水処理薬品・機器業界の世界シェアや市場規模について分析をしています。エコラボ、ザイレム、ケミラ、栗田工業、エヴォクアといった世界の大手水処理薬品・機器会社の動向も掲載しています。
【水処理薬品・機器業界とは】
工場などで使用される工業用水、限りのある水資源を有効活用する再利用水、下水処理に関わる水ビジネスのことを、水処理ビジネスと呼びます。水処理の過程で使用される化学薬品や機器を製造・販売している企業を、水処理薬品・機器と呼びます。
水処理薬品のタイプは、凝集剤および凝集剤、腐食防止剤、スケール阻害剤、殺生物剤および消毒剤、およびキレート剤があります。水処理機器のタイプは、ボイラ水処理システム、冷却水処理システム、純水処理システム、淡水化(塩の除去)などがあります。
水処理薬品・機器業界は、石油・ガス、発電所、鉱業、紙パルプ、化学処理産業などで水の需要が高まるにつれて、成長し続けています。また、発展途上国の水不足並びに水の再利用への需要が今後も増えていくことも成長の要因となります。
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【市場シェア】
水処理薬品・機器業界の2023年度の売上高⇒参照したデータの詳細情報を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2023年の水処理薬品・機器業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位はザイレム、2位はエコラボ、3位はヴェオリアとなります。
*2022年度シェア6位だったSolenis(ソレニス)は、記事作成時点で2023年度の売上未公表だったため、除外しております。
水処理薬品・機器メーカーの世界市場シェア(2023年)
順位 | Company name (English) |
会社名 | 市場シェア |
---|---|---|---|
1位 | Xylem | ザイレム | 16.05% |
2位 | Ecolab | エコラボ | 13.80% |
3位 | Veolia | ヴェオリア | 10.88% |
4位 | Pentair | ペンテア | 8.95% |
5位 | Danaher | ダナハー | 8.09% |
6位 | Kurita | 栗田工業 | 6.38% |
7位 | Kubota | クボタ | 6.04% |
8位 | Kemira | ケミラ | 3.78% |
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1位はポンプ業界大手のITTコーポレーションから分社化したザイレムです。エコラボは水処理のナルコを2011年に買収し、水処理分野では世界2位となります。3位のヴェオリアは、GEウォーターを買収して水処理分野へ再参入をしたスエズを2021年に買収した結果、市場シェアを上げてきています。
地域別にみるとアジア・パシフィックでの成長が著しいです。中国、インド、ベトナム、インドネシアなどの地域で、都市化・産業発展・人口増加が急激に進んでおり、水処理の需要が高まっているためです。また、各国政府の排水処理セクターへの投資が増えていることも、水処理業界の成長を後押ししています。
【市場規模】
当データベースでは、2023年の水処理薬品・機器業界の市場規模を459億ドルとしております。参照した各種調査データは次の通りとなります。
調査会社マーケットリサーチフューチャーによると、2023年の同業界の市場規模は459億ドルです。2032年にかけて年平均4.72%で成長し、規模は695億ドルへと拡大することを見込んでいます。⇒参照したデータの詳細情報
年 | 水処理薬品・機器の市場規模 | 年平均成長率 |
---|---|---|
2023年 | 459億ドル | – |
2032年 | 695億ドル | 4.72% |

【M&Aの動向】
2011年 エコラボによるナルコ(Nalco)買収
2013年 AEAインベスターズによるエヴォクア買収
2016年 ザイレムによるスマートメーター大手のセンサスの買収
2017年 エコラボによるドイツのホルケム(Holchem)の買収
2017年 エコラボによるキャスケードウォーターサービス(Cascade Water Services)の買収
2018年 ザイレムによるカナダのピュアテクノロジーズ(Pure Technologies)の買収
2019年 エコラボによるBioquellの買収
2019年 エヴォクアによるATG UVテクノロジーの買収
2021年 プラチナエクイティがソレニスを買収
2022年 ヴェオリアによるスエズの買収
2023年 ソレニス(プラチナエクイティ)が水処理関連の薬品を製造するDiverseyを買収
2023年 Xylem、Evoquaの買収を完了
2023年 クボタの子会社であるKverneland ASは子会社を通じて、農作業機器を製造するB.C. TECHNIQUE AGRO-ORGANIQUE SASを完全子会社化
2024年 ケミラ、ノリットの英国再活性化事業の買収を完了
2024年 エコラボがバークレー・ウォーター・マネジメントを買収
2024年 Pentair が G&F Manufacturing, LLC を買収
2024年 ソレニス、BASFの鉱山用途向け凝集剤事業を買収
【会社の概要】
エコラボ(Ecolab)
1923年に創業された米国に本拠を置く水処理会社の老舗です。Economics LaboratoryからEcolabへ社名変更しています。投資ファンドのブラックストーン、Apollo Management(アポロマネジメント)、Goldman Sachs Capital Partners(ゴールドマンサックスキャピタルパートナーズ)がフランスの水道大手のスエズから買収した水処理大手のNalco Holding(ナルコホールディングス)を、エコラボが買収し、工業用水処理分野では世界最大級となりました。洗浄機、水のろ過、殺菌、廃水処理等化学、ヘルスケア、食品業界等幅広い分野へのソリューションを提供しています。2019年には消毒液大手の英国のBioquellを買収しました。
ザイレム(Xylem)
米国に本拠を置く水処理大手です。2011年にポンプ業界大手のITTコーポレーションから分社化して誕生しました。2016年にスマートメーター大手であるセンサスを買収しています。
ヴェオリア(旧GEウォーター)
米国を代表するGEの傘下の企業でした。食品、化学工場向けの測定、制御装置、水処理膜の分野では世界大手です。2017年にスエズがGEウォーターをケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)と共同買収しました。2021年にヴェオリアがスエズを買収しました。
スエズについて
Suez(スエズ)は、1880年に設立された世界トップクラスの水道事業運営・産業用水処理会社(ウォーターバロン)です。電力・ガス大手であるエンジ―(Engie)が主要株主でしたが、2021年にヴェオリアが買収をしました。スエズの源流は1800年代中盤にスエズ運河を建設したスエズ運河株式会社にまで遡ることができます。インドスエズ銀行の売却やフランスガス公社(GDF)と合併によるGDFスエズの誕生、その後エンジ―ヘの社名変更を行っております。2017年にはGEから水処理機器大手であるGEウォーターを32億ユーロで買収し、運営会社から水処理機器製造販売へと事業領域を拡大しております。MBR、UF/MF膜の分野に強みを持ちます。2020年にはドイツの化学メーカーであるランクセスよりRO膜を買収しました。2021年にヴェオリア傘下となりました。
ヴェオリアについて
ヴェオリア(Veolia、ベオリア)は1853年に設立された世界最大手の民間水道会社です。ウォーター・バロンの一角です。ヴィヴェンディの前身のジェネラル・デ・ゾー仏水道公社に源流があります。2020年にエンジーが保有するスエズ株式を取得しました。2022年にスエズと経営統合しました。
ダナハー(Danaher)
Danaher(ダナハー)は、1969年にステーヴンレイルズ氏とミッチェルレイルズ氏によって設立された米国に本拠を置くコングロマリット企業です。M&Aを通じて企業を成長させる手法に定評があります。計測器、歯科向け機器、水処理、対外診断機器といった分野で事業を展開しています。水処理の分野では2015年に業界大手の米ポール(Paul)を買収して事業を強化しています。環境機器はHach、試験・計測機器はFluke、血液分析機器はRadiometerといったブランドで事業を展開しています。さらに詳しく
ペンテア(Pentair)
1966年に設立された、家庭用・企業用・産業用に水ソリューションを提供する会社です。液体処理・ポンプ製とシステムを製造・販売するインダストリアル&フローテクノロジーセグメント、商業用・家庭用の水処理製品とシステムを製造・販売する水ソリューションセグメント、住宅用及び商業用のプール機器などを製造・販売するプールセグメントの3つの事業を展開しています。
ソレニス(Solenis)
2019年に投資ファンドのクレイトン・デュビリア・アンド・ライス傘下にあったAshland Water TechnologiesとBASFの水処理化学・パルプ製紙化学事業が経営統合し誕生しました。49%をBASFが出資しています。2021年にプラチナムエクイティが買収し、同ファンド傘下にあるSigura Waterと統合をしました。
クボタ(Kubota)
クボタは、日本の最大手農機メーカーです。源流は、1890年に久保田権四郎氏によって設立された鋳物メーカーである大出鋳造所まで辿ることができます。コレラ対策のために、水道管の国産化を実現し飛躍しました。
ノルウェーの農機メーカーのKverneland(クバンランド)、北米の種まき・草刈り機大手のグレートプレーンズマニュファクチュアリング社、インドのエスコーツ社を買収し、世界展開を強化しています。日本出自の農機メーカーということで、稲作用の農機に強みを持っています。農機以外にも、エンジン、建設機械、祖業の各種パイプ(ダクタイル鉄管、合成管、ポンプ、バルブ等)、スパイラル鋼管などを製造販売しています。
エヴォクア(EVOQUA)
旧シーメンスの水処理事業です。2015年にシーメンスが投資ファンドへ売却し、その後上場を果たしました。上水処理、排水処理、下水処理など様々な水処理製品を手掛けています。2019年に紫外線消毒システム大手であるATG UVテクノロジーを買収しました。
ケミラ(Kemira)
フィンランドに本拠を置く水処理会社大手です。水処理用薬剤に強みを持ちます。2014年にはオランダのアクゾノーベルから保水、サイジング製品等の製紙薬品事業を買収しています。
栗田工業
日本を代表する水処理メーカーです。水処理薬品の製造、水処理装置の製造・販売、超純水供給、水質分析、環境分析、化学洗浄、プラント設備洗浄を行っています。
参照したデータの詳細情報について