ティッセンクルップのエレベーター事業の概要とアドベント連合の戦略オプション
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ティッセンクルップのエレベーター事業の概要とアドベント連合の戦略オプション

ドイツのティッセンクルップ社は2020年2月にエレベーター事業(以下TKエレベーター)を172億ユーロでアドベントインターナショナル、シンベン及びRAG foundationコンソーシアム連合に売却しました。TKエレベーターは、長くエレベーター業界の4強の1角であり、顧客基盤を110か国にわたって保有しており、販売とアフターサービスも広範な地域に対して行っています。

新設エレベーターよりもメンテナンスの比重が高まりつつある同業界において、同事業の売却時点での売上高は80億ユーロで従業員は50,000人となっており、世界中で保守メンテナンスに駆けつけることができるネットワークを構築している点が強みと言えます。エレベーター以外にもエスカレーターおよび動く歩道等の昇降機事業全般を行っており、米国NYのOne World Trade Centerにおける12のエスカレーターと71のエレベーターが納入済みエレベーターとしては有名です。

投資ファンド連合が買収したので、今後一定のタイミングでTKエレベーターはM&AやIPOの対象となる可能性があります。

ティッセンクルップについて

ティッセンクルップ(ThyssenKrupp)は、1811年創業のクルップと1867年創業のティッセンが、1999年に経営統合をして誕生したドイツ最大級の重工業メーカーです。鉄鋼、エレベーター、自動車部品、造船(軍需向け)がメイン事業です。2010年代以降構造改革を行い、タタ製鉄との欧州製鉄事業の経営統合が破たん後、2019年にティッセンクルップは、主に自動車部品、エレベーター、プラントサービスを提供するtkインダストリアルズと鉄鋼販売、クランクシャフト等の産業材、潜水艦、鉄鋼を手掛けるtkマテリアルズに分社化する旨発表しましたが、実現せず、2019年に稼ぎ頭であるエレベーター事業をアドベント・インターナショナルに売却しました。さらに詳しく

 

アドベントインターナショナルについて

アドベントインターナショナル(Advent International)は、1984年に設立されました。1989年にプライベートエクイティ投資を開始して以来、世界41カ国の350超の会社に500億ドルを超える投資を行って参りました。2021年3月時点で660億ドルの資産を運用しております。注力しているセクターには、金融サービス、ヘルスケア、製造業、小売り、消費財、テクノロジーが挙げられます。

シンベンについて

シンベン(Cinven)は、1977年に年に設立されたロンドンに本拠をおくプライベートエクイティファームです。もともとは、British Coal(英国石炭会社)やBarclays Bank(バークレーズ銀行)の年金資金の運用会社でしたが、1995年に外部の投資家からの資金を得て規模を拡大させています。現在までに370億ポンドの資金を調達し、130以上の会社に投資を行っています。注力しているセクターには、サービス、ヘルスケア、製造業、金融、消費財、通信・メディア・テクノロジーが挙げられます。

市場規模

当サイトでは、各種調査会社の情報を参考にし、2021年のエレベーター業界の市場規模を993億ドルと推定しています。
調査会社のグローバルマーケットインサイツによると、2021年の同業界の市場規模は993億ドルです。2028年にかけて年平均3%超の成長を見込みます。
調査会社のグローバルマーケットインサイツによると、2020年の同業界の市場規模は823億ドルです。2027年にかけて2.5%での成長を見込みます。
調査会社のプレセデンスリサーチによると2019年の同市場規模は717億ドルです。2027年にかけて年平均6.3%での成長を見込みます。
調査会社のフォーチュンビジネスインサイツによると2018年の同市場規模は701億ドルです。2026年にかけて6.4%での成長を見込みます。
オーチス社の2019年11月付プレゼンテーションによれば、2018年のエレベーター業界の世界市場規模は、金額ベースで750億ドルと推計されています。
世界の稼働エレベーターは16百万台、年間約1百台が新規需要程度です。またフジテックの2020年12月付プレゼンテーションによると、発表時点での世界の年間エレベーター新設台数は100万台と推計しています。台数ベースでは中国が60%の新規需要を担っています。⇒参照したデータの詳細情報

エレベーター会社のM&Aマルチプル

2020年はレイセオンテクノロジーズによるオーチスの分社化とTKエレベーターの売却の2つの大きな再編がエレベーター業界でおこりました。日立製作所による台湾の永大機電工業の買収を併せ、概ね企業価値売上高倍率は1~2倍程度のレンジとなっています。

買手対象会社売手想定企業価値通貨単位売上高倍率
2018日立製作所永大機電工業243億台湾ドル1.5
2020TKエレベーターアドベント等ティッセンクルップ172億ユーロ2.2
2020オーチスUTC(オーチス)レイセオン175億ドル1.4
売上高倍率は企業価値/直近対象会社売上高で計算(⇒参照したデータの詳細情報)©ディールラボ

想定される買手候補

エレベーター業界における主なプレーヤーは日系であれば日立製作所、三菱電機、外資系であればスイスのシンドラー、米国のオーチス(OTIS)、フィンランドのコネ(KONE)です。TKエレベーターを買収した時点で、ほぼ全社が規模において世界1位となる可能性がある、エレベーター業界再編の雷管です。アドベント連合の出口戦略に注目が集まります。

参照したデータの詳細情報について


参照したデータは以下の通りです。リンク切れなどありましたら、お問い合わせのページからご連絡頂けますと大変有難く存じます。

参照した市場規模の情報

調査会社名URL
Precedence Researchhttps://www.precedenceresearch.com/elevator-and-escalator-market
GM Insightshttps://www.gminsights.com/industry-analysis/elevator-market
Fortune Business Insightshttps://www.fortunebusinessinsights.com/industry-reports/elevator-and-escalator-market-100301
Otishttps://www.otisinvestors.com/static-files/be3e15be-5603-49e3-98f6-4b44c03f0fc5
フジテック
出所先の情報

参照した売上高倍率

買手対象会社参照した情報
日立製作所永大機電工業https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2018/10/1026b.html
TKエレベーターアドベント等https://www.thyssenkrupp.com/en/newsroom/press-releases/thyssenkrupp-sells-elevator-technology-business-for–17-2-billion-to-consortium-of-bidders-led-by-advent–cinven-and-rag-foundation-19840.html
オーチスUTC(オーチス)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1781335/000114036120002547/nt10003666x11_1012b.htm
出所先の情報

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