正極材業界の世界市場シェアの分析

正極材業界の世界市場シェアと市場規模について分析をしています。正極材大手メーカーである日亜化学、杉杉集団、住友金属鉱山、L&F、アモイタングステン、ユミコアといった会社の概要や動向についても掲載をしています。

【正極材とは】

正極材は、負極材、電解液、セパレータとともにリチウムイオン電池を構成する部材です。

リチウムイオン電池の性能を決めるのは正極材とも言われています。コバルト系、マンガン系、ニッケル系、リン系、鉄系、三元系といった種類の正極材があります。コバルト系は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)がもっとも使われている正極材ですが、コバルトの調達は不安定といった問題があります。リン系はリン酸鉄系(LiFePO4)を正極材に使っています。中国系の正極材メーカーが多く採用しています。

正極材は、特に電気自動車(EV)への利用で注目されています。EVは販売台数が著しく伸びており、その売上は今後も伸び続けることが予想されているため、正極材の需要も劇的に増えると見込まれています。

なお、正極材はEV以外にエネルギー貯蔵装置やスマートフォン、タブレットに利用されるため、その価値に注目が集まっています。

【市場シェア】

正極材メーカー各社の2022年度の売上高を分子に、また後述する業界の市場規模を分母にして、2022年の正極材業界の市場シェアを簡易に試算しますと、1位はユミコア、2位はアモイタングステン、3位はロンベイとなります。⇒参照したデータの詳細情報

正極材業界の世界市場シェア(2022年)

順位 会社名 市場シェア
1位 Umicore(ユミコア) 13.68%
2位 Xiamen Tungsten(厦門タングステン、アモイタングステン) 10.45%
3位 Ningbo Rongbai New Energy Technology Co., Ltd.(ロンベイ、宁波容百新能源科技) 9.90%
4位 Zhejiang Huayou Cobalt(セッコウ・ホワヨウ・コバルト) 8.28%
5位 Shenzhen Dynanonic(シンセン・ダイナノニック株式会社) 8.19%
6位 L&F 7.92%
7位 ECOPRO BM Co.(エコプロBM) 6.79%
8位 Changyuan Lico(コナン・チャンユエン・リコ、湖南長遠鋰科有限公司) 6.40%
9位 NICHIA CORPORATION  (日亜化学工業株式会社) 4.02%
10位 POSCO(ポスコケミカル) 3.95%
11位 Sumitomo Metal Mining Co., Ltd(住友金属鉱山株式会社) 3.92%
12位 Beterui New Materials Group Co., Ltd.(BTR、貝特瑞新材料集団) 3.81%
13位 Ningbo Shanshan Co., Ltd.(杉杉集団、シャンシャン) 2.93%
14位 ZEC(貴州振華新材料有限公司) 1.99%
15位 MITSUI MINING & SMELTING CO.,LTD.(三井金属鉱業株式会社) 0.49%
16位 Beijing Earspring(北京当昇材料科技) 0.28%
正極材メーカーの世界市場シェア ©ディールラボ

正極材メーカーの世界シェア(2022年)

正極材業界のシェアの大部分を占めるのが、アジア太平洋地域の企業です。ランキングからも分かるように、中国や韓国の企業がリーディングカンパニーに名を連ねています。特に中国は正極材の製造・輸入で世界一になると予測されており、同時にEVの製造でも世界トップに躍り出ることが見込まれます。

【市場規模】

調査会社のマーケッツアンドマーケッツによると、正極材業界の市場規模は、2021年に259億ドル、2027年には526億ドルに達すると推定され、2021年から2027年の間に15.2%の年平均成長率で推移すると予測されています。

調査会社のヴァンテージマーケットリサーチによると、2022年の同市場規模は255億ドルで、年平均成長率13.21%で2030年には699億ドルに達すると予想しています。

一方、上述した16社の売上高合計が358.35億ドルとなっていることから、市場シェアの計算上は、便宜的に358.35億ドルを市場規模としています。

市場規模 成長率
2030年 699億ドル 13.21%
2022年 255億~298億ドル 10.97%
2021年 221億~259億ドル 6.3%
正極材の推定市場規模の推移©ディールラボ

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【M&Aの動向】

2017年 ユミコアが米化学大手の3Mから三元系正極材であるNMCに関する3つの特許を買収

この買収によって、ユミコアは3Mの正極材に関するライセンスを引き継ぎ、全ての権利・責任を負うこととなりました。

【会社の概要】

Umicore(ユミコア)

ベルギーに本拠を置く素材メーカー大手です。元々は亜鉛鉱山等の金属資源の開発会社として19世紀初頭に設立され、コンゴ共和国に強い影響力を持っています。希少資源であるコバルト資源へのアクセスがあり、正極材や触媒に強みを持ちます。

Xiamen Tungsten(厦門タングステン、アモイタングステン)

中国の福建省に本拠を置く正極材メーカーです。タングステン、モリブデン、レアアース、正極材、負極材といった事業を手掛けています。

Ningbo Rongbai New Energy Technology Co., Ltd.(ロンベイ、宁波容百新能源科技)

2014年に中国と韓国のメンバーによって設立された正極材メーカーです。主な顧客として、CATL、BYD、LG化学などが挙げられます。ロンベイは、中国で初めてNCM811の大量生産に成功した企業です。NCM811はニッケル8:コバルト1:マンガン1で配合された正極材で、それまでのNCM622(ニッケル6:コバルト2:マンガン2)に比べて多くニッケルが配合されており、エネルギー密度を上げて大きな電流を扱えます。

Zhejiang Huayou Cobalt(セッコウ・ホワヨウ・コバルト)

浙江省に本社を置く正極材メーカーです。リチウム電池材料とコバルト新素材の製造を行っています。2023年には韓国の化学大手LGケミカルと共同で合弁企業を設立することを発表しました。EVに使用される正極材素材の前駆体を製造することが目的で、9億2300万ドルでのローンチが決まっています。

Shenzhen Dynanonic(シンセン・ダイナノニック)

深セン市に本社を置く正極材メーカーです。リン系正極材を製造しており、パワーバッテリーやエネルギー貯蔵バッテリーに利用されています。

L&F

2000年に設立された韓国に本拠を置く正極材に強みを持つ素材メーカーです。非上場会社です。2023年2月には、米クリーンエネルギー関連大手のテスラに29億ドル相当の正極材を供給する契約を勝ち取ったと発表しています。この契約による正極材は、テスラのEVのバッテリーに使用されます。

ECOPRO BM Co.(エコプロBM)

韓国の正極材メーカーです。ニッケル系正極材に強みを持ちます。2016年に吸着剤やフィルター等を開発するエコプロから分社化しました。現在では年間18万トンの正極材材料を生産しており、2027年には71万トンまでその生産規模を増やすことを目指しています。2023年4月には、転換社債(CB)を発行して最大で3億8500万ドルの調達を目指すことを発表しました。CBによって得た資金は、生産設備の拡充に充当される予定です。

Changyuan Lico(コナン・チャンユエン・リコ、湖南長遠鋰科有限公司)

湖南長遠鋰科股分有限公司は、2002年に設立された湖南省の正極材メーカーです。コバルト酸リチウムを製造しており、EVやエネルギー貯蔵に利用されます。中国国内の市場での事業展開がメインです。2022年には正極材材料の生産能力10万トンへの投資として、転換社債の発行で資金調達しました。

NICHIA CORPORATION(日亜化学工業株式会社)

徳島県に本拠を置く非上場会社です。LEDの大手メーカーです。窒化ガリウム (GaN)を用いた青色発光ダイオードの開発を世界に先駆けて実現しました。LEDパッケージ及び白色LEDでも存在感を示します。正極材分野でも、自動車向けや電子機器向け電池の正極材を手掛け、世界最大級です。

POSCO(ポスコケミカル)

ポスコケミカルは、韓国の化学大手メーカーで、生石灰と正極材の製造をメインに行っています。タンザニアのグラファイト鉱山を取得しており、韓国以外にも北米や欧州に生産拠点があります。その生産能力や技術が認められ、2021年には米GM社と共同で合弁会社を設立することが発表されました。GMのEV向け電池に使用するニッケル系正極材を生産するのが目的です。

Sumitomo Metal Mining Co., Ltd.(住友金属鉱山株式会社)

日本を代表する銅、ニッケル、金鉱山開発運営会社です。別子銅山での銅開発が祖業です。菱刈鉱山は国内有数の金鉱山です。ニッケルの精錬を行い、正極材にも強みがあります。

BTR(貝特瑞新材料集団)

2000年に設立された中国の正極材メーカーです。パナソニック、サムスンSDI、LG化学、などに正極材及び負極材を販売しています。2021年に北京証券取引所に上場されました。BTRは正極材の生産能力もさることながら、負極材に強みを持っています。BTRは高効率ケイ素複合酸化物の大量生産に初めて成功した企業で、シリコン系負極材の世界シェアの50%を占めています。

Ningbo Shanshan Co., Ltd.(杉杉集団、シャンシャン)

杉杉集団(シャンシャン)は、1992年に設立された繊維を発祥とする中国のコングロマリットです。2009年に伊藤忠商事が出資を行いました。正極材については戸田工業との合弁事業で展開しています。電池材料分野では、正極材以外にも負極材、電解液を手掛けています。2020年にLGから偏光板事業を買収しました。アウトレット、太陽光や病院事業も展開しています。さらに詳しく

ZEC(貴州振華新材料有限公司)

ZECは2004年に設立された、貴州省に本社を置く正極材メーカーです。ニッケル系やコバルト系のほか多様な正極材を製造しており、EVに幅広く使用されています。ナトリウムイオン電池用正極材の製造の先駆者でもあり、2022年末までに10トンの販売を達成しています。

MITSUI MINING & SMELTING CO.,LTD.(三井金属鉱業株式会社)

三井グループの中核を担う三井金属鉱業株式会社は、亜鉛の精錬に強みを持っています。機能材料・電子材料の製造・販売、資源開発、貴金属リサイクル、自動車用機能部品の製造・販売を行う一方で、正極材の製造にも積極的に参入しています。EV向けにマンガン系正極材を製造している他、負極材を始めリチウムイオン電池の主要部材全ての供給を目指して、開発を進めています。

Beijing Earspring(ベイジン・イースプリング・マテリアル・テクノロジー、北京当昇材料科技)

北京当昇材料科技は北京に本社を置く正極材メーカーです。コバルト系正極材を製造しており、主にEV、エネルギー貯蔵装置、ノートパソコンなどに使用されています。販売先は、中国国内にとどまらず、日本、韓国、欧米などにも展開しています。

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