の当期利益と期初と期末の総資産もしくは自己資本額の平均値から計算をしています。

【市場規模】

当サイトでは、各種公表情報を参照にして、2021年の肥料業界の世界市場規模を1632億ドルとしております。参考にした情報は以下の通りです。

調査会社アイマークによると2021年の同業界の市場規模は1632億ドルです。2027年にかけて年平均3.9%での成長を見込み、2027年には2035億ドルに拡大すると見込んでいます。
調査会社の360マーケットアップデーツによると2020年の同業界の市場規模は1805億ドルです。2026年にかけて年平均3.1%での成長を見込みます。
ワールドファーティライザーよると、2019年の同市場規模は1558億ドルで2024年までに年平均3.8%の成長を見込みます。グローバルマーケットインサイツによると、2019年の同市場は1969億ドルです。2020~2026年で3.2%の年平均成長率を見込みます。⇒参照したデータの詳細情報
日本の肥料市場の規模は経済産業省によれば概ね3、000億円から4,000億円程度で推移していますが、生産者の高齢化と作付けの減少で需要は減少しつつあります。

市場規模 成長率見込み
2021 1632億ドル 3.9%
2020 1805億ドル 3.1%
2019 1779億ドル 3.2〜3.8%
肥料業界の市場規模の推移©ディールラボ

肥料の基礎知識

肥料の3大要素は、リン酸(phosphate)、カリ(Potash、Kalium、加里)、窒素(nitrogen)です。五大要素は、リン酸、カリウム、窒素に加えカルシウム(石灰)とマグネシウム(苦土)です。

根・茎や幹の成長の要素となるカリウムはカナダとロシアが一大産地(世界生産量の7割超)となっており、カナダの肥料会社やロシアの肥料会社が強い背景にもなっています。一方で、花や実に影響があるリン酸も産地が米国、中国、モロッコ、ブラジル等に産地が限定されています。植物の葉の成長を促す窒素は、主にアンモニアから製造され、原油や天然ガスの価格の影響を受けます。

カルシウムは植物の肥料の吸収を促進し、マグネシウムは植物の新陳代謝を活性化する効果があります。

肥料は、原料となるリン酸、カリウム、窒素(アンモニア)を配合して作る(※下記化学肥料の作り方を参照)ため、加工における技術は余り必要としません。また、肥料のコストに占める原料の割合が非常に高く、リンやカリウム等の主要原料を押さえているかが競争優位の源泉となります。日本の肥料会社は、原料を輸入に頼っており、肥料原料の価格変動等の影響等を大きく受けてしまいます。

※化学肥料の作り方

化学肥料の作り方

化学肥料の作り方

化成肥料とは、数種類の肥料を化学的に配合して成形・造粒した肥料のことをいいます。
配合飼料とは、数種類の肥料を配合した肥料のことをいいます。

肥料の種類によって、単肥(リン・カリ・窒素の要素が1種類)・複合肥料(配合・化成肥料、ペーストや液状肥料)・有機質肥料(たい肥や魚かす、油かすなど)へも分類できます。


さらに理解を深めるためのお薦め書籍と関連サイト

窒素固定の科学
よくわかる 土と肥料のハンドブック
肥料になった鉱物の物語―グアノ、チリ硝石、カリ鉱石、リン鉱石の光と影
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【M&Aの動向】

業界再編を通じて、肥料大手各社は得意とする肥料要素へのフォーカスを強めています。窒素はCFインダストリーズが業界再編を通じてヤラ・インターナショナルと首位を競っています。カリウムの分野ではポタッシュがアグリウムを買収して首位固めをしています。リンの分野ではモザイクがヴァーレの肥料部門を買収し大手となっています。

2004年 ノルスクハイドロが肥料部門をヤラ・インターナショナルとして分社化
2007年 日産アグリと三井東圧肥料が合併してサンアグロが誕生
2004年 化学肥料メーカー大手のIMCとカーギルの肥料部門が経営統合してモザイクが誕生
2012年 ヤラがEthiopianpotashを買収
2013年 モザイクがCFインダストリーズからにリン酸塩事業を買収
2015年 片倉チッカリンとコープケミカルが経営統合し片倉コープケミカルが誕生
2015年 CFインダストリーズによるOCIの肥料事業の買収を発表(その後断念)
2016年 ポタシュによるアグリウム買収、ニュートリエンの誕生
2016年 モザイクがブラジルの資源大手ヴァーレから肥料事業を買収
2018年 ニュートリエンがSQM持分をティアンキリチウムへ売却
2018年 ニュートリエンがAgribleを買収
2018年 ヤラがTreckerを買収
2019年 投資ファンドのインテグラルによる日エフシーの買収
2019年 ニュートリエンがActagroを買収
2019年 ニュートリエンがRuralcoを買収
2020年 ニュートリエンがTEC AGROを買収
2020年 ニュートリエンがAgrosema Groupを買収
2021年 ヤラがEcolanを買収
2022年 ヤラがOrbiaを買収

肥料業界の買収マルチプルの推移(買収時の企業価値を売上高で割った倍率)の推移を見ますと、概ね1から2位倍程度で推移しています。ティアンキがニュートリエンからSQMの株式を買収した際の8倍が最高です。

肥料業界の買収マルチプルの推移
肥料業界の買収マルチプルの推移(丸の大きさは買収規模)
©ディールラボ

【会社の概要】

ニュートリエン(Nutrien)

ニュートリエン(Nutrien)は、カナダの本拠を置く世界最大級の大手化学肥料メーカーです。1975年にサスカチュワン州政府によって設立されたPotash(ポタッシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワン)が2018年に同業のアグリウムを買収して誕生しました。カナダを中心にカリウム、リン酸塩鉱山を運営しています。リチウム大手のSQMの大株主でしたが、2018年にティアンキリチウムに売却をしました。ポタシュとはカリ (炭酸カリウム)の略の通り、カリウムの生産能力では世界最大級です。北米、豪州、南米で農業資材の小売り(肥料・種子・農薬の販売)も手掛けています。

Agrium(アグリウム)

Agrium(アグリウム)はカナダに本拠を置く肥料メーカー大手です。カナダ・北米にて肥料や種子等の小売も手掛けていましたが、2016年ポタシュがアグリウム買収し、ニュートリエンとなりました。

Yara International (ヤラ)

Yara International (ヤラ)はノルウェーに本拠を置く世界最大級の肥料メーカーです。尿素、硝酸塩、アンモニアといった窒素肥料に強みを持ちます。オスロ証券取引所に上場しています。アルミ生産会社大手のノルスクハイドロ社より独立して誕生しました。

Mosaic(モザイク)

Mosaic(モザイク)は米国に本拠を置く大手化学肥料メーカーです。2004年に化学肥料メーカー大手のIMCグローバルとカーギルの肥料部門が合併して誕生しました。リン酸肥料やカリ(炭酸カリウム)に強みを持ちます。2016年にブラジルの資源大手ヴァーレより肥料事業を買収しました。肥料のなかでも、リン酸業界では世界シェアが最大級、炭酸カリウムではポタシュとウラルカリと並ぶ上位陣の一角となっています。

モザイクの主要な事業再編

2016年 ヴァーレの肥料部門を買収
2014年 ADMよりブラジル等の肥料部門を買収
2014年 塩事業をカーギルに売却
2013年 リン酸事業をCFインダストリーより買収

OCP

OCPはモロッコに本拠を置く肥料メーカーです。リン酸に強みを持ちます。モロッコ政府100%子会社です。

CF Industries(CFインダストリーズ)

CF Industries(CFインダストリーズ)は、1946年に設立された北米に本拠を置く肥料大手です。2015年にリン大手のOCIの肥料事業の一部の買収を発表するも買収を断念しました。アンモニア、尿素、硝酸アンモニウムといった窒素肥料に強みをもちます。

Uralkali(ウラルカリー)

Uralkali(ウラルカリー)はロシアを代表するカリウム生産大手です。ロシアの証券取引所に上場しています。

Belaruskali(ベラルーシカリー)

Belaruskali(ベラルーシカリー)はベラルーシに本拠を置く国営のカリウム生産大手です。

Israel Chemicals(イスラエルケミカルズ、ICL)

Israel Chemicals(イスラエルケミカルズ、ICL)はイスラエルに本拠を置く肥料大手です。カリやリン酸の生産に強みを持ちます。子会社のDead Sea Magnesium(死海マグネシウム)でマグネシウムの採掘生産を行っています。

K+S

ドイツに本拠を置く肥料・食塩メーカーです。塩事業では、2000年にベルギーのソルベーから塩事業を買収したのに続き、2009年には米国の塩大手モートン・ソルト(Morton Salt)を買収し、塩生産量の拡大を図ってきました。2020年に負債削減のため米国の塩事業をStone Canyon Industries Holdings(ストーンキャニオンインダストリーズホールディングス)に売却しました。肥料部門はカリウム肥料に強く、BASFの肥料部門と経営統合し事業を拡大しています。

EUROCHEM(ユーロケム)

EUROCHEM(ユーロケム)はスイスに本拠を置く肥料メーカーです。窒素とリン酸の生産に強みを持ちます。ロシアの富豪のAndrey Melnichenko(アンドレイ・メルニチェンコ)氏が大株主となっています。

PhosAgro(フォスアグロ)

PhosAgro(フォスアグロ)はロシアに本拠をおく肥料会社です。リン酸塩ベースの肥料に強みを有しています。

OCI

OCIはオランダに本拠をおく肥料メーカーです。肥料以外にもメタノールとバイオメタノールの製造を行っています。

中化化肥(シノフェルト、Sinofert Holdings)

中国に本拠を置く肥料メーカーです。中国の大手化学メーカーである中国中化(ケムチャイナ)の傘下企業です。ニュートリエンも大株主です。

ケムチャイナについて

中国化工集団(ケムチャイナ、ChemChina、China National Chemical Corporation )はRen Jianxin(任建新)氏によって設立されたChina National Blue Star Corp(藍星) と China Haohua Chemical Industrial Corp(昊華)が2004年に経営統合して誕生した中国政府系の化学メーカーです。中国政府が100%株式を保有しています。農薬、ゴム、シリコーンや機能性化学等の分野で事業展開しています。2016年から寧高寧氏がシノケムとケムチャイナのCEOとなり、2021年に国営化学会社のシノケムと経営統合、中国中化(シノケム)ホールディングス傘下になりました。続きを読む

日本の肥料メーカー

日本国内では、丸紅・三菱商事・JA系の片倉コープアグリが国内肥料市場シェア約10%超で業界最大手となっていますが、2021年の売上高は約390億円であり、世界的にみても規模は小さいです。その他は、投資ファンドのインテグラル傘下の日東エフシー、三菱商事系の多木化学、日産化学・三井化学系のサンアグロ、住商アグリビジネスが肥料業界大手です。

片倉コープアグリ

片倉コープアグリは、2015年に片倉チッカリンとコープケミカルが経営統合をして誕生しました。源流は1920年に設立された片倉工業系の肥料企業です。JA全農や丸紅が大株主となっています。化成肥料・配合肥料・液体・有機質肥料や培土に強みを持ちます。さらに詳しく

参照したデータの詳細情報について


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