米国のアクティビストファンドであるエリオットマネジメントが、2020年6月12日にNNグループ経営陣に対し公開株主提案「その時はきた」を公表しました。(⇒参照したデータの詳細情報)
エリオットマネジメントは、欧州有数の保険会社であるNNグループに対してどのような企業価値向上策を提案したのかについて分析をしています。
NNグループについて
NNグループは、オランダに本拠を置き、1845年に設立されたネーデルランデン保険会社が源流です。NMBポストバンクと合併し、INGグループなりましたが、その後保険事業が2016年にNNグループとして分社化独立しました。欧州を地盤とする大手保険グループですが、保険料収のトップ10にはまだ入れていません。参照:「保険(生保・損保)業界の世界市場シェアの分析」
特に、最大手クラスの保険会社アクサと比較すると、収入、収益、資産規模でまだ差がついていることがわかります。
(億ユーロ) | NNグループ | アクサ |
---|---|---|
保険料収入 | 144 | 845 |
当期利益 | 14 | 27 |
総資産 | 371 | 746 |
出所:両社会社資料からディールラボ作成
エリオットマネジメントについて
Elliott Management(エリオットマネジメント)は、ポール・シンガー(Paul Singer)氏率いるヘッジファンドです。ディストレス戦略を得意とし、アクティビストとしても有名です。過去豪英資源大手のBHPグループに対する米石油事業の分離、米国の通信タワー大手であるクラウンキャッスルや韓国のサムスン電子への特別配当の支払い、塗料大手アクゾ・ノーベルの会長解任等を要求しています。
提案の骨子
2020年のエリオットマネジメントによる提案骨子は、1)キャッシュ創出と2)株主還元の2点です。
エリオットマネジメントは、NNグループを高く評価しており、その理由は欧州の保険会社の中でも、①予測可能性の高いキャッシュフローにより高いソルベンシーカバレッジレシオを有していること、②金利のエクスポージャー(金利ヘッジ)が上手く行われていること、③非常に低い信用リスク、④安定的かつ予測可能性の高い負債等となっているとしています。
一方、上記の企業としての強みをもってしてもなおNNグループは株式市場で過小評価されているとして欧州の上場している保険会社の中で最も割安であるというメッセージも打ち出し、キャッシュ創出やペイアウトによって企業価値向上を目指すべきとのメッセージです。
キャッシュ創出
NNグループの日本事業売却とスペインの生命保険事業の撤退を含め、資産の最適化、業務の効率化・最適化を推し進めることにより5年間にわたり70億ユーロのキャッシュを創出することを提案しています。日本事業に関しては、JPモルガンのアナリストのコメント、「NNグループの日本事業はグループ全体のシナジーを考えた際に価値を生み出していないと言及」を引用し、15億ユーロのアップサイドがある日本事業の売却を来るべきキャピタルマーケットデイで明示するよう要請しています。
スペインの生命保険事業に関しては、マーケットが縮小傾向にあるので、当該市場からの撤退、一方成長が見込めるハンガリーの生命保険市場の強化の検討を要請しています。
このように、エリオットマネジメントは欧州と日本というNNグループにとって重要な位置を占めるセグメントに対し地域別に考察を述べており、成長可能性のあるハンガリー市場、それと反対に成長が見込めず撤退を検討すべきスペインと日本市場に関して、株主の立場からコメントをしています。
株主還元
配当に関しては、再保険のバックブック、事業の処分等を含めた30億ユーロを超える株主還元(自己株式の取得等)、2024年までにフリーキャッシュフローの80%を配当に用いるような配当政策を実施、250百万ユーロの自己株式取得等の資本政策を提言しています。
NNグループとエリオットの双方の対話
エリオットマネジメントの事業売却や配当拡大に対し、NNグループは業績に応じた配当を支払うことの重要性を主張しています。特に、保険業等の規制当局によるソルベンシー規制が大きい保険会社は、一般の事業会社と異なり、規制当局の差配によりソルベンシー基準が急に変わることも想定され、余剰資本に見えるものが実際には規制を遵守するためのバッファーとして機能し、余剰資本ではないと主張し、エリオット側の過度な配当をけん制しています。
株価等から考察するインプリケーション
NNグループの株価推移は上記の通りである、エリオットマネジメントによる株主提案があった2020年6月以降、株価は徐々に上昇傾向にあり、現在の株価は40ユーロ近くまで達しています。同社の株価はコロナで一旦底値の20ユーロまで下がったものの、その後エリオットマネジメントによる株主提案等のイベントも含めて上昇傾向にあります。
バリュエーションに関してもS&P Capital IQによればPBR(純資産倍率)は2021年2月22日時点で0.3x、EV/LTM EBITDA(企業価値を直近12か月のEBITDAで割った値)は4.5x、LTM PER(直近12ヶ月のPER)は8.3xとなっています。エリオットマネジメントによる株主提案の後もPBRは低水準であるものの、エリオットマネジメントによる提案後のLTM P/Eレシオはそのタイミングを境にして(2020年6月以降)は、順調に増加している傾向にあり、現在では2020年6月の4.67xから8.25xに増加しています。
参照したデータの詳細情報について
参照したデータは以下の通りです。リンク切れなどありましたら、お問い合わせのページからご連絡頂けますと大変有難く存じます。