北米における空調機やエアコン業界の市場シェア・市場規模・M&A(合併買収)について分析しています。北米では気候変動や持続的な都市化に伴う需要増加により、市場全体でも堅調な成長を続けています。
こちらの記事では、北米の主要プレイヤーであるトレイン・テクノロジーズ、ダイキン、キャリア、ジョンソン・コントロールズ並びにレノックスの概要や各種経営指標も掲載しています。
【北米における空調業界の市場シェア】
空調機・エアコンメーカー各社の2023年のHVAC事業の北米地域における売上高を分子に、後述する市場規模を分母にして、2023年の空調機・エアコン業界の市場シェア(北米)を簡易に算出すると、1位はトレイン・テクノロジーズ、2位はダイキン、3位はキャリアとなります。
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | Trane Technologies plc(トレイン・テクノロジーズ) | 21.1% |
2位 | DAIKIN INDUSTRIES, LTD.(ダイキン工業株式会社) | 19.0% |
3位 | Carrier Global Corporation(キヤリア・グローバル・コーポレーション、キヤリア) | 16.7% |
4位 | Johnson Controls, Inc.(ジョンソン・コントロールズ) | 15.1% |
5位 | Lennox International Inc.(レノックスインターナショナル株式会社、レノックス) | 7.8% |
出所:各社アニュアルレポート等から2023年1月~12月の北米空調事業の売上高をディールラボが推計し作成
(ご参考)2021年の北米HVAC市場シェア
2022年、2023年の上位5社で市場シェアの伸び率を比較すると、トレイン・テクノロジーズ、ダイキン、キャリア、ジョンソン・コントロールズはシェアを伸ばしており、5位のレノックスは、シェアが減少しました。
北米の空調市場全体においては、インフレによる価格転嫁や商業用市場の需要増などがあった一方で、住宅用市場については、住宅ローン金利の高止まりなどによる需要の停滞がありました。米商務省の統計によると、新規住宅着工件数は2022年と比較して、12.7%減少しており、北米空調業界全体に影響を及ぼしています。
首位は、昨年に引き続きトレイン・テクノロジーズです。前述の通り住宅用機器においては新築住宅市場、輸送市場の停滞によって収益が軟調傾向にあったものの、インフレに基づく価格上昇の実現と商業用市場の強い需要により収益増となりました。また、2023年5月に買収したMTA社などの収益が含まれ、首位の維持、シェア拡大につながっています。
2位のダイキンは、2022年の17.5%から19.0%までシェアを拡大し、昨年に引き続き北米市場において他社を圧倒するスピードで成長しております。その要因として、市場が堅調に推移する製造業、需要が好調なデータセンター向けに販売を拡大していくなどの選択と集中を行うことと併せて、積極的に取組んでいるM&Aによる供給力強化、販売力強化の戦略が好走しており、市場環境が厳しい状況においてもアクティブな対応が可能な基盤が強化された結果と考えられます。
当データベースでは、2022年の北米における空調業界の市場規模を496億ドル、2023年は527億ドルとしています。市場が約6.3%成長しているなか、毎年売上高を大きく伸ばしているダイキンが首位のトレイン・テクノロジーズとの差を縮めています。
北米市場は、ダクト式の空調が主流で、ダクトレス式の空調を得意とする日系メーカーの参入障壁と言われておりました。ダイキンは、2008年に大型空調機に強いマッケイ(OYLインダストリーズ)、2012年に住宅向け空調機器に強いグッドマンを買収し、現地に適した機器を拡充しています。
それに加えて同社が得意とする省エネやインバータ技術、冷媒技術と、北米で主流であるダクト式空調を組み合わせた製品の導入を推進していることが、順調にシェアを拡大している背景と考えられます。
また、ダイキンは2020年以降、アブコ、サーマルサプライ、エアレップ、ウィリアムズディストリビューティング、アライアンスエアープロダクツ、CM3ビルディングソリューションなどを買収しており、供給力の強化や販路の拡充、保守メンテナンス領域の拡大にも力を入れています。
業界需要が不安定である中でも、M&A戦略の推進により、現地生産を行い、製品開発、供給力、販売網を強化することで盤石な地盤を築いていることが、シェアの推移から読み取れます。
ダイキンのM&Aと時価総額の向上
下記、米国事業の拡大とともに、ダイキンの時価総額も日経平均をアウトパフォーマンスしています。
北米空調大手3社の指標比較
北米空調大手のトレイン・テクノロジーズ、ダイキン、キャリアの配当性向、ROE、売上高成長率(過去3年)を比較すると下表の通りとなります。配当性向ではキャリアが、ROEではトレインが、売上高成長率ではダイキンが他社を上回っています。
売上構成の比較
地域別売上高を見てみると、最大手トレイン・テクノロジーズは北米・中南米事業の比率が高い一方で、ダイキンは、中国、日本、欧州とグローバルで事業を展開していることが特徴的です。
トレイン・テクノロジーズの売上構成が物語っている通り、消費者の嗜好やダクト&ダクトレスといった技術様式が地域ごとで異なるHVAC領域で、グローバル展開は、従来非常に難しいと考えられていました。そうした通説を覆すべく、HVAC系のプレイヤーとしては、他社に先駆けてダイキンがグローバル展開を成功させています。
ダイキンも約30年前の海外売上高比率は15%前後と、2023年時点での比率とは大きく異なりました。近年の動きでも、東南アジア・中東・アフリカ・インドなどで生産拠点の拡充や販売拠点の強化を行っています。
- 2022年 インドネシアに空調機の生産工場を設立
- 2022年 サウジアラビアで中東2ヵ国目の組み立て工場を設立
- 2023年 アフリカでエアコンのサブスクリプションを開始
- 2023年 カンボジアに空調の販売会社を設立
- 2023年 インドで空調機の生産拠点を新設
北米市場における他主要企業でもグローバル展開の流れは強く、2022年10月にはトレイン・テクノロジーズがドイツ大手空調メーカーのAL-KOエアテクノロジーの買収を発表、2023年5月にはイタリアのMTAを買収しています。
また、北米3位のキャリアも、2023年4月にドイツ大手空調メーカーのビスマン・クライメイト・ソリューションズの買収を発表しており、今後も世界的に大きく再編が進んで行くことが予想されます。
【北米における空調業界の世界市場規模】
当データベースでは、北米HVAC業界(空調及びエアコン)の2023年の市場規模を527億ドルとしております。参照した統計や調査情報は以下の通りです。
年 | 市場規模 | 成長率* |
---|---|---|
2023年 | 527億ドル | 6.25% |
2032年 | 699億ドル | 3.19% |
*2032年は2023年~2032年までの年平均成長率(CAGR)見込み
*2022年から2023年の成長率は、当データベース2022年の実績から算定
調査会社フォーチューンビジネスインサイツによると、2023年の北米HVAC市場の規模は467.4億ドルと見込まれています。調査会社ネクストMSCによると、2023年の同市場の規模は657.6億ドルです。
調査会社マーケットリサーチフューチャーによると、2023年および2032年の市場規模は456億ドル、699億ドルへ拡大すると見込まれています。
今後の北米HVAC市場が拡大する要因として、技術革新が進み、環境負荷のすくないシステムへの需要が高まることが考えられます。具体的には、北米でのハイドロフルオロカーボン(HFC)などの地球温暖化係数が高い冷媒の使用を段階的に廃止する規制や米国でのエネルギー効率基準策定によるHVACシステムのエネルギー消費削減などへの対応も今後の市場の成長への要因と推察します。
さらに、地球環境の要因として、北米では夏季の高温化が進行しているなど、極端な気象現象が増加しており、冷房需要が増加しています。米国環境保護庁(EPA)の報告によると、過去数十年で平均気温が上昇しており、今後の市場拡大につながると考えられます。
世界から見た北米市場
グランドビューリサーチによると、HVAC業界(空調及びエアコン)の2023年の世界の市場規模は2335億ドルです。調査会社のレポートを基にディールラボが推計した北米市場規模は、世界市場規模の約20~30%を占めており、巨大な市場だということがわかります。また、北米は日本の約7倍程度の規模と推計されます。
【北米における空調業界の世界市場の分類】
HVAC市場は、暖房、換気、冷房といったHVAC機器の製造販売を行う機器事業と、ソリューション事業に分類されます。近年は、機器の販売だけでなく、施設全体のエネルギーマネジメントや効率的な保守運営の観点からHVACシステムを組み合わせるソリューション事業の比重も大きくなっています。
暖房、換気、冷房の機器は、ヒートポンプ、ボイラー、清浄機、換気扇、除湿器・加湿器、ユニットエアコン、VRFシステム、チラー、ポータブルエアコンなどへとさらに細分化されます。
【北米における主要なM&Aの動向】
1979年 ユナイテッド・テクノロジーズ社によるキャリア買収
2006年 ダイキンによるマレーシア空調メーカーOYLの買収
2008年 Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)によるTrane(トレイン)の買収
2011年 美的集団によるCarrierの南米事業の買収
2012年 ダイキンによるグッドマングローバル買収
2014年 ジョンソンコントロールズによる米Air Distribution Technologiesの買収
2016年 ジョンソンコントロールズとタイコの経営統合
2016年 ダイキンによる米Flanders(フランダース)の買収
2018年 ジョンソンコントロールズによる空気流ソリューション製造のTriatekの買収
2018年 三菱電機とインガソール・ランドによるダクトレス空調機販売の合弁会社設立
2020年 インガソール・ランドによるトレインテクノロジーズの分社化
2020年 ダイキンによる空調販売店のアブコ、ロビンソン、スティーブンスの買収
2020年 ユナイテッド・テクノロジーズによるキャリアの分社化
2021年 キャリアによる米空調販売大手のワッコと共に空調販売大手のテンプラチャーエクイップメント(TEC)の買収
2021年 ジョンソンコントロールズによる英国のHVAC販売・設置のFisher Groupの買収
2021年 ダイキンによる空調卸のサーマルサプライや業務用空調販売のエアレップスの買収
2022年 キャリアが東芝キヤリアを子会社化(キャリアの子会社Global Comfort Solutions LLCが東芝キヤリアを買収)
2022年 ジョンソンコントロールズによるAIソフトウェアFogHornの買収
2022年 ダイキンによる米通信機器大手ベンスターの買収
2022年 トレインテクノロジーズによるドイツ空調大手AL-KOの買収
2023年 キャリアによるドイツViessmann Climate Solutionsの買収
2023年 トレインテクノロジーズによるイタリアMTAの買収
2023年 ダイキンによる米アライアンスエアープロダクツとCM3ビルディングソリューションの買収
2023年 レノックスによる米商業HVACサービスAESの買収
2023年 トレインテクノロジーズによる米施設管理ソリューションNuvoloの買収
2023年 キャリアが商業用冷蔵部門を合弁パートナーでもある中国ハイアールに売却
近年の各社のM&A動向においては、空調機器における直接的な買収だけではなく、販路拡大や従来の空調機能への付加価値を見込むディールも増加傾向です。
2022年ダイキンのベンスター買収では、同社の空調機器遠隔サービスを提供できるようになりました。また、2023年トレイン・テクノロジーズによるNuvoloの買収も建物や施設の運用管理ソリューションを提供しており、新たな販路開拓やエネルギー効率の改善にも寄与することが考えられます。
さらに、空調業界再編は、空調業界のみではなく、新たなプレイヤーの参画可能性があります。一つ可能性として、米テスラがあります。電気自動車やハイブリッド車に利用される空調では、エネルギー効率を高めるため、ヒートポンプ式が採用されることが増えてきています。テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は、投資家向けの講演会で家庭用空調業界への参入について触れており、今後他業種を巻き込んだ再編が進む可能性もあります。
【北米における空調業界の会社の概要】
DAIKIN INDUSTRIES, LTD.(ダイキン工業株式会社)
ダイキンは、1924年に設立された日本を代表する空調機メーカーです。産業用の冷暖房空調機では世界トップ級です。ダクト方式に強い米グッドマンやマレーシアのエアコン大手OYL社を買収する等して世界的に事業を展開しています。国内ではパナソニックと家庭用エアコンの分野で競っております。フッ素化合物などの化学品事業も行っています。さらに詳しく
Carrier Global Corporation(キヤリア・グローバル・コーポレーション、キヤリア)
キャリアグローバルは、米国に本拠を置く冷暖房空調機の大手メーカーです。元々は航空機エンジン、エレベーター等の大手であるUnited Technologies(ユナイテッド・テクノロジーズ)の子会社でした。2020年にユナイテッド・テクノロジーズは、空調機事業(キャリアグローバル)、エレベーター事業(Otis)と航空機部品事業へと分社化しました。冷暖房空調に加え、輸送用冷蔵機器や火災報知器にも強みを持ちます。さらに詳しく
York International Corporation(ヨーク・インターナショナル・コーポレーション)
米国に本拠を置く産業用冷暖房空調機メーカーです。建物用自動空調制御装置や自動車用バッテリー等の製造を行うJohnson Controls(ジョンソンコントロールズ)の子会社です。2015年に日立アプライアンスと空調機分野で合弁会社を設立しました。Johnson Controlsは米タイコ・インターナショナルと2016年に経営統合し、その後自動車部品事業などを分社化しています。
Johnson Controls(ジョンソンコントロールズ)について
Johnson Controls(ジョンソンコントロールズ)は、1885年に設立された米国に本社を置く業務用空調制御システム、セキュリティシステム、火災検知システム、ビル管理サービスを提供する会社です。電気式サーモスタットを発明した歴史を持ちます。2016年に火災警報分野に強いTyco(タイコ・インターナショナル)と経営統合しました。世界150ヵ国で展開し、エネルギー効率ソリューションや各種オートメーション事業を展開しています。自動車用のバッテリー等の分野に強みがありましたが2018年に売却しました。さらに詳しく
Trane Technologies plc(トレイン・テクノロジーズ)
トレイン・テクノロジーズは、米国に本拠を置く産業用冷暖房空調機メーカーです。輸送温度コントロール設備、ゴルフカート、エアコンプレッサー等を手掛ける米Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)の子会社でしたが、2020年トレイン・テクノロジーズとして分社化独立を果たしています。インガソールランド以前は、衛生陶器等も手掛けたAmerican Standard(アメリカンスタンダード)社のグループ会社であったこともあります。さらに詳しく
Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)について
Ingersoll-Rand(インガソール・ランド)は、1871年に創業された米国に本拠を置く産業機器メーカーです。2020年に真空ポンプ、コンプレッサー等の産業機械メーカーであるGardner Denver(ガードナーデンバー)と経営統合を行いました。統合に先立ち、空調事業はトレイン・テクノロジーズとして分社化しています。インガソール・ランドからは、過去、鍵のアレジオン、冷凍ショーケースのハスマン(2015年にパナソニックへ売却)等、各分野でトップクラスの企業が巣立っております。コンプレッサー・エアツールや輸送用冷凍装置の分野でも強いです。ゴルフカートでは「クラブカー」ブランドを展開し、世界最大級の規模ですが、2021年にプラチナムエクイティへ売却しました。さらに詳しく
Lennox International Inc.(レノックスインターナショナル株式会社)
1895年に設立された米国に本拠を置く冷暖房空調機メーカーです。住宅及び産業向けの空調事業と商業用冷蔵庫事業に強みを持ちます。冷蔵庫事業では、生鮮品を保存するためのユニットクーラー、流体冷却器、空冷式コンデンサー、エアハンドラー、冷蔵ラックシステムといった製品をスーパーマーケット、コンビニエンスストア、レストラン、倉庫、配送センターに納入しています。
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