全個体電池は、リチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を持ち、安全性や耐久性に優れているため、電気自動車向けの次世代電池の本命と目されています。そのため、Solid Power、QuantumScape、BrightVolt、Cymbet、Prieto Battery、Planar Energy、ProLogiumといった数多くのスタートアップが、全個体電池の開発や製造分野に参入しています。全個体電池スタートアップの業界マップ(カオスマップ)、資金調達の状況や各社の概要について分析を行っています。
全個体電池の業界マップ(カオスマップ)
全個体電池のスタートアップを直近の投資ラウンドでの資金調達額(縦軸)とシリーズラウンド(横軸)でマッピングした業界マップ(カオスマップ)を作成すると以下の通りとなります。円の大きさは資金調達累計額となります。またIPOをした会社の場合は、直近1年間の資本金及び資本準備金の増減と合計を直近の資金調達額と資金調達累計額とみなしております。
資金調達では既に投資ステージを卒業し、SPAC合併をして公開会社となったQuantumScapeが頭一つ抜きん出ています。投資ステージ後期の会社でも大型の資金調達を行えず、研究開発型スタートアップの資金調達の難しさがマップ上でも現れています。上記スタートアップの累計調達額は、本ページの更新時点で約3127百万ドルとなっております。
全個体電池スタートアップの資金調達額のシェアランキング
全個体電池メーカー各社の累計調達額を分子に、上述した業界全体の資金調達額を分母にして、資金調達額の市場シェアを計算し、ランキング化すると、2021年7月時点では、1位はQuantumScape、2位はProLogium、3位はSolid Powerとなります。
全個体電池スタートアップの資金調達額ランキング(2021年7月時点)
- 1位 QuantumScape 77.9%
- 2位 ProLogium 8.0%
- 3位 Solid Power 5.8%
- 4位 Cymbet 4.9%
- 5位 BrightVolt 3.1%
- 6位 Prieto Battery 0.2%
- 7位 Planar Energy 0.1%
市場規模
調査会社のマーケットアンドマーケッツによると2020年の個体電池の市場規模は62百万ドルです。2027年にかけて年平均34.2%での成長を見込みます。 ⇒参照したデータの詳細情報
なお全個体電池の市場はまだ立ち上がっておりません。今後技術革新とともに市場が立ち上がり、規模も拡大していくと思われます。
業界のM&A
全個体電池への期待の高まりから、事業会社による全個体電池メーカーのM&A案件も増えてきております。
2021年:スウェーデンのリチウムイオン電池メーカーであるNorthvoltが米国の全固定電池開発会社であるCubergを買収
2019年:イギリス掃除機大手のダイソンが全固定電池開発メーカーのSakit3を9000万ドルで買収
全個体電池の構成要素と日本企業の動向
全個体電池とは、電解液を使わずに個体電解質を使って充放電を行う電池の総称です。エネルギー密度が高まり、安全性や安定性がより増す次世代電池の本命です。 また電解質が固定化されることで、電解液で正極と負極を分けていたセパレーターも必要がなくなります。正極材と負極材への変更はありません。 電解質には硫化物と酸化物、そしてポリマーがあります。
日本だと村田製作所が2019年に酸化物セラミックス系電解質を利用した小型の全個体電池を開発しました。 出光興産が硫化物系の個体電解質を開発しました。 日本特殊陶業は酸化物系の個体電解質を開発しています。 トヨタ自動車はパナソニックと提携し全個体電池のEV車を開発しています。 日産自動車とエンビジョンAESCグループは30年までの実用化を目指しています。 日立造船、FDKなども全個体電池の開発を行なっています。 日本ガイシは高温耐性のある半個体電池を開発しました。
全固体電池入門
全固体電池の入門書 -次世代リチウムイオン電池
主要な全個体電池スタートアップ
Solid Power(ソリッドパワー)
本社所在地: 米国
設立年: 2012年
創業者: Douglas Campbell
Solid Powerは全個体電池の開発製造会社です。ベルギーのコバルトや触媒大手であるUmicore(ユミコア)、BMW、フォードが出資を行っています。
QuantumScape(クオンタムスケープ)
本社所在地: 米国
設立年: 2010年
創業者: Jagdeep Singh、Timothy Holme、Fritz Prinz
個体リチウム金属電池の開発会社です。BMW、トヨタ自動車、VWなどの出資を受け、2021年にSPAC(Kensington Capital Acquisition Corp)上場をしました。2024年に全個体電池の商用生産を開始する予定です。
BrightVolt(ブライトボルト)
本社所在地: 米国
設立年: 1998年
BrightVolt(ブライトボルト)は、IoTデバイス用途のソリッドステート薄膜リチウムポリマー電池を開発製造しています。
Cymbet
本社所在地: 米国
設立年: 2000年
Cymbetは全個体電池の開発を行っています。
Prieto Battery
本社所在地: 米国
設立年: 2009年
Prieto Batteryは3Dの固体電池を開発する会社です。インテルが出資を行っています。
Planar Energy
本社所在地: 米国
設立年: 2007年
創業者: Scott Faris
Planar Energyは電子機器や自動車向けの固体電池の技術を開発しています。
ProLogium
本社所在地: 台湾
設立年: 2006年
創業者: Vincent Yang
ProLogiumはスマートウォッチなどの電子機器向けの固体薄膜リチウムセラミックセルメーカーです。中国の第一汽車が出資を行っています。
Ilika(イリカ)
本社所在地:イギリス
設立年:2004年
Ilika(イリカ)はイギリスに本社を置く材料の合成を行う会社です。全個体電池も手がけています。
全個体電池分野に積極的なVC、PEファンドや戦略的投資家
Umicore、Ford、BMW、Fidelity Investments、Prelude Ventures、Volkswagen、トヨタ自動車、Lightspeed Venture Partners、New Science Ventures、Stanley Ventures、Intel、Battelle Ventures、Innovation Valley Partners、Bank of China Group Investment、FAW、SB China Capitalなどが積極的に投資を行っています。
参照したデータの詳細情報について
参照したデータは以下の通りです。リンク切れなどありましたら、お問い合わせのページからご連絡頂けますと大変有難く存じます。