製紙・パルプ業界の世界市場シェア、市場規模、業界再編について分析をしています。ウェストロック、キンバリークラーク、インターナショナルペーパー、スマーフィット・カッパ、王子ホールディングス等、主要な製紙・パルプ会社の概略も掲載しています。
製紙・紙パルプ業界とは
製紙・パルプ業界とは、パルプ(木材)などの原料を用いて紙や紙加工品を製造する業界です。書類や書籍などのほか、段ボール、包装資材、ティッシュ・トイレットペーパーなどが該当します。
紙や紙加工品の原料は、60%程度が古紙、40%程度がパルプと言われています。パルプとは、木材から紙にするための原料として取り出した繊維のことで、主成分はセルロースです。
パルプの作り方
パルプは、木材が原料の木材チップから樹脂などの不純物を蒸解して取り出したあと、洗浄や漂白工程を経て、さらに木材の繊維分を抽出して作られます。出来上がったパルプを水で薄め、ワイヤーで作った網の上に乗せてプレスし、ドライヤーで乾燥させて原紙を作っていきます。その後、紙の用途により、コーティングやツヤ出しを行っていきます。パルプの原料となる木は、広葉樹、針葉樹、ハードウッド、ソフトウッド等に分類され、取り出せる繊維の長さ等によって用途が異なってきます。主にブラジル、インドネシア、チリではユーカリやアカシア等の広葉樹やハードウッドを、フィンランド、スウェーデン、米国ではソフトウッドを多く生産していることが下図よりわかります。
世界のパルプ最終消費物動向
世界のパルプ最終消費増加率を表しています。 ご覧の通り段ボールの消費が著しく、次いでティッシュの順となっております。
【製紙・パルプ業界の世界市場シェア】
製紙・パルプメーカーの2022年度の売上高を分子に、後述する市場規模を分母にして、製紙・パルプ業界の2022年の世界市場シェアを計算すると、1位はウエストロック、2位はキンバリー・クラーク、3位はインターナショナルペーパーとなります。⇒参照したデータの詳細情報
製紙メーカーの世界シェアと業界ランキング(2022年)
順位 | 会社名 | 市場シェア |
---|---|---|
1位 | ウェストロック | 6.11% |
2位 | キンバリー・クラーク | 5.70% |
3位 | インターナショナルペーパー | 4.93% |
4位 | 王子ホールディングス | 4.19% |
5位 | スマーフィット・カッパ | 4.09% |
6位 | ナイン・ドラゴンズ・ペーパー | 2.92% |
7位 | 日本製紙 | 2.47% |
8位 | ストラ・エンソ | 2.30% |
9位 | UPM | 2.09% |
10位 | サッピ | 2.06% |
参考 | スヴェンスカ・セルローサ | 0.36% |
1位はウェストロック、2位はキンバリークラーク、3位はインターナショナルペーパーと米国企業がランキング上位に挙がっています。製紙・パルプの原料となる木材が多く産出される国の企業が市場シェアを占めているのが特徴で、5位のスマーフィット・カッパ(アイルランド)、8位のストラ・エンソ(フィンランド)、9位のUPM(フィンランド)など北欧企業が多くランクインしています。
紙そのものがコモディディ化していることもあり、製紙・パルプ業界での製品差別化は難しいと言われています。そのため、紙の原価における輸送コスト(嵩張るためコストがかかる)等を低下させるため、各プレーヤーともに地産地消をめざし拡大を続けています。
なお、調査会社のスタティスタによると、2021年のパルプの世界産出量は1.92億トンです。国別の産出量からシェアを計算すると、1位がアメリカ、2位がブラジル、3位が中国となっています。
パルプ生産の主要企業として、ブラジルのスザノ(Suzano)が挙げられます。2018年にパルプ大手のフィブリアを買収し、生産量では断トツでトップのパルプメーカーとなりました。ユーカリパルプに強みがあるのが大きな特徴です。その他大手には、インターナショナルペーパー、チリの製紙大手であるアラウコ、同じくチリのCMPC、インドネシアを中心にパルプ事業を手掛けるエイプリル、フィンランドの名門であるUPMとストラ・エンソ等があります。
【製紙・パルプ業界の世界市場規模】
当サイトでは2022年の製紙・パルプ業界の市場規模を3540億ドルとしています。参考にした情報は以下の通りです。
調査会社のスタティスタによると、2022年の同業界の市場規模は3543.9億ドルで、2029年にかけて0.72%で成長し3727億ドルになると見込んでいます。
調査会社のプレセデンスリサーチによると、2022年の同業界の市場規模は3540億ドルで、2032年には5115.3億ドルになると見込んでいます。2023年から2032年にかけての年平均成長率は3.80%になると予測しています。
調査会社のフォーチュンビジネスインサイツによると、2021年の同市場規模は3515.3億ドルです。2029年にかけて年平均0.72%での成長を見込みます。
⇒参照したデータの詳細情報【M&Aの動向】
製紙・パルプ産業の事業特性から、今後も原料調達力の強化や、コスト競争力の強化を目指した業界再編による規模拡大の流れは継続するものと思われます。業界首位であるインターナショナルペーパーが買収を通じて成長をしていることも伺えます。
1996年 インターナショナルペーパーによるFederal Paper Boardの買収
1998年 スウェーデンのStoraとフィンランドのEnsoの経営統合(ストラ・エンソ誕生)
2000年 ストラ・エンソによる米Consolidated Papersの買収
1999年 インターナショナルペーパーによるUnion Campの買収
2000年 インターナショナルペーパーによるチャンピオンインターナショナルの買収
2001年 UPMキュンメネによる独Haindl’sche Papierfabrikenの買収
2008年 インターナショナルペーパーによるWeyerhaeuserの部門買収
2011年 UPMキュンメネフィンランドのMyllykoskiの買収
2011年 インターナショナルペーパーによる印大手製紙会社のAPPMの買収
2012年 インターナショナルペーパーによるTemple-Inlandの買収
2014年 王子ホールディングによるニュージーランドの紙パルプ・段ボールメーカーCHHPPの買収
2018年 ブラジルのスザノによるフィブリアの買収
2021年 インターナショナルペーパーによるMolded fiberの買収
2023年 ウエストロックとスマーフィット・カッパが合併に向けた話し合いを開始
さらに業界を理解するための関連書籍
紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている
熔ける
知っておきたい紙パの実際
近代日本製紙業の競争と協調
【会社の概要】
West Rock(ウェスト・ロック)
Westrock(ウェストロック)は、2015年にパルプ製紙大手のRock-Tenn(ロックテン)と包装材大手のMeadWestvaco(メッドウエストヴェイコ)が経営統合をして誕生しました。主力事業は、段ボール紙と商品用包装用紙の製造・加工です。飲料・食品・日用品パッケージなど消費財向け梱包材を得意とします。
なおロックテンは、2011年に段ボール大手のSmurfit-Stone Container(スマーフィット・ストーン・コンテナー)社を買収しました。直近では、SP Fiber、Cenveo Packaging、Star Pizza、MPS、U.S. Corrugated、Island Container、Hannapak、Plymouth Packaging、Schlüter Print Pharma、KapStone、Linkx、UBSを買収し、M&Aによる成長戦略を強化しています。さらに詳しく
Kimberly Clark(キンバリー・クラーク)
Kimberly Clark(キンバリー・クラーク)は、1872年に設立された米国のテキサス州に本拠を置くおむつ等の衛生用品及びティッシュメーカーです。おむつは、Huggies(ハギーズ)、Pull-Ups、Little Swimmers、GoodNites、DryNites、Kotexなどのブランドで展開し、不織布も内製しています。Kleenex(クリネックス)やScottブランド等のブランドでティッシュにも強みを持ちます。消費者向けだけでなく業務用でも展開しています。2014年にヘルスケア部門をスピンオフ(現Avanos Medical、アバノスメディカル)しました。さらに詳しく
International Paper(インターナショナルペーパー)
1898年に設立された米国テネシー州に本拠を置く世界最大級のパルプ製紙会社です。インダストリアルパッケージング、パルプ、印刷紙が大きな事業の柱となっています。2000年に北米同業のチャンピオンインターナショナル、2011年にはインドの大手製紙会社APPM(Andhra Pradesh Paper Mills Rajahmundry、アンドラプラデッシュ・ペーパー・ミルズ)の過半数を取得する等、買収により規模を拡大しています。インダストリアルパッケージング事業で、段ボールを製造販売しています。段ボールの原紙製造に加え、段ボールの貼合加工も行っています。また、2011年に段ボール大手の米Temple-Inland(テンプルインランド)買収しました。さらに詳しく
王子ホールディングス
国内最大手の製紙会社です。2010年にマレーシアのGS Paper & Packaging (GSペーパー&パッケージング)を買収し、2014年にニュージーランドの紙パルプ・段ボールメーカーのCHHPPを買収する等、近年海外展開を加速させています。
Smurfit Kappa Group(スマーフィット・カッパ・グループ)
アイルランドに本拠を置く製紙大手です。包装紙に強みを持ちます。
Nine Dragons Paper(ナインドラゴンペーパー)
1995年に設立された企業で、段ボール原紙の生産に強みを持っています。中国国内だけでなく、ベトナムやマレーシアでも展開しています。
日本製紙
国内大手製紙メーカーです。タイの製紙大手サイアム・グループペーパーを買収しました。紙製品以外にもキッチン用品やケミカル製品、木材・建材などを手がけています。タイの製紙大手サイアム・グループペーパーを買収しています。
Stora Enso(ストラ・エンソ)
フィンランドの大手製紙メーカーです。1998年にスウェーデンのStora(ストラ)社とフィンランドのEnso(エンソ)社の合併により誕生しました。
UPMキュンメネ
フィンランドの大手製紙メーカーです。1996年にキュンメネ社とレポラ社等が経営統合して誕生したユナイテッド・ペーパー・ミルズ(United Paper Mills)が源流です。パルプ、粘着紙、出版印刷用紙に強みを持ちます。
Sappi(ザッピ)
1936年に設立された南アフリカに本拠を置くパルプ製紙会社です。Sappiは「South African Pulp and Paper Industries」の略です。
SCA(スヴェンスカ・セルローサ)
スウェーデンに本拠を置く製紙大手です。ティッシュ類等の衛生用品を手掛けています。2017年にパーソナルケア用品部門を分社化し、エシティ(Essity)として上場させました。同部門の誕生は、1975年にスヴェンスカ・セルローサが買収したパーソナルケア大手のメンリッケ(Mölnlycke)が源流です。
その他の主要製紙・パルプ会社には以下が挙げられます。
Mondi(モンディ)
1967年に資源大手アングロアメリカンによって設立された製紙・段ボール会社です。段ボール、フレキシブルパッケージ、不織布、印刷情報用紙などを手掛けています。2007年に分社化され、ロンドン証券取引所に上場しました。
P&G(プロクター&ギャンブル)
P&G(プロクター&ギャンブル)は、米国に本拠を置く世界最大級の日用品メーカーで、1837年にウィリアム・プロクター氏とジェームズ・ギャンブル氏によって設立されました。日用品業界屈指の商品開発力・マーケティング力を誇っています。取り扱っている分野は、トイレタリー、ファミリーケア、ファブリックケア、ホームケア、ヘアケア、スキンケア、オーラルケアといった広範囲の消費財で、いずれもブランド力のある商品を展開しているのが特徴です。さらに詳しく
Domtar(ドムタール)
1948年に創業したカナダに本拠を置く製紙・おむつ等の紙製品メーカーです。
CMPC
1848年に創業したチリに本拠を置く製紙会社です。南米最大規模を誇ります。パルプ分野でも大手です。
スザノ(Suzano)
ブラジルの大手製紙会社です。80年以上の業歴があります。2018年に同業のフィブリアを買収し、パルプ事業を強化しています。
フィブリア(Fibria S.A)について
ブラジルにおけるパルプ・製紙メーカーです。2009年にブラジルのアラクルーズ・セルロースとVCP が合併して誕生しました。パルプ生産量では世界最大級で、ユーカリパルプに強みを持ちます。2018年にブラジル同業のスザノが買収しました。
Arauco(アラウコ)
チリのパルプメーカーです。1979年に、国営のCelulosa AraucoとCelulosaConstituciónが民営化する過程で経営統合し、誕生しました。
April(エイプリル)
シンガポールに本拠を置くコングロマリット、RGEグループの傘下のパルプ・製紙メーカーです。Sukanto Tanoto氏によって設立されました。RGEはインドネシアや中国を中心に、パルプ・製紙、パームオイル、石油事業等を展開しています。
RGEグループの事業展開マップ
業界用語集
パルプ:パルプとは紙の原料の総称です。木材チップから木材の繊維を取り出して作ります。
製紙・パルプ産業の特性:紙自体はコモディディ化しており製品差別化は難しいと言われています。よって紙の原価における輸送コスト(嵩張るためコストがかかる)等を低下させるため、各プレーヤーともに地産地消をめざし拡大を続けています。
参照したデータの詳細情報について
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