石炭(一般炭と原料炭)業界の世界シェアと市場規模ついて分析をしています。神華集団、コールインディア、ピーボディ、BHPグループ、アングロアメリカン等の世界大手石炭会社の動向も掲載しています。
【石炭業界とは】
石炭業界とは、その名の通り炭鉱の獲得や採掘に関わる業界です。石炭は地球上の化石燃料の4分の3を占め、今もなお生活を支える重要なエネルギー源として利用されています。
石炭は用途によって一般炭と原料炭に分類されます。一般炭は発電に用いられ、日本では現在も火力発電所にて25%程度利用されています。原料炭は製鉄用の原料に用いられ、製鉄メーカーなどに一定の需要があります。
また、用途による分類以外に炭素の濃縮の程度によって、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭、泥炭へと分類されます。瀝青炭は粘結性の高さによって、製鉄に使用されるコークス原料となる原料炭と発電用の燃料となる一般炭に分かれます。
また、石炭の採炭法には、露天式、長壁式、柱房式といった方式があります。
【市場シェア】
石炭会社の2022年度の生産量⇒参照したデータの詳細情報を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして2022年の石炭業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位は神華能源、2位は山東能源、3位はピーボディ・エナジーとなります。
石炭開発生産会社の市場シェアと業界ランキング(2022年)
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | 神華能源 | 3.72% |
2位 | 山東能源 | 3.33% |
3位 | ピーボディ・エナジー | 1.46% |
4位 | 中煤能源 | 1.42% |
5位 | グレンコア | 1.31% |
6位 | アーチ・コール | 0.98% |
7位 | コールインディア | 0.90% |
8位 | BHPグループ | 0.51% |
9位 | アングロアメリカン | 0.18% |
上位4社のうち3社が中国企業を占めています。後述する石炭生産量の国別シェアからも分かるように、中国の生産量が全生産量の半分を占めるため、中国企業がシェア上位となっています。また、インドの国有石炭開発・生産会社であるコールインディアもランクインしており、中国やインドなどアジア地域では引き続き石炭への需要が高いと考えられます。
一方、米国や欧州の企業は、CO2削減の流れが急速に高まっていることから生産量を減らしています。2021年には三井物産と協業して石炭事業を行っていたブラジル資源大手ヴァーレが石炭事業から撤退しました。BHPグループやアングロアメリカンも炭鉱の売却などから生産量を減らしています。石炭、特に一般炭への逆風が吹いており、資源メジャーによる石炭開発からの撤退は今後も続いていくと見られます。
【石炭生産量国別シェア】
国別の石炭生産量を分析すると、2022年の1位は中国、2位はインド、3位はインドネシアとなります。
順位 | 国名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | 中国 | 51.01% |
2位 | インド | 10.79% |
3位 | インドネシア | 7.94% |
4位 | 米国 | 6.22% |
5位 | オーストラリア | 5.28% |
6位 | ロシア | 5.07% |
7位 | 南アフリカ | 2.59% |
国別の石炭生産量を分析すると、2022年の1位は中国、2位はインド、3位はインドネシアとなります。
中国・インド・東南アジアの国々の石炭消費量は、世界の消費量の4分の3を占めています。石炭は安価で手に入ることから、人口が増加し経済成長を続けている上記の国々では主要なエネルギー源として使用されています。
一方、欧米では二酸化炭素の排出量などの問題から、石炭をエネルギー源として利用することに消極的です。2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧州各国がロシア産の天然ガスの輸入を停止したため、この年の石炭の消費量は増えました。しかし、クリーンエネルギーへの関心は今後より一層高まっていくため、欧米各国での消費量は年々減っていくことが予想されます。
【市場規模】
当データベースでは、石炭業界の2022年の生産量を84.2億トンとしております。参照した各種調査データは以下の通りです。
調査会社のInternational Energy Agencyによると、2022年の石炭生産量は84.2億トンです。2023年にかけて年平均1.4%で成長し、同年には85.4億トンに達すると予想しています。
年 | 市場規模 | 成長率見込み |
---|---|---|
2022 | 84.2億トン | – |
2023 | 85.4億トン | 1.4% |
一般炭の価格推移
Newcastleコールフューチャーズ(一般炭価格インデックス、ICEフューチャーズ・ヨーロッパに上場)の推移です。
TradingView提供のNCF1!チャート
2020年から2021年にかけて需要は減っていますが、価格は上昇しました。2022年にはロシアのウクライナへの侵攻を受け、ロシア産天然ガスからの代替資産としての石炭へのニーズが高まり、石炭価格は高騰し過去最高値を更新しました。
しかし、2023年になって天然ガス不足への懸念が一旦落ち着くと、石炭価格は急落しており、石炭企業への影響は避けられないものと見られています。
【参考】Newcastleコールフューチャーズについて
名称 | 上場日 | 上場市場 | 取引単位 |
Newcastleコールフューチャーズ | 2008年 | ICEフューチャーズ・ヨーロッパ | 1000トン |
Newcastleコールフューチャーズの概要
原料炭価格の推移
原料炭先物(大連商品取引所)での原料炭先物の価格推移です。2022年以降、ウクライナでの紛争を受け価格が上昇しています。
原料炭の価格推移
さらに詳しく業界を理解するためのお薦め書籍
資源と経済 持続可能な金属資源の利用を求めて
トコトンやさしい石炭の本
【M&Aの動向】
2017年 神華能源が中国国電集団と再編・合併した国家能源投資集団の傘下となる
2018年 リオ・ティントがEMRキャピタルとAdaro Energyに炭鉱を売却し、一般炭採掘事業から完全に撤退
2018年 グレンコアがリオ・ティントより2つの炭鉱を17億ドル買収
2021年 ヴァーレがモザンビークの炭鉱を売却し、石炭事業から撤退
2022年 アングロアメリカンが南アフリカの一般炭採掘事業から撤退
2022年 山東能源が中国の石炭大手Yankuang Groupと経営統合
2023年 神華能源が親会社の中国能源投資(CHN Energy)から内モンゴルの石炭2社を買収
2023年 グレンコアがカナダの鉱山会社テック・リソーシズの製鉄用原料炭事業の買収を提案
中国国内では買収の動きが活発な一方で、米国・欧州では石炭業界からの撤退の動きが加速しています。リオ・ティント、ヴァーレが既に撤退しただけでなく、BHPやアングロアメリカンも撤退・事業縮小へかじ取りを進めています。
なお、BHPは一度は撤退を表明したものの、撤退を中止し2030年までの操業延長を計画しています。炭鉱の売却で利益の出る交渉に至らなかったためだと発表していますが、今後も石炭事業の縮小・撤退に向けて動いていくことが予想されます。
【会社の概要】
神華能源(China Shenhua Energy)
中国の国有企業で2004年に北京で設立されました。2017年には、中国五大電力会社の一角であった中国国電集団と経営統合し、国家能源投資集団が成立しました。石炭事業では、物流まで一貫して開発を行っています。
山東能源
中国政府系の資源開発会社です。2020年に石炭大手のYankuang Groupと経営統合をしました。
Yankuang Group (兖矿)
中国の石炭大手であるYanzhou Coal Mining(イエンチョウ・コール・マイニング、兗州煤業股分有限公司)やその子会社である豪州の炭鉱会社であるYancoal(ヤンコール)の親会社です。採炭以外に石炭輸送鉄道事業も展開しています。ヤンコールはリオティントから炭鉱を買収し、事業を拡大しています。ハンターバレー炭田等で炭鉱をしています。
国家能源投資(China Energy Investment Corp)
Peabody Energy(ピーボディ・エナジー)
1883年創業の米国最大の石炭生産企業です。2016年にチャプター11を申請しましたが、その後再上場を果たしています。北米と豪州に炭田を持っております。一般炭と原料炭の両方を手がけています。
中煤能源(China Coal Energy)
2006年に北京で設立された中国の国有企業です。Pingshuo Mining Areaでの生産が8割を超えており、主に中国国内に供給されています。
Glencore(グレンコア)
グレンコア(Glencore)はスイスに本拠を置く資源商社です。1974年にスイスのトレーダーであるマーク・リッチによって設立されました。2012年にカナダの穀物流通大手バイテラを、2013年には資源メジャーであるエクストラータを買収しています。亜鉛、原料炭、一般炭、銅、コバルト、ニッケルなどの採掘やエネルギー及び穀物トレーディングが事業の柱となっています。トレーディング機能と上流権益の開発機能をあわせもつ資源メジャーとも言えます。2017年1月に穀物トレーディング部門をグレンコア・アグリカルチャーとして分社化し、バイテラへと社名変更しました。さらに詳しく
Arch Coal(アーチ・コール)
1969年に設立されたミズーリ州セントルイスに本社を置く石炭生産企業です。1997年に同業のAshland Coalと合併をしました。 2011年に米同業のInternational Coal Group(インターナショナル・コール・グループ)を買収して、Peabody Energyを追撃していました。しかし、2015年にチャプター11を申請し、2016年に再生プロセスが終了しました。2019年にピーボディ・エネジーとPowder River炭田やColorado石炭事業の合弁会社設立を発表しました。
Coal India(コールインディア)
インドの国営石炭会社です。インドの石炭生産量の8割超を同社が担っています。
BHPグループ(旧BHPビリトン)
BHP(ビーエイチピー、BHP)は、世界最大の鉱業会社です。2001年に豪ブロークンヒル・プロプライエタリー・カンパニー(Broken Hill Proprietary Company Limited、BHP) と英ビリトン(Billiton plc) の統合により誕生しました。2018年にBHPビリトン(BHP Billiton)からBHPグループへと改称しています。合併後もロンドンとオーストラリアの2つの株式市場に上場するdual-listed companyとして存在しています。
銅、鉄、石炭、石油、ニッケル、ボーキサイト等の鉱石の生産に携わっています。豪州のOlympic Dam鉱山でウランの生産・開発を行っています。ダイヤモンドも手掛けていましたが、2012年にドミニオンダイヤモンドに事業を売却しました。銅鉱山では世界最大規模の生産量を誇るチリのEscondida(エスコンディーダ)を保有しています。ニッケルは、ウェスト・オーストラリア鉱床が、世界最大級の良質なニッケルブリケットやパウダーを生産しています。ウェスト・オーストラリア鉱床においては、Mount Keith(キース山)が、良質なニッケル鉱山です。
Anglo American(アングロアメリカン)
アングロ・アメリカン(Anglo American)は英大手資源会社です。ロンドン証券取引所に上場しています。銅鉱山ではLos Bronce(ロスブロンセ)鉱山等を運営しています。ニッケルは、ブラジルのBarro Alto(バーホ・アウト)が主要鉱山です。ダイヤモンドのデビアスを傘下に保有しています。金、プラチナにも強みを持ちます。石炭でも原料炭を中心に優良アセットを保有しております。
Vale(ヴァーレ)
Vale(ヴァーレ)は、世界最大手のブラジル資源大手です。資源メジャーの1角です。主力商品は鉄鉱石ですが、ニッケルも大手の一角です。カナダのインコ(Inco)社から2006年に180億ドルで買収をしたオンタリオ州のSudbury(サドバリー) Mine、Voisey’s Bay(ボイジーズ・ベイ)をはじめとして、住友金属鉱山も参画しているインドネシアのSorowako(ソロワコ)、ニューカレドニアのVNC-Goro、ブラジルのOnca Puma(オンサ・プーマ)、カナダのThompson(トンプソン)が主要ニッケル鉱山となっています。マンガン、ボーキサイト、アルミニウム、銅、石炭、コバルト、貴金属の鉱山も手掛けています。コバルトは、カナダのSudbury、Voisey‘s Bay、ニューカレドニアで採掘をしています。三井物産との関係が深いことでも有名です。
Rio Tinto(リオティント)
Rio Tinto(リオティント)は、世界最大級の鉱業会社です。1995年に英国RTZ と豪CRA が統合して誕生しました。経営統合の経緯から、現在でもロンドンとシドニーの両証券取引所に上場をしています。鉄鉱石やアルミに強みを持ちます。アルミニウムは2007年に買収したリオ・ティント・アルキャンを通じて展開しています。石炭は豪州を中心に注力していましたが、2017年にCoal Allied Industrialをヤンコールへ、2018年にHail Creek炭田をグレンコア、Kestrel炭田をAdaroエナジーなどへ売却して撤退しました。ダイヤモンドにも強みを持ちます。ジンバブエのムロワダイヤモンド鉱山やカナダの鉱山での生産を行っています。
参照したデータの詳細情報について
参照したデータは以下の通りです。リンク切れなどありましたら、お問い合わせのページからご連絡頂けますと大変有難く存じます。
参照した市場規模の情報 ※以下のsourceは御覧いただきますタイミングにより上記市場規模と数値が異なる場合がございます。