カナダの資産運用会社ブルックフィールドはジョンソンコントロールズ から自動車用バッテリー事業(現クラリオス)を132億ドルで2018年に買収しました。ジョンソンコントロールズは自動車関連事業のすべてを売却し、タイコとの経営統合で強化したビルディングソリューション事業に経営資源を集中できるようになりました。当該案件は2018年における最大規模の投資ファンドによる買収案件でした。鉛バッテリーの約3割はクラリオス製とも言われ、ブルックフィールドのエグジット次第では、更なる業界再編へとつながる可能性を秘めています。
ジョンソンコントロールズの概要
Johnson Controls(ジョンソンコントロールズ)は、1885年に設立された米国に本社を置く業務用空調制御システム、セキュリティシステム、火災検知システム、ビル管理サービスを提供する会社です。電気式サーモスタットを発明した歴史を持ちます。2016年に火災警報分野に強いTyco(タイコ・インターナショナル)と経営統合をしました。世界150ヵ国で展開し、エネルギー効率ソリューションや各種オートメーション事業を展開しています。自動車用のバッテリー等の分野に強みがありましたが2018年に売却しました。さらに詳しく
Clarios(クラリオス)の概要
クラリオスはジョンソンコントロールズ(Johnson Controls Inc)の蓄電池事業より分社化されて誕生しました。同社は車載用の鉛蓄電池では世界首位級です。エネルギー・資源を極力節減しながら効果的なエネルギーソリューションを提供することに強みを有しています。グローバルでは50超の拠点、16,000人を超える従業員、6拠点にわたるR&D施設、150か国以上をカバーする販売網を有し、鉛蓄電池事業ではVARTAブランドで展開しています。
Brookfieldの概要
Brookfield(ブルックフィールド)はカナダのトロントを本拠地とするオルタナティブ投資会社で、不動産・再生可能エネルギー・インフラ投資のほか、事業会社への投資を行っています。ブルックフィールドのプライベートエクイティ投資では720億ドルの運用資産、100人以上の投資プロフェッショナルを擁しています。同社のプライベートエクイティ投資ではクラリオス、東芝から買収したWestinghouse(ウェスティンハウス)、Multiplex(インフラや不動産の建設請負会社)、Altera Infrastructure(オフショアのエネルギーに関して輸送・生産を行う企業)、BRK Ambiental(ブラジルの水処理会社)などに投資しております。
過去Graftech(グラフテック)にも投資を行いました。Graftechは電気アーク炉鋼の製造に不可欠な黒煙電極の世界的な大手メーカーで、昭和電工や東海カーボンの競合会社です。ブルックフィールドは2015年にグラフテックを買収しており、2017年には黒鉛電極と石油コークス事業といったコア事業にフォーカスできるよう、ノンコアであるNeografをAterian Investment Partnersに売却しています。ノンコア事業の整理とオペレーション改善により、2018年にニューヨーク証券取引所に上場しました。
市場規模
当サイトでは、各調査会社等の公表データを参考にし、鉛蓄電池業界の2021年の世界市場規模を371億ドルとしております。参照にしたデータは以下の通りです。
調査会社ポラリスマーケットリサーチによると、2021年の同業界の市場規模は371億ドルです。2030年にかけて、年平均5%での成長を見込みます。
調査会社リサーチアンドマーケッツによると、2020年の同業界の市場規模は499億ドルです。2026年にかけて年平均7%での成長を見込みます。
調査会社グランドビューリサーチによると、2019年の同業界の市場規模は589億ドルです。主に車載用電池、据置鉛蓄電池、小型鉛蓄電池等の用途で利用されます。産業別では、自動車、通信、無停電電源、電動バイク、カート等が主要用途となります。
調査会社のGIIによれば、同市場規模は2020年から2024年の間に年平均4%での成長を見込んでいます。EnerSysによれば、2018年の産業用鉛蓄電池の市場規模は104億ドルです。⇒参照したデータの詳細情報
競合会社
米国のエディソングループ(旧エキサイド)やエナーシス、日本のGSユアサ、中国の天能動力や超威動力が大手とされています。クラリオスの買収は、即座に業界の中で突出した1位となります。業界内での再編は独占禁止法の観点から、市場シェアが高くなってしまい、特定分野の事業売却を求められる可能性があります。
鉛蓄電池業界のM&A
業界の再編としては、GSユアサが、パナソニックから2016年に鉛蓄電池事業を買収した案件やフランスの石油会社TOTALによるSAFT社買収が挙げられます。主だったM&A案件は下記の通りです。アドバンテッジパートナーズと昭和電工マテリアルズの鉛蓄電池事業の案件を除けば、売上高倍率では概ね2倍前後です。
年 | 買手 | 対象会社 | 企業価値 | 通貨 | 売上高倍率 |
---|---|---|---|---|---|
2021 | アドバンテッジパートナーズ | 昭和電工マテリアルズ | 600 | 億円 | 0.6x |
2019 | 天能動力国際 | 天能バッテリー | 14 | 億ドル | 2.2x |
2018 | ブルックフィールド | クラリオス | 132 | 億ドル | 1.7x |
2016 | トタル | SAFT | 9.5 | 億ユーロ | 1.4x |
2016 | GSユアサ | パナソニック鉛蓄電池 | - | - | - |
エグジットの方法
ブルックフィールドの出自はインフラストラクチャーや不動産への投資を行うインフラ系のファンドですが、グラフテックやクラリオスのように、業界トップシェアではあるものの、十分に事業ヘの投資が行われていない会社を買収し、バリューアップを図っていくプライベートエクイティ事業も展開しています。考えられるエグジットとしては、独占禁止法上クリアすべき点もあるので、業界内でのM&Aよりも、グラフテックのようにIPO(株式公開)を志向するかもしれません。
参照したデータの詳細情報について
参照したデータは以下の通りです。リンク切れなどありましたら、お問い合わせのページからご連絡頂けますと大変有難く存じます。