医薬品製造受託業界の世界市場シェアの分析

医薬品製造受託業界の市場シェア、規模や再編について分析をしております。製薬会社からの製剤にかかるアウトソースの流れを受け、業界は拡大しております。サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックによるパセオン買収のように業界大手が買収される動きが続いています。

【医薬品製造受託企業(CMO、CDMO、CROの違い)とは】

製薬会社から、医薬品や原薬(医薬中間体)等の製造、製剤のアウトソースを受ける企業をさします。Contract Manufacturing Organizationの頭文字をとってCMOとも言われています。またCMOに医薬品のDevelopment(開発)のDを加えて、製剤設計の研究開発を行う機能として、CDMOと略される場合もあります。一方で、Contract Research Organization(CRO)は、創薬(動物を使った実験や臨床試験)を専門に取り扱う分野で、新薬を開発する際に製薬会社が外部に研究と開発を委託することです。

日本CMO協会によれば、新薬先発メーカーは、抗がん剤・バイオ抗体医薬を中心とする新薬研究開発、医薬情報提供・マーケティングに特化し、固定費の大きい自社工場は縮小・集約されていきます。ジェネリックメーカーは、薬価改定、開発費増から自社工場への設備投資に慎重となります。製造販売メーカー全体が生産分業化される方向にあります。

薬ができるまでのアウトソース先(製薬会社が全行程を担う場合もある)

  • 創薬

    製薬会社
    薬効がありそうな新しい物質の発見、特許申請
  • 非臨床実験

    CRO
    動物実験、毒物試験、治験モニタリング、生物化学分析など
  • 治験薬製造

    CDMO
    臨床試験向けの治験薬の製造
  • 臨床試験

    CRO、SMO
    臨床試験(治験対象とする被験者数によってフェーズI~IIIもしくはIV)
  • 製剤

    CDMO
    医薬品の製造
  • 販売

    CSO
    Contract Sales Organization、CSOは主に新薬の販売支援を行う

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【医薬品製造受託業界の世界市場シェア+ランキング】

医薬品製造受託会社の2022年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、後述する市場規模を分母にして、2022年の医薬品製造業界の世界市場シェアを簡易に算出すると、1位はサーモ・フィッシャー・サイエンティフィック、2位はラボコープ、3位はキャタレントとなります。

医薬品製造受託業界の世界市場シェア(2022年)

順位 会社名 市場シェア
1位 Thermo Fisher Scientific (サーモフィッシャーサイエンティフィック) 6.1%
2位 LABORATORY CORPORATION OF AMERICA HOLDINGS(ラボコープ) 2.6%
3位 Catalent, Inc. (キャタレント) 2.2%
4位 Lonza(ロンザ) 1.9%
5位 Fareva(ファレバ) 1.0%
6位 FUJIFILM Holdings Corporation(富士フイルムホールディングス株式会社) 0.7%
7位 Siegfried Holding AG(ジークフリード・ホールディング) 0.6%
8位 Recipharm(レシファーム) 0.6%
9位 AGC Inc.(AGC株式会社) 0.5%
10位 Boehringer Ingelheim GmbH(ベーリンガーインゲルハイム) 0.5%
11位 Almac Group (アルマック・グループ) 0.5%
12位 Vetter Pharma International (ベッター・ファーマ・インターナショナル) 0.4%
13位 Baxter International Inc.(バクスター) 0.3%
14位 NIPRO(ニプロ株式会社) 0.2%
15位 Ajinomoto Co., Inc. (味の素株式会社) 0.2%
16位 Syngene International Limited (シンジェン・インターナショナル) 0.1%
17位 Jubilant Pharmova Ltd (ジュビラント・ファーマバ) 0.1%
18位 Famar(ファーマー) 0.1%
19位 CMIC HOLDINGS Co., Ltd.(シミックホールディングス株式会社) 0.1%
医薬品製造受託業界の世界シェアと業界ランキング(2022年) ©2024 Deallab

医薬品製造受託業界(CDMO)の世界市場シェア(2022年)©2024 Deallab

【医薬品製造受託業界の世界市場規模】

当サイトでは、各調査会社等の公表データを参考にし、医薬品製造受託業界の2022年の世界市場規模を2234.1億ドルとして市場シェアを計算しております。参照にしたデータは以下の通りです。

調査会社のモルドールインテリジェンスによると、2023年の同業界の市場規模は2,234.1億ドルに達すると予想しています。2028年に向けて年平均6.74%の成長し、同年には3,095億ドルへと拡大する見込みです。

市場規模 成長見込み
2023 2234.1億ドル
2028 3095億ドル 6.74%
医薬品製造受託業界の市場規模の成長率見込み(2022年)©2024 Deallab

医薬品製造受託業界の世界市場規模の予想成長推移(2022年)©2024 Deallab

【M&Aの動向】

ロンザ、サーモ・フィッシャー、AGCなどが積極的に買収を行っています。2021年には業界大手であったRecipharmをEQTが買収しました。売上高倍率は3~5倍程度と今後の成長を見込んだ高いバリュエーションが続いています。

2013年 味の素はアメリカのバイオ医薬品の開発・製造受託会社であるアルテア・テクノロジー社を買収
2014年 LabCorp社がCovance社を買収
2016年 AGCはCDMOであるCMC Biologics社を買収
2016年 味の素は日本で有数の核酸医薬品の開発・製造受託会社であるジーンデザイン社を買収
2017年  アルマックグループはアイルランドのバイオクリン・ラボラトリーズの買収
2018年 サーモフィッシャーサイエンティフィックはBDからアドバンスト・バイオプロセシング事業の買収を完了
2018年  味の素はコージンバイオと合弁し、再生医療における臨床用培地の受託製造会社の味の素コージンバイオを設立
2019年  サーモフィッシャーサイエンティフィックはグラクソ・スミスクライン社からアイルランドのコークにある原薬製造施設を買収決定
2019年  サーモフィッシャーサイエンティフィックは遺伝子・細胞治療用ウイルスベクター製造のリーダーであるブラマー・バイオ社を買収
2019年  ロンザはノバルティスから無菌充填・仕上げ設備を買収
2019年  富士フイルムは米バイオジェン子会社買収完了
2019年  デルファーマがファーマーの製造拠点5カ所の買収を発表
2020年  ファレバは、ピエール・ファーブル・グループから2つの無菌製剤製造施設の買収
2020年  ベーリンガーインゲルハイムがNBEセラピューティクスを買収
2020年  AGCはAstraZeneca社がバイオ医薬品原薬製造工場を買収
2021年  サーモフィッシャーサイエンティフィックはバイオ医薬品・バイオテクノロジー業界に臨床研究サービスを提供するPPD社を買収
2021年 サーモフィッシャーサイエンティフィックはPOC分子診断薬のメサ・バイオテック社の買収
2021年 AGCはNovartis Gene Therapies Inc.の遺伝子治療薬工場の買収契約締結
2021年  バクスターはヒルロム社の買収を完了
2022年  キャタレント社はメトリックコントラクトサービスを買収
2022年  キャタレント社は細胞療法開発製造施設をErytech社から買収
2022年  キャタレントがオックスフォードシャーの施設を買収
2022年  富士フイルムは米国バイオベンチャーAtara Biotherapeutics Incを買収
2022年  レシファームは先端治療CDMOであるアランタ・バイオ社とウイルス治療CDMOであるバイバロジックス社の買収完了
2023年 サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックがバインディング・サイト・グループを買収
2023年  ロンザがシナフィックスを買収
2023年  シミックHD傘下の薬製造受託を大日本印刷が買収
2023年  ジークフリートがDiNAMIQS社の株式の過半数を取得
2023年  シンジーン社はステリス・バイオファーマ社の施設を70.2億インドルピーで取得

医薬品製造受託会社の買収マルチプル(売上高倍率)分析
医薬品製造受託会社の買収マルチプル(売上高倍率)分析 ©2024 Deallab

今後M&Aの対象となる可能性のある会社は「製造受託セクターでM&Aや再編対象となる会社の分析」をご参照下さい。

【会社の概要】

Thermo Fisher Scientific(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)

試薬・検査大手です。1974年にカナダで創業されたCMO会社であるパセオン(Patheon)を2017年に買収しました。パセオンは2009年に投資ファンドのJLLパートナーズが買収し、オランダの食品成分メーカーであるロイヤルDSMの医薬品製造受託事業と統合して誕生した会社です。

LABORATORY CORPORATION OF AMERICA HOLDINGS(ラボコープ)

ノースカロライナ州バーリントンに本社を置く医薬品開発業務受託機関(CRO)で、製薬およびバイオテクノロジー業界に非臨床、前臨床、臨床、商業化サービスを提供している会社です。旧社名はCovanceです。

Catalent, Inc. (キャタレント株式会社)

米国の薬局チェーンや手術着、診察用手袋等の医療用器具製造大手の カーディナルヘルスから2007年に分社化して独立した会社です。経口剤、注射剤、吸引剤の受託製造を行っています。

Lonza(ロンザ)

スイスに本拠をおく医薬中間体の製造受託会社です。バイオ医薬品、低分子化合物、バイオコンジュゲート、細胞治療および遺伝子治療等の有効成分の調査・開発・臨床をカバーし、原薬と製剤を行います。

Fareva(ファレバ)

フランスに本拠を置くBernard Fraisse(バーナード・フラッセ)氏率いる製造受託会社です。製薬以外にも、化粧品等の製造受託も行っています。医薬品製造の分野ではフランス最大手と言われています。

FUJIFILM Holdings Corporation (富士フィルム株式会社)

富士フイルムは、1934年に大日本セルロイドの写真フイルム事業がスピンオフして誕生した会社です。写真フイルムでは長らく世界最大級の会社でしたが、カメラのデジタル化やスマホ化が加速度的に進展した結果、フイルム技術を転用することが可能な医薬品・医療機器・ドキュメンテーションといった分野へ事業転換を進めています。デジタルカメラはコンパクトカメラやインスタントカメラに注力しています。
かつての世界を席巻した写真フイルムという成功の罠にはまらず、事業構造の転換を果たしつつあることは、大企業の成長戦略の成功事例として数多くケーススタディ化されています。さらに詳しく

Siegfried Holding AG (ジークフリード・ホールディング)

スイスに本拠を置くライフサイエンス会社であり、原薬と医薬品を製造しています。スイス、ドイツ、フランス、マルタ、米国及び中国で生産設備を運営しています。

NIPRO (ニプロ株式会社)

ディスポザール医療機器の製造販売の運営を行っています。人工透析にも強みを持ちます。子会社のニプロファーマと全星薬品工業を通じて受託事業を展開し、開発、製剤製造、検査包装、物流までを一貫して製薬メーカーに提供しています。日本国内では、武州製薬、帝國製薬、製薬受託専業であるシミックHDと競っています。

Famar(ファーマー)

1949年にギリシャで設立されたCMO会社です。欧州を中心に受託工場を展開しています。

AGC Inc.(AGC株式会社、旧旭硝子株式会社)

1907年に創業をした日本を代表するガラス・素材メーカーです。ガラス以外にも電子・化学品・セラミックスの分野で事業を展開しています。ガラス分野では仏サンゴバンと首位を競っています。液晶用ガラスにも強みを持ちます。ディスプレイ用特殊ガラス(Dragontrail®)が有名です。近年ライフサイエンス分野(バイオ医薬品原薬の製造開発受託等)への多角化を推進しています。さらに詳しく

Recipharm(レシファーム)

1995年に事業を開始したスウェーデンに本拠を置く医薬品開発・製造受託会社です。無菌製品、錠剤、カプセル、半固形物、液体、粉末といった非無菌製品、吸入用製品の開発・製造も行っています。EQTが2021年に買収しました。

Boehringer Ingelheim GmbH(ベーリンガーインゲルハイム)

ドイツに本拠を置く株式を公開しない独立した企業形態を維持するグローバル製薬企業です。約53,000人の社員が、医療用医薬品、アニマルヘルスおよびバイオ医薬品の受託製造の3つの事業分野において、革新的な製品開発を通した価値の創出に日々取り組んでいます。

Almac Group(アルマック・グループ)

英国北アイルランドのクレイガヴォンに本社を構え、製薬企業とバイオテック企業に包括的なサービスを提供する世界的な医薬品受託製造企業です。

Vetter Pharma International(ベッター・ファーマ・インターナショナル)

医薬品の受託製造開発(CDMO)を行うドイツ企業です。注射製剤のバイアル・シリンジ・カートリッジへの無菌充填や2次パッケージングを専門としています。

Baxter International Inc.(バクスター)

米国イリノイ州シカゴ郊外ディアフィールドに本社を置く、医薬品、医療機器関連の世界的企業です。 ニューヨーク証券取引所 に上場しています。1931年に輸液メーカーとして創業しました。腎不全、輸液、麻酔、疼痛管理の領域に特化したヘルスケアカンパニーです。

Ajinomoto Co., Inc. (味の素株式会社)

「Eat Well, Live Well.」でお馴染みの味の素です。食品を主な事業としている企業ですが、食品、発酵・バイオ、生物、化学、工学など様々な分野における高い専門性を持った会社です。バイオファーマサービス事業は1980年代にアミノ酸誘導体の受託ビジネスを展開し、事業がスタートしました。80年代に医薬品カスタム製造サービスの会社であるベルギーのオムニケム社を買収し、欧米の顧客を中心に、医薬中間体、原薬および高活性原薬の製造サービスを実施してきました。

Syngene International Limited(シンジェン・インターナショナル)

インドにおけるアジア屈指のCROの1つです。1993年に創立されました。

Jubilant Pharmova Ltd(ジュビラント・ファーマバ)

社名の「Pharmova」は「Pharma(製薬)」と「Nova(新しい)」を組み合わせて生まれました。インドに本拠を置く、医薬品事業、研究開発受託事業、新薬事業の3つの事業セグメントを持つ総合グローバル製薬企業です。

CMIC HOLDINGS Co., Ltd. (シミック ホールディングス株式会社)

シミックは、1985年に設立された新薬開発の治験サービス提供会社です。医薬品受託製造にも強みを持ちます。

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